二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【二次創作】泡沫【短編集】 ( No.38 )
日時: 2011/09/17 21:06
名前: 雲雀 (ID: VEcYwvKo)

【境界線】



——————————愛してる。



画面越しに愛を囁かれるだけで、こんなにも切なくなる。
けれどそれは決して私に向けられたものではなくて、この物語の主人公に向けられた言葉なのだろう。

そのことを理解していても尚、私はそれに手を伸ばす。
好きなものは好きだから、仕方ないと自分でも思っている。

それに、こういうものの主人公は本当に素敵だから。
現実にはあり得ないくらい、心が綺麗な女の子。
女の私でさえ、焦がれてしまうくらいに。
きっとこんな子だから、最後には「幸せ」になれるんだろう。

私とは無縁な世界すぎて、笑みが毀れてしまう。
少なくとも、私の近くには、こんなに綺麗な恋愛はない。

そもそも、現実では想いさえ伝えることが出来ずに終わることもあるというのに。
もしかしたら相手は、自分の存在になど気付いていないのかもしれないのに。
ゲームのように出来すぎた恋愛なんて、現実にはあり得ない。

決してゲームのことを馬鹿にしているのではなくて、本当にそうだから。
この世で幸せになれる人間なんて限られている。
皆が平等に幸せになれる世界なんて、この世には存在しない。

ゲームでもそうなのかもしれない。
主人公がいるところは幸せになる、でも、敵である人間はどうだろう。
たったそれだけの“ ずれ ”で、幸せになれるかなれないかが決まる。



不平等な世界。
この世に生まれることが出来ただけでも、「幸せ」なことなのかもしれない。
でも、重い病気にかかった人はどうなのだろう?
中には、病院にさえ行けずに、亡くなる人もいる。
人々から疎まれ、迫害される場合だってある。
目が見えない人は?
美しい色も、光も、世界も、大好きな人の笑顔も見れない。
耳が聞こえない人は?
自然の音も、人が奏でる音も、愛しい人の声も聞けない。
自由をなくした動物達は?
自然の中で自由に生きることを許されず、人間に殺されることに怯えながら生きていく。

代われって言われて、代われる人なんているのだろうか。
少なくとも私には、そんな勇気はない。


          “ 可哀想 ”


そんな同情、感情が薄れてきた私にだって出来る。
でもそれ以上は出来ない。

こんなことを言ってる私の言葉でさえ、ただの自己満足に過ぎない。
「幸せ」が限られたこの世界に、私は絶望しか見いだせない。



だからこそ、こことは違う、別世界に惹かれたのかもしれない。
結局私は、ゲームの世界が好きなんだ。

もちろんゲームの中にも、私利私欲の為に生きる人間がいて、くだらない考えをもっている。
でもそれは辛い過去からのせいであることが多い。
そんな過去をもっていて、狂うことを許されない方がおかしい。
最後には、いなくなってしまう可能性の方が高いのだけれど。

主人公は大切な人と幸せになる。
ある物語では、犠牲になった人達の分も幸せになろうね、って。
ある物語では、これから二人で幸せを作っていこうね、って。
いくら辛いことに直面してきたからとはいえ、気楽だな、と思ってしまう私は心が汚れているのだろう。

犠牲になった人達。もう戻らない命に、何を告げればいいのかなんて、この世の人間には分からない。
幸せ。それを掴めなかった人達に、何を告げればいいのかなんて、幸せな人間には分からない。

この世には分からないことだらけで、息をするのさえ、私には苦しい。
だから私は、醜い部分がほとんどないあの世界に焦がれた。
ただ大切な人に、愛を囁かれるあの世界に。

それは私が、現実では想いを伝えることの出来なかったあの人に、彼らを重ねているからなのかもしれない。
だからか、と私は心のどこかで思った。
こんなにも私の心が廃れていったのは、壊れていったのは、
画面越しの声を聞くだけで、切なくなったのは————————————————————



今でも私が、あの人のことが好きだからかもしれない。



あの世界への想いなんて、
 泡沫の想いに過ぎないのだろう。
けれどいっときでも、
 私はあの世界の彼を愛しいと想った。
主人公の想いに重ねた、
 あの人への想いが、
どうしようもなく切ない。
 忘れたかったんだ。
想っていても仕方ないから。
 幸せになれる人間は限られている。
あの人が見ているのは私じゃない。



(でも、それでも、)
(想い続けていたかった)



誰かに愛してもらえるほど、私の心は綺麗じゃない。









■後書き

突発的に書きたくなりました。
なので文章がいつも以上に酷いことになっています。