二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【二次創作】泡沫【短編集】 ( No.46 )
日時: 2011/09/24 23:45
名前: 雲雀 (ID: VEcYwvKo)

【傍に、と消える声/拓磨×珠紀】



幼い頃から、ずっと傍にいた。

私が泣いている時、彼は“ 泣かないでくれ ”と言って、頬に流れる涙を拭い、悲しみを分かち合ってくれた。
私が笑っている時、一番近くにいて、幸せを分かち合い、優しく微笑んでくれた。
どんなに傷ついても、最後まで逃げ出さず、私を守ってくれた。

彼は私にとって、かけがえのない大切な人だった。
本当は一人でなど、行ってほしくはなかった。

どうして彼は、私に何も教えずに、行ってしまったのだろうか。






「……どこに行かれるのですか?」

躊躇うように、口を開く。
夢を見た。見知らぬ森で、彼が——————私の大切な人が、倒れている夢を。

そのことを彼に伝えると、彼は何かを悟ったような表情をしてから、静かに微笑み、

「さよなら」

それだけを、私に告げた。
振り向きもせず去っていく彼の後ろ姿を、ただ見送ることした出来なかった。

行かないで、そう言いたくても、その言葉は声にならなかった。
今までずっと傍にいたのに、何故あなたは————————————————————






長い年月が過ぎた頃、不意に、懐かしい彼の意識を感じた。
その方向へと足早に歩を進めていく。

——————会いたい、彼に。
ただその一心で、私は歩き続けた。

太古の昔よりこの季封村に根付く森の奥深く——————彼は眠るように、木の根元に横たわっていた。
その身体は深い傷を負っていて、ぬくもりは既に失われていた。

「何故……どうして、こんな……っ」

彼の手を握り締める。
幼い頃、何度も繋いだあたたかな手。
今まで何度も、私を守ってくれた優しい手。
大好きなその掌からは、もう私以外のぬくもりは感じられない。

「どうして……あなたが……っ!」

彼の表情を見れば、とても安らかで、微笑んでいるようだった。
幼い日の彼の笑顔と重なって見えて、もう二度と逢えない辛さが心を支配する。

彼が私に微笑みかけることは、もう二度とないのだと、そう深く思った。
その優しさに、もう二度と、触れられることはないのだと。

涙が溢れる。優しい彼との記憶が、今はこんなにも痛い。
優しい記憶に触れようとする度に、指先を酷く切り裂かれたような痛み。

蛍が舞う。
まるで、彼の魂を常世へ誘うように。

「待って……待って!彼を……彼を……っ!」



——————————連れて逝かないで……。



本当は、分かっていたのかもしれない。
それでも、気付きたくなかった。
彼が、生きて帰ってはこないということを。



「拓磨……拓磨ぁ……っ!」

堪えていた涙が勝手に溢れだす。
呼吸の度に、口から血液が流れていく。
呪いなんてどうでもいい。
私の命なんて、どうなってもいいから。

無事に帰ってきてほしい。また私に、大好きなその笑顔で笑いかけてほしい。
それだけで、私は頑張れるのに。

こんなの……悲しすぎる。
大切な人への想いも告げず死んでいくなんて、幸せなはずがない。
思わず、その書物を抱き締める。

「たく……ま……っ!」

口を開くと、声が嗚咽に変わってしまって、上手く彼の名を呼べない。
それでも、私は呼び続ける。

「た、く……拓磨ぁ……っ!」

今泣いているのは私なのか、それとも1000年前の玉依姫なのか……私にも分からない。
ただ一つだけ言えることがあるとすれば、きっと愛していたのだろう。彼女も、彼のことを。
一番近くにいるのに、想いは通じ合わないまま。



彼が最後に言った言葉が、私と拓磨に重なって思えた。


          “ さよなら ”


どんな想いで彼は、その言葉を彼女に伝えたのだろう。
どんな想いで彼女は、その言葉を受け止めたのだろう。


傍にいたかった。
他の誰でもない、彼の。



「お前に会えて、本当によかった」

待って……、お願い……。

「今までありがとう」

お願いだから……、

「さよなら」

私を置いて行かないで……、傍に……っ!



「傍に……いて……」



大切な言葉を告げられないまま、
 彼は二度も、私の傍を離れていってしまった。
私だって、あなたを守りたいのに。
 あなたはいつも、自分ばかり犠牲にする。
ただ傍にいてくれるだけでよかったのに。
 あなたがいない世界なんて意味がない。
この命と引き換えにしてでも、私が守りたかったもの。
 それはあなたなのに。
守護者なんて関係ない。
 ただあなたのことが、この世で一番大切だった。
この世で一番愛しかった。

ただ、あなたのことが————————————————————



二人の少女の意識が重なる。
霞んでいく視界の先に、あなたの笑顔を見た気がした。



(過去も現在も、)
(私の想いは、あの人の心へ届かない)









■後書き

強引に文を繋げていったせいで、かなり酷いことになっています。
玉依姫と1000年前の鬼崎家の守護者の話、拓磨と珠紀の話、この二つを重ねて書いてみました。
映し鏡の「星が舞う」と、拓磨が陰の世界へ一人で行ってしまった部分から言葉をお借りしています。
切なすぎて、この部分で号泣しました。一番好きな祐一ルートよりも泣きました。