二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 【二次創作】泡沫【短編集】 ( No.66 )
- 日時: 2011/12/05 19:30
- 名前: 雲雀 (ID: 7aD9kMEJ)
【謝罪と切望】
「 ごめんね 」
許されないと分かっていながら、何度も、何度も、繰り返しそう謝った。
その言葉以外、何を口にしたらいいのか分からなかったから。
その日、私が飼っていたハムスターが死んだ。
そのことを母親から聞いた時、別段驚くことはなかった。
なんとなく、別れの日が近いことを頭の中で理解していたから。
「もう庭に埋めておいたから、」
短い報告に、ハムスターを飼っている檻を覗いた。
そこはしんとしていて、生物がいる気配はしなかった。
ああ、本当にいなくなったんだ。
心のどこかで、嘘のように感じていたのかもしれない。
口から出かけた言葉は声にならず、吐息と共に宙へと消えた。
必要最低限のことを私に伝え、母親は部屋を出ていった。
ぼんやりと、何もいなくなった檻を見つめる。
そこで初めて、死んだハムスターのことが頭に過った。
あの子はここで何を思っていたんだろう。
外に出たいと、自由になりたいと願っていただろうか。
飼い主としての役割も果たせない私を軽蔑していただろうか。
それどころか、自分を大切にしてくれない私を化物として見ていただろうか。
たった一匹で寂しかっただろうか。
ぬくもりを求めていただろうか。
死んで初めてそんなことを考えた自分自身に、酷く嫌悪した。
どうして私はいつも、気付くのが遅いのだろう。
そこで初めて、涙が流れた。
「……っ」
視界が歪む。
何度も何度も、服の袖で涙を拭った。
それでもまた溢れてきて、胸中で渦巻く激しい後悔と、引き裂くような胸の痛みが増す。
「ごめん、ね」
この言葉は、君の元まで届くでしょうか。
あやふやで、声になっているかさえ分からない。
今更言ったって遅い、謝罪の言葉。
「ごめ……ん」
自分がいったい何の為に泣いているのか分からなくなってきた。
ハムスターが死んだことが悲しいのか、死に際に立ち会えなかったことが悔しいのか、日に日に弱っていく君を見て、何もしてあげられなかった自分が憎いのか、君と過ごした日々が愛しいのか、一瞬でも、時よ戻れと願った愚かな自分への罰なのか。
今更悔んだって遅いのに、後から後から、後悔が押し寄せてくる。
どうしてもっと優しくできなかったんだろう。
どうしてもっと遊んであげなかったんだろう。
どうして酷く扱ってしまったんだろう。
どうしてぬくもりがあるうちに、大切だと気付けなかったんだろう。
どうして命には限りがあると、理解することができなかったんだろう。
どうして、どうして、どうして……、
どうして、今ここに君がいないんだろう。
「ごめ、ん……」
あの子を飼い始めた時、嬉しくて仕方なかったことを今でも覚えている。
名前を付けたり、撫でたりして、これから可愛がろうと強く思った。
でもあの頃はまだ幼くて、世話なんて満足にできなかった。
全部母親にまかせっきりで、したことと言えば、たまに餌を変えるくらい。
“ 飼う ”ということは、命をあずかるということと共に、君を檻の中に閉じ込めるということでもあったんだね。
なんて私は無知だったんだろう。
いずれ消えると知っていて、何故私は今泣いているの?
ごめん、ごめんね。
許されようなんて思わない。
でもそれ以外、君になんて言えばいいのか分からないから。
無知でごめん、自由を奪ってごめん、私のこと、恨んでるよね。
それでもいい、何だっていいから。
もう一度、一瞬でもいい。
『 君に会わせて 』
後どれくらい願えば、この想いは届くでしょうか。
後どれくらい悔めば、この涙は止まるでしょうか。
ぬくもりがあるうちに、もっと違う接し方ができたなら、
今ある涙は、もっと別のものになっただろうか。
ごめんね、なんかじゃなく。
ただ素直に、ありがとうと伝えることができただろうか。
もしも君に来世があるなら、どうか幸せになって、
こんな過去の記憶など忘れて、どうか。
「 ごめんね 」
(囁く聲が、)
(どうか君に届くように)
■後書き
本当に何度悔んでも悔やみきれなくて、思い出す度に辛くなります。
来世があるなら、どうか幸せになってください。