二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 【二次創作】泡沫【短編集】 ( No.34 )
- 日時: 2011/09/25 12:02
- 名前: 雲雀 (ID: VEcYwvKo)
- 参照: http://www.youtube.com/watch?v=XQ19HOuSCgg&feature=related
【二人の彼】
秋の夕暮が世界を彩る図書室の中で、初めて彼に出会った。
声をかけることさえ躊躇われるような、本当に綺麗な人だった。
静かな空気の中に溶け込むような穏やかな雰囲気。
沈みゆく夕日に照らされ、より一層輝きを帯びる白い髪。
その先に何を映しているのか分からない、涼しげで、でもどこか寂しげな金色の瞳。
世界にはこんなにも綺麗な人がいるのだと、その時初めて思った。
「……そんなに、離れていては濡れてしまう。もう少し、近くに」
そう言って、祐一先輩は私を引き寄せる。
先輩の確かな温もりがそこにはあって、私の意思とは関係なく、鼓動は勝手に脈を打つ。
居心地のいい、静かな空気。
こんなにも近くで触れ合っているのに、私達の心は重なり合うことなく、近づけば近づくほどに離れていく。
——————————……先輩は、ずるい。
「先輩は、ずるいですよ」
無意識のうちに、唇が動いていた。
この人は本当にずるい。
自分には心を傾けるなと言うのに、私にはこんなにも優しくする。
あなたの心が見えない。
今あなたは、何を思っているのだろう。
底知れない悲しみを宿した瞳の先に、あなたは何を映しているのだろう。
あなたの気持ちを知りたい、理解したいと願うのに、心はどんどん離れていって……——————————
もどかしい感情に、私は涙を流す。
どうしようもないくらいこの人のことが好きなんだと、思い知らされた。
柔らかな秋の陽射しが窓から差し込む廊下で、初めて彼と出会った。
女の子のような可愛らしい容姿に違わない、優しくて温かい人。
心配そうにこちらに向けられた、黒曜石のような大きな瞳。
腰にまわされている、包み込んでくれるかのような頼もしくて華奢な腕。
綺麗に梳かれていて、撫でたら心地よさそうな淡い色の髪。
人形のように可愛らしい男の子だと、不安げに揺らめくその瞳を見つめながら思った。
「僕は……僕は、先輩、あなたを守りたい」
優しく抱きしめてくれるその腕が、どうしようもなく切ない。
どうしていつも、こんなに優しいのだろう。
張り詰めていた気持ちが、どんどんほどかれていくような感覚。
弱くなりたい時に限って、彼は傍にいてくれる。
——————————……あたたかい。
真っ直ぐな目で私を見つめながら、あなたが大切だと、彼は何度も告げてくれた。
その度に、涙が出そうになる。
いつも私のことを理解してくれて、弱さも受け入れてくれる優しい人。
心を救われる、曇りのないその笑顔だけは絶対に傷つけたくない。
そう思うのに、彼には笑っていてほしいと、そう願うのに。
私の心は、彼を選ぼうとしてくれない。
大切なのに、大好きなのに、愛してくれるのに。
私の心はやはり、あの人を選んでしまう。この人を好きになれたなら、どんなにいいだろう。
愛される方が、“ 幸せ ”になれるって、分かっているのに。
心がいうことを聞かない。
どんなに傷ついても、私はあの人を選んでしまう。
「心配した。無事で、なによりだ」
先輩の心が分からない。
突き放したと思えば、また寄り添うように、あたたかい言葉をくれる。
不意に、泣きたくなった。
先輩、あなたは玉依姫としての私を守ってくれているのでしょうか。
それとも、私を私として、守ってくれているのでしょうか。
先輩の本当の心を知りたい。
誰よりも傍にいたいと願うのに、優しい拒絶が怖くて、踏み込むことが出来ない。
“ 化物だから ”
そんな不器用な優しさが、どうしようもなく愛しくて、同時にどうしようもなく切ない。
あなたがあなただから好きなのに、化物だとか、そんなことは関係ないのに。
「今はただ、一番そばにいる俺を、好きだと錯覚しているだけだ」
この想いが錯覚ならば、身を裂かれるようなこの胸の痛みはなんなのでしょうか。
玉依姫と守護者。たったそれだけの関係の為に、想いを告げることさえ叶わないのでしょうか。
堪えていた涙が溢れる。
胸が痛い。
拒絶されれば拒絶される程、痛みは強くなる。
優しくされれば優しくされる程、悲しみは深くなる。
いっそのこと、“ 嫌いだ ”とはっきり言ってくれれば、心に区切りをつけられるのに。
あなたは私を遠ざけながらも、優しい言葉を与え、守ろうとする。
伝えることの出来ない想いに、私はただただむせび泣く。
この人のことが、どうしようもないくらい好きなんだと、思い知らされる。
二人の彼、どちらも私には大切な人。
でも私は、愛してはくれない人を選ぶの。
(“ 幸せ ”を理解していても、)
(心だけは、あなたを呼んでいるから)
■後書き
藤田麻衣子さんの「二人の彼」を聴いていて思いつきました。
この二人の彼の雰囲気に合うのが祐一と慎司だったので、二人になりました。「守りたい人」の方も書きたいと思っています。