二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 【二次創作】泡沫【短編集】 ( No.52 )
- 日時: 2011/10/09 13:18
- 名前: 雲雀 (ID: VEcYwvKo)
- 参照: http://nicosound.anyap.info/sound/sm9065929
【秋風恋歌/巡音ルカ】
——————————最期に見た貴女の涙が、この世で何よりも美しく、尊いものだと知った。
本当は涙など見せてほしくはなかった。
彼女は笑顔が一番よく似合う。たとえこの命が尽きるのだとしても、笑っていてほしかった。
けれど、その涙は私のことを想っての涙だと思うと、愛おしくて、彼女の濡れる頬に手を伸ばした。
「泣かないで……」
身体から感覚が消えていくのが分かる。
彼女の傍にいられる時間は、残り少ない。
でも、これだけは伝えなければならない。
私は……————————————————————
在りし日に、貴女と共に歩んだ小径を一人で歩いていく。
隣に貴女はいないから、そっと瞳を閉じて、貴女との愛しい記憶を蘇らせる。
言葉にならない愛しさを歌に託し、棘に触れることになるのだと知っていてもその歌を口ずさんだ。
思い出すのは、貴女の歌声、貴女のぬくもり。
曇りなき瞳、汚れなき想い。
——————————大好きな、貴女の笑顔。
手毬花が色褪せていくように、貴女を何よりも愛しいと思うこの想いが、私の心から消え失せ、逝く前に。
どうか、もう一度、後一度だけでもいい。
手鞠歌を歌う貴女の声を、この胸に響かせて、
緋色の葉が舞い散る中で一人、切に願う。
舞い散る落ち葉はひらひらと、自分の最期を悟り、散っていく。
緑と紅は混じわり合うことなく景色に溶けて、まるで、私と貴女のようだと思う。
つがいとして共に存在しながらも、決して混じわり合うことは許されず、最後には儚く散っていく。
木枯らしが連れ去るひとひら、そのひとひらに乞い願う。
私の消えない想いを攫って、風と共に消えてくれればいいのに。
そうすれば、この身を裂くような胸の痛みも、きっと消えてくれるのに。
でもきっと、その願いは叶わないのだろう。
私が彼女を想う限り、彼女が私を求める限り。
涙が頬を伝う。
貴女を忘れることが辛いのか。
貴女の傍にいられなくなることが恐いのか。
私の心を現すように、時雨が空を包む。
涙で霞む視界の先には片時雨、まるで、泣いているのに笑っているようだと思う。
その光景に、泣き笑いのような貴女の笑顔を思い出した。
風が木々を揺らして、ひと時の交わりを歌う。
決して再びくることのない、貴女との時間。
どれほど大切なものだったのか、今更気付く。
その白い肌に、もう一度だけ触れてみたいと願ってしまう。
終わりを告げる木枯らしに煽られ、散っていく木の葉。
どこか切なげなその響きに、貴女の歌声を思い出す。
胸の奥底にまで響き渡る、優しい貴女の歌声。
——————————嗚呼、どうして。
どうして、こんな時に、あなたを思い出してしまうのだろう。
愛しさが募っていくだけなのに、罪がより深くなっていくだけなのに、何故。
言えない恋はその胸に、癒えることのない傷を重ねたね。
想うだけで罪になるのなら、貴女と出会ったことさえも罪なのでしょうか。
でも、出会わなければよかったなんて思えない。
そう思うくらいなら、何度でも罪を重ねよう。
罪の重さ、私を繋ぎ止めて離さない貴女の楔。
何度世界を嘆いても、何度交わりを紡いでも、その事実が覆されることはないのだから。
消えない愛よ、叶うなら。
せめてこの歌を永久に響かせて。
——————————彼女に届けて、とは云わないから。
舞い散るひとひらはひらひらと、まるで掴めない泡沫の夢のように、この掌から零れ落ちていく。
所詮夢は夢でしかないのだから、ならばせめて、この世に存在できる刹那の時間だけは、貴女を想っていよう。
不意に口ずさむ、貴女が歌った手毬歌。
詠い、詠え、詠う想いを、この歌に隠すことしか私には出来ない。
いくら愛しても底は見えず、傷は深くなり、紡がれていく過ち。
貴女を想うことが罪ならば、貴女を愛することが過ちならば、
私は何度でも過ちを繰り返し、罪を重ねよう。
罪にも似た想いをこの歌に隠し、もう一度瞳を閉じる。
瞼の裏に焼き付いた貴女の笑顔。
袖時雨、その言葉を現すように、私の袖は涙に染まる。
「泣かないで……」
濡れた彼女の瞳から、止めどなく涙が零れる。
違うの、貴女の涙が見たいんじゃない。
貴女の、笑顔が見たいの。
貴女を幸せにするのは私じゃない。
きっと貴女は幸せになれるから、どうか。
泣かないで、私はもう、拭ってあげることができないから。
俯いていないで、顔を上げて、優しい花のような貴女の笑顔を見せて。
この空で、貴女をずっと、見ているわ。
——————————独りになんて、しないから。
染まり逝く、木々のように赤く。
この胸に散る想い、ひと欠片。
忘れることが出来ないのなら、せめてこの胸に仕舞って逝こう。
木枯らしに抱かれ、眠りに尽きたい。
胸に散らす、紅時雨。
貴女と共に見たのは、いつの日だったか。
風は歌う、秋風恋歌。
散っていく想いも、愛した笑顔も、この歌に全て託して、
貴女に届かなくてもいい、知らなくてもいい。
たとえこの身が滅んでも、たとえ世界が終わっても、愛した事実だけは消えないように。
時雨はいつしか風花に変わる。
まるで、私の終わりを告げるように。
風に吹かれ消える想いは、私を濡らしてゆく、恋しぐれ。
——————————最期の言葉は、
貴女に届いただろうか。
■後書き
以前書いた小説のリメイク版です。
丁度季節も、この歌の季節になりましたから。