二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 【二次創作】泡沫【短編集】 ( No.6 )
- 日時: 2011/11/08 22:47
- 名前: 雲雀 (ID: 7aD9kMEJ)
【永久の軌跡/総司×千鶴】
「……これは……?」
彼の遺品を片付けていると、未開封の文らしきものが出てきた。
どこにも差出人の名前は書いておらず、ただきれいに折りたたまれているだけの文。
そっと開いて、内容を確認する。もしかしたら、大切な文なのかもしれない。
その文の冒頭には、忘れられるはずのない字で、こう書かれていた。
【拝啓 千鶴】
「私……に……?」
声が震える。けれど、彼が残してくれたものを、読まない訳にはいかない。
勝手に流れてくる涙を何度も着物の袖で拭いながら、文に目を通した。
そこには、新選組に入ったばかりの時のことや、病のことを知ってしまった時のこと。
彼の不安や想い、全てが綴られていた。
「総司さん……」
無意識のうちに、口から大切な人の名前が零れる。
彼が残した言葉のどれもが、自分の心を掻き乱す。
「総、司……さん……っ」
どうしようもなく、切ない。
彼が自分を愛してくれていたという事実が、でもそれ以上に、愛しい。
彼の言葉、温もり、声、笑顔、その存在全てが。
『……千鶴。君が好きだよ。心から愛してる』
もう二度と聞くことのできない声。でも、彼の想いに触れているだけで、すぐ傍に彼がいるような気がした。
「私、も……愛してます……心、から……っ!」
無意識のうちに、涙が頬を伝う。
それは悲しみからくるものなのか、切なさからくるものなのか、愛しさからくるものなのか、自分にも分らない。
ただこれだけは分かる。
彼は今でも自分の傍にいて、自分を愛してくれているのだと。
ふわりと、風が頬を撫でた。
まるで、“ 泣かないで ”とでも言うように。
「総司……さん……?」
文の最後には、彼の優しい想いと共に、こう書かれていた。
『君がこの手紙に気付いた時——君が流す涙が、どうか少しでも幸せなものでありますように』
裂くような胸の痛み。我知らず涙は流れ、嗚咽が耳に響く。
「幸せ……でした……っ」
あなたに出逢えたことが、あなたと過ごした日々が、あなたの温もりに触れられたことが。
あなたの傍に……共にいることが出来たことが、幸せでした。
「そ、じ……さ……っ」
もう逢えないということが、もう思い出をつくれないということが、もう触れられないという事実が、心を蝕む。
けれどあなたと出逢えた奇跡を、憎むことなんて出来ない。
愛した分だけ、苦しみは大きくなる。それでも構わなかった。
愛しい人の文を胸に抱きしめ、紙に筆を走らせる。
そして、彼が花冠にして自分に送ってくれた花を、そっと包む。
——————————愛しています……永遠に……。
心の中で、小さく呟く。
文は炎に包まれ灰と化し、空の彼方へと消えていく。
この想いは、あなたの元へ届くでしょうか。
「どうか……」
どうか、彼の元へと届きますように。
一人で見る景色は寂しいから、せめて、想いだけは傍に。
自分を包むような柔らかな風に抱かれ、静かに瞳を閉じた。
■後書き
随想録の手紙を読んでいて、その後の千鶴を書きたくなりました。
きっと先に逝ってしまうけれど、それでも千鶴は愛し続けていると思います。