二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【二次創作】泡沫【短編集】 ( No.50 )
日時: 2011/10/02 01:51
名前: 雲雀 (ID: VEcYwvKo)

【いつかの温もり】



あなたは今、どこにいますか。
大好きなそのぬくもりと共に、この世のどこかで笑っていますか。


(空に浮かぶ三日月は微笑むばかり、)
(あなたの行方は分からないまま、時だけが過ぎていく)


「この子の名前はシャッポ、シャッポよ!可愛いでしょ?」

そう言いながら、微笑んだあなた。
初めて名前を与えられた、その事が嬉しかった。
あなたが名前をつけてくれた、その事が嬉しかった。

「ずっと一緒よ!」

ぎゅう、と痛いくらいに抱き締められる。
自分を包んでくれるその腕が、ぬくもりが、自分にとって何よりも愛しい。

……違和感?
自分はこのぬくもりを、どこかで知っている気がした。



—————————やがて月日が経ち、彼女は自分を呼ばなくなった。
抱き締めるぬくもりはどこかへ行ってしまい、部屋の片隅でただ空に浮かぶ三日月を見つめる日々が続いている。


          “ ずっと一緒 ”


あの言葉は、どこへ消えてしまったのだろう。
その言葉を信じて、あなただけの人形として、ここにいるのに。

「もうぬいぐるみとか片付けなくちゃ」

言葉と共に、追いやられた部屋の隅。
それが、あなたのぬくもりに触れた最後の日。


なんとなく分かった。
これで自分の役目は終わりなのだろう。

人形はこてん、と壁に寄りかかった。
そういえば、もう眠くなってきた気がする。
身体は薄汚れ、瞳は曇ってきた。
この世に生まれた日から、もう長らく眠っていなかった。


そこでふと思い出す。
自分をこの世につくりだしてくれた人のことを。


ああ、そうか。
自分が感じたあの時の違和感は、自分をつくりだしてくれた人のぬくもりを覚えているからか。

不意に、涙が零れる。
曇ってきた瞳に、輝く涙。
人形から涙など流れるはずもないのに、何故。


顔も覚えていない。
 声すらも覚えていない。
名前も分からない。
 ただ覚えているのは、
この名前をつけてくれたのは、
 その人だったということ。
自分に触れるぬくもりが、
 何よりも優しくて、
何よりも愛しかったということ。


ああ……会いたい。
私をつくりだしてくれたその人に。
きっと自分を愛してくれたその人に。


会いたい。


願いだけが募っていく。
眠れない理由が出来た。

あなたに出会えるその日まで、自分は人形であり続けよう。
あなたがつくってくれたこの体で、もう一度あなたに会うために。



顔を覚えていなくても、
たとえこの声が届かなくても。

愛してくれたという事実だけは、
この身に残るぬくもりの軌跡が覚えているから。



(静かに眠る夜、)
(私をつくりだしたあなたを思う)









■後書き

「Sentimental Circus」のシャッポのお話です。サーカスの皆と出会う前は、自分をつくりだしてくれた人のことを思っていたのでは……と思って、このような小説になりました。