二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【二次創作】泡沫【短編集】 ( No.224 )
日時: 2013/03/05 21:42
名前: 雲雀 (ID: Ma3wYmlW)

【Please tell me my thought】



 けたたましいサイレンの音が、進行方向とは逆の方向から鳴り響いてきた。
 その音に肩をすくませながら、後ろを歩いていた彼を振り返る。
 案の定、彼はサイレンの音がする方へと顔を向け、その歩みを止めていた。

「はずれ、みたいだね。残念」

 今まで自分たちが向かおうとしていた方向を指さして笑えば、彼は僕の顔を見た後、小さくため息をついた。

「元々こっちは望み薄だったんだ。それに、今回の件はキドの能力があった方がやりやすいだろ」

 近くの壁に寄りかかりながら、彼はさも当然のようにそう言い捨てた。
 その反応に僕は、んー。と首を傾げる動作をする。
 あくまで憶測の範囲だが、彼ぐらいの脳なら、立地やら彼らの研究内容やらで地理学と経済学を結びつけて、こっちの方はないと断定する事が出来たんじゃないだろうか。
 先ほど彼は「望み薄」と言ったが、それだって彼の判断だ。
 それを誰に習うでもなくやってのけるのだから、やはり『天才』という生き物は侮れない。
 僕はにっこりと笑顔をつくった。

「そうだけどさー、でもなんか暇じゃない?」

「お前の事情なんか知らねぇよ」

「そうだ!じゃあ僕の昔話をするよ」

「人の話聞けよ」

「まぁまぁそう言わず、」

 全部、法螺話だからさ。
 
 濃さを増した夜のせいなのか、それとも相手が彼だったからなのか。
 そのどちらもなのかは、僕にもわからないけれど。
 でもまぁ、暇つぶしには丁度いいだろうから。
  
 不服そうな彼に、また笑みを貼りつけた。

「どうせキド達も終わるまでもう少しかかるだろうし、僕の日頃の愚痴だと思って聞いてよ」

 そう言えば、彼は仕方ないと言ったような顔をして、先ほどしたような小さなため息をもう一度ついてからこちらを見た。
 なんだかんだ言って、彼もまた兄なのだろう。
 今みたいなところを見ると、少し再認識させられる。
 
「あはは、じゃあシンタローくんも真面目に聞いててくれる事だし、ちゃんと話そっか」

 パーカーのポケットに手を突っ込みながら、んー。と思考を巡らせる。

「十年くらい前かな?僕、こう見えても正直者だったんだよ」

「嘘くせぇ」

「え?酷くない?」

「いーから続き」

「えー……」

 ブーブーと不平不満を漏らす僕に、彼は早く。と話の先を促す。
 意外にも興味をもっていてくれているようで、その目つきはいつもより真剣だった。

「まぁいいや……で、そんな正直者の僕が『目を欺く』なんて能力もってるなんておかしくない?」

「真理だろ」

「そこまで言っちゃう?」

 率直すぎる彼の声に笑いながら、淡々と話を進めていく。
 早くって言われたしね。

「それがさー、正直すぎる僕に呆れたのか、ある日、怪物の声がしたんだ」

 『怪物』
 その圧倒的質量をもつ言葉に、彼が目を見開くのがわかった。

「『嘘をつき続けろ』ってさ。それ以来、僕はこんな『嘘つき』になったんだ」

 大袈裟な手ぶりで自分をさせば、今でもあの時の声が耳に蘇るようだった。
 

 ——嘘をつき続けろ。


 今思えば、そんな声を鵜呑みにしてこの能力に溺れている僕もどうかとは思うけれど。
 まぁ、何を思っても今更だろう。

「それはもう、騙せない人や物なんてないくらいに、ね」

 そこまで言って、深く息を吸う。そして、吸い込んだ空気を、ゆっくりと吐き出した。

 さて、ここからのお話はどうしようか。
 正直に言うと、かなり悩んでいる。
 彼に、どこまで伝えていいのか。
 彼に、どうやって伝えたらいいのか。

 欺いたまま彼の顔を見れば、その思考が無駄だった事に気づく。

 ——きれいな目だった。
 全てを受け止めてくれるような、そんな目。
 その目にため息をつきながら、星の少ない空を仰ぐ。

「いつの間にかさ、僕自身が『怪物』に成り果てちゃったんだ」


 もっと聞いてほしい。
 僕の本心を、嘘をつかないと生きていけない我儘を。
 そして、見つけてほしい。
 いなくなってしまった、この嘘の理由と、本物の僕を。
 他の誰でもない、彼に。


 『寂しい』の、たった一言を。
 

「こんなどうしようもない僕なんて、もう救いようがないかな?シンタローくん?」

 冗談口調で言った声は、夜風に飲まれて消えていった。
 沈黙に耐え切れずに口を開いたが、耳に届いたのは僕のものではない声だった。


「受け入れればいい」


 静かなその声は、脳を麻痺させるには充分な威力をもっていた。


「受け、入れる……?」

 反復すれば、彼はこちらを見て小さく頷く。

「偽ってようがなんだろうが、お前はお前だ。それでも、その塗り固めた『嘘』をお前が嫌うなら、その逆を見ればいい。そこに、本当のお前がいる。簡単すぎて、問題にもならないだろ?」

 そう言って、慣れていないのか、彼はぎこちない笑みで笑った。

 
 ——あぁ、ミスっちゃった。


 もっと早くに、気づいておくべきだったかな。



「じゃあ、見つけてみなよ」



 彼が、優しい人間であることに。



(真っ直ぐな目も、優しい目も、)
(僕には眩しいくらいで、)









■後書き

 入試があったので、中々来られませんでしたすみません。
 シンタローとカノさんのお話が書けて楽しかったです。
 後半に行くにつれて文の拙さがが際立っておりますが、許していただけらと思います。普段から文を書く能力がないのと、今回はリハビリも兼ねているので言い訳ですすみません。
 「夜咄ディセイブ」を聞いたときから書こう書こうとは思っていたんですが、まさかこんなに延びるとは……本当にすみませんでした。