二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 【二次創作】泡沫【短編集】 ( No.58 )
- 日時: 2011/11/02 18:43
- 名前: 雲雀 (ID: 7aD9kMEJ)
【一番星に消える】
今私達が見ている星の光は、何年も前のものなのだと、理科の授業で初めて知った。
もしかしたら、数年前のものかもしれない。
もしかしたら、数十年前のものかもしれない。
もしかしたら、それ以上前のものなのかもしれない。
星が辿ってきた光の記憶、手を伸ばしても届かない星との距離。
まるで戻れない過去と、その過去に手を伸ばしているようで、酷く胸が締め付けられた。
(星が綴る光の軌跡)
(色褪せていく届かない過去)
初めて君と出会ったのは、今から十二年前の冬。
色素の薄い茶色の髪で、雪のように儚く笑う子だった。
冷えてしまった私の手を温めようと、必死に手を握っていてくれた。
あの頃はまだ幼稚園だったから、私よりも背が低かったかな。
「大丈夫?」
零れそうなほど大きな瞳で、私の顔を覗き込んできた君。
口下手な私は、曖昧に笑うのが精いっぱいだった。
初めて恋を知ったのは、今から四年前の秋。
図書室の窓際で木枯らしに吹かれている君の横顔に恋をした。
開かれた本の表紙はパラパラと風に攫われていって、栞が挟んであるページに次々と重なっていった。
私の存在に気付くと、あの頃と変わらない儚げな笑顔で、
「もうすぐ冬だね」
と言って笑った。
その時初めて、一定のリズムを刻む心臓の音が崩れた。
最後に君の手を離したのは、今から三年前の冬。
初雪が降った日の夜のことだった。
隣同士の家の窓から、
「彼女ができたんだ」
と、照れくさそうに笑った君の笑顔。
その時初めて、心に痛みを感じた。
口下手だから、やっぱり上手いことなんて言えないけれど。
せめて、君の幸せを祈れるように。
「おめでとう」
と言って、小指を差し出した。
君は不思議そうな顔をして、「何?」と聞いていた。
「彼女と絶対に幸せになるって約束」
慣れない笑顔を浮かべると、君も笑ってくれた。
それが、君に触れた最後の日。
君と出会ったその日から、君と別れたその日まで、恋人なんて甘い関係になったことはないけれど、
きっとその間、私の心にはいつも君がいた。
星の光が辿る時間に比べれば、私が彼を想っていた時間なんてとても短い。
でもね、想いの深さなら、負けない自信があるよ。
もし今私の目の前で瞬いた星の光が十二年前のものならば、もう一度、私をあの日へ返してください。
もう一度、あの窓で君と約束した日へ返してください。
——————————今度はきっと、好きだと伝えるから。
星が辿ってきた時間に思いを馳せても、通り過ぎてしまった過去には戻れない。
辿りつけるのは、運命と必然と、想いだけが交錯し合った未来。
星に手を伸ばしても、地球から届くなんてまずあり得ない。
過去に手を伸ばすことと酷似していると思った。
でもどうしてだろう。
星に手を伸ばすことよりも、
君との優しい記憶に触れることが、今の私にとって一番辛い。
もしあの星が瞬いた瞬間に戻れたなら、今を少しでも変えられたかな。
(星への距離と戻れない過去、)
(伸ばした指先は、空虚を煽るだけ)
(一番星に消える、儚い望み)
■後書き
ハロウィン企画のこと考えてたら中々更新出来ませんでした。
昨日、星を見てて思いついた小説です。