二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【二次創作】泡沫【短編集】(リクエスト募集) ( No.231 )
日時: 2013/04/28 20:19
名前: 雲雀 (ID: Ma3wYmlW)

【君が0になる前に】



「——A弥さん」

 聞き慣れた声に振り返れば、D音が後ろで手を組んで立っていた。
 D音が僕に声をかけてくるなんて珍しい。
 不思議に思いながら、身体ごとD音に向けた。

「何……?」

 自分で言って、自分で驚いた。
 蚊のなくような声とは、こういう声の事を言うのだろうか。
 僕の喉からは、声と呼べる声が出てこなかった。
 風邪でも引いたんだろうか。
 一人で考え込んでいると、D音が少し俯いた。

「声……出てませんね」

 今起きた事をありのまま言葉にされ、どう答えていいか分からなくなる。
 しかし、僕が声を出すまでもなく、D音が次の言葉を放った。

「C太さんの、ことですか?」

 そう告げた彼女は、とても苦しそうだった。
 あいつが死んで、もう一週間ほど経ったが、まだ、実感は湧いてこない。
 そのうち、ひょっこり現れるんじゃないか。
 そんな事を、思って、願ってしまっている。

「……これ、」

 D音が何かを差し出してきた。
 視線を向ければ、なんの変哲もない、ただのケータイがあった。
 それが、C太の物である、という事以外は。

「こ、れ……なんで、君が……」

 思った事をそのまま伝えれば、D音は少しだけ微笑む。

「C太さんの第一発見者……実は私だったんです。あの人の事ですから、ケータイに何かしら残してると思って……A弥さんに。そんなもの、警察の方に聞かせる訳にはいかないじゃないですか」

 C太が、僕に?
 渡されたケータイをまじまじと見つめる。
 ついこの間まであいつが使っていたケータイは、今はもう主を失い、誰にも、何も伝える事は出来ない。

「私が伝えたかったのは、それだけです。それでは」

 長い髪を揺らしながら去っていく後ろ姿を見送りながら、ケータイの電源を入れる。
 放課後とは言えまだ日が高い屋上では、ケータイの画面が掠れて見えた。

「……っ」

 画面のトップは、僕のものと同じだった。
 口元が歪む。

 C太が僕に残したもの。
 ケータイでやるとしたら……録音か。

 音のしない画面で、録音と表示されたアプリに指で触れる。
 6月××日。彼がいなくなった日の日付があった。
 再生ボタンを押して、ケータイを耳にあてる。

 ザーザーと、酷いノイズが耳に響く。
 十数秒後、突然それが途絶え、懐かしい、彼の声が聞こえた。



『A弥』

 もう、聞くことはないだろうと思っていたその声。
 思わず、ケータイを取り落としそうになった。

「C——!」

 その名前を呼びかけると、微かな吐息と共に、その言葉が聞こえた。

『ごめんな……』

 彼とは思えないほど、小さな声だった。
 そこで、録音は途切れる。

「馬鹿じゃないの……」

 ごめんなって、何言ってるんだ。あいつは。
 そんな事、言うくらいなら、最初から。

「分かんないよ……」

 いつも楽しそうに笑っていた君が、飛び降りた訳も、ごめんなと声を残した意味も。
 寧ろ僕の方が、いつ飛び降りたっておかしくなかったじゃないか。
 どうして、ねぇ、どうして。



「どうして……隣にいてくれないの……」



 君となら、この平凡な毎日も悪くないって、思い始めたばかりだったのに。






(さよなら、ごめんね、ありがとう)
(待って、まだ、何も伝えてないのに)









■後書き

 一ヶ月も放置してしまいました御免なさい……。
 高校が思った以上に忙しくて、小説を書く気力が持てませんでした。
 しかもリハビリという事でかなり酷い小説に……シリーズはこれが最後です。後々、直していきます。
 最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。