二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【二次創作】泡沫【短編集】 ( No.65 )
日時: 2011/11/12 17:44
名前: 雲雀 (ID: 7aD9kMEJ)

【懺悔と後悔】



「ねぇ、」

そう母に声をかけたら、「何」と鬱陶しそうに返された。
兄と話している時には、そこまで嫌そうな顔はしないのに。
そんなに私が嫌いですか。

「……やっぱり何でもない、」

そう言い残して、リビングを後にした。
母曰く、私のような子は面倒らしい。
自分とは全く正反対の性格をしているから。
そんな事を言われても、ああそうとしか言いようがないのだけれど。

なら私が消えればいいのだろうか。
そうすれば、何もかも丸く収まるのだろうか。
母がいちいち鬱陶しそうに私を見ることもなくなるのだろうか。
吐き気がするほど嫌いなあの眼を見ずに済むのだろうか。



          「 あんな子産まなきゃよかった 」



母は昔、父と喧嘩をする度にこの言葉を口癖のように言っていた。
あんな子、というのは私のことで、兄のことじゃない。
確証?母がその言葉を発する前、ずっと私の悪口を言い続け、ずっと私のことを罵り続けたから。
どうして私はこうもタイミングが悪い時に起きてしまうのだろう。
目覚めなければ、こんな一部始終を見なくて済んだのに。
兄は隣のベッドでぐっすりと眠っている。
吐き気がした。

たまに物を投げられたりもした。
そのことを今の母に問いただしてみたら、小さい子は言葉を理解しないからと返された。
言葉を理解しないから、暴力で教えるしかないのだそうだ。
もっともだと思う反面、愛情の欠落した躾だなと思った。



人間に言語がなければよかったのにと思う時がある。
そうすれば、何も理解しなくて済んだのに。

好かれていることも、嫌われていることも、愛されていることも、疎まれていることも、
全て、何もかも闇の奥深くに沈んで、消えて、ただそれだけの世界。

そう思うのは私が愛されていないからなのだろうか。
それとも、愛ゆえの行動なのだろうか。
もう、分からなくなってきた。

自分が今何を思うのか、何をしたいのか、何を言葉にしたいのか、何をすればいいのか、何のためにここにいるのか、何故生まれてきてしまったのか。

何故、私はここに存在しているのか。

頭が、痛い。
胸やけがする。
昼間にお菓子を食べすぎたせいだろうか。
パソコンの画面が眩しい。
世界が暗い。
耳鳴りがする。
吐き気がする。
気持ち、悪い。



          上手く、呼吸ができない。



小さい頃から、妙に達観している子だと言われた。
それはきっと、私は望まれて生まれてきた子じゃないと分かっていたから。
傍から見れば、親不孝に見えるだろう。
だって実際そうだから。
両親が嫌いな訳じゃない。
ただ、歪んでいるだけ。
親孝行したいと思うけど、現実の壁があまりにも冷たすぎて、
上手く息ができない。

言葉を発すると、いつも冷たく返された。
だから自分から言葉を発することを出来るだけ控えた。
無口だね、と言われるようになった。
心が押し潰されそうになった。
だから、心を殺してみた。
やがて、表情までもが掻き消されるようになって、
友達が言ったことに対して笑っても、
すぐに表情が消えてしまって、
無理に笑ってみても、
狂ったような笑顔になってしまって、
とても疲れた。

この空間に存在することに疲れた。
胸に押しかかる重圧にも、上手く呼吸できない自分にも、
妙に冷えた人との関係も、長い前髪がかかった眼が映す誰もいない世界にも、全部。

愛されることを願っただけなのに。
結局、掴めることなく、全てこの掌から零れ落ちていった。

そうなったのは、全部私のせい。
私が人に嫌われるような人間だから。
私が死んだような眼で人を見るから。
私が自分から求めることをしないから。
私が自分から壊していくだけだから。
ただ世界が美しい灰色に染まっていく。



最後に見えたのは、絶望が滲む死んだような私の瞳だけ。



(望んだことが間違いだったなら、)
(もっと早くに全てを諦めればよかった)



無表情のまま、涙が零れた。
胸が痛い、苦しい、息ができない。
涙で滲んだ世界に、救いを見出すことができなかった。
全てを諦めることしか、できなかった。



人のぬくもりなんて、最初から望まなければよかった。



(倒れ伏した私の抜け殻を支えたのは人間じゃなく、)
(凍えたベッドの温度だった)









■後書き

先日書いた小説をシリーズにしてみました。
前回のは友人で、今回は親に視点を置いてみました。