二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【二次創作】泡沫【短編集】 ( No.67 )
日時: 2013/01/01 21:20
名前: 雲雀 (ID: QGuPLo0Y)

■この小説は悲恋EDを作者が勝手に作り変えたものになります。
未プレイの方及び捏造が苦手な方はお控えください。
神なる君とのEDである「カケラ」を聴きながら思いついたので、なんとなく歌詞に繋がる部分もあります。
個人での曲解釈を邪魔されたくない方も、同様にお控えください。






【それはもう過去のこと。/鳴海×咲耶】



もしもあの時、私が鳴海のことを信じていたら、と今でも思う。
信じていたら、今でも私は鳴海の傍にいれたのだろうか、と。



何度も、何度も、そのことばかりを繰り返し思っている。



 ——もう、過去にさえならない。



「……こんにちは、榊君」

ある休日、私は国星神社を訪れた。
幼い頃、何度も彼と遊んだはずだった場所。
でも、今ではもう違う。
この褪せない記憶をもっているのは、私だけ。
案の定、榊君は境内の掃き掃除をしていた。

「あ……今日も来たんですか?」

少し嬉しそうに、彼は笑ってくれた。
笑顔も雰囲気も何一つ変わらない。
変わってしまったとすれば、私達の関係。
鳴海……榊君と私は、もう『幼馴染』ではなく、ただの『他人』。
彼と私の想いが交わることは、今後一切、絶対にない。

初めて会った時は、思わず泣いてしまった。
どこかで祈っていたのかもしれない。
“ もしかしたら ”と。
でも、目の前にいたのは私の知っている鳴海じゃなくて、私の知らない榊君だった。

それでも会いにきてしまうのは、やっぱり今でも鳴海のことが好きだから。
あの頃……今になると、この表現もおかしいね。
今の私達には、あの頃なんてないんだから。
私の中だけに残っているあの頃。
その時の関係に、私達はもう二度と戻れない。
そんなこと分かってる。
でも、でもね。
それでも好きなんだ。

「め、迷惑でしたか?」
「いえ、そんなことは全然ないです」

また、彼がふわりと笑う。
まさか鳴海に敬語使われる日が来るなんて、思いもしなかったな。
……もう、戻れない、んだよね。

「なんか、ここ、少しだけ懐かしい気がするんです。おかしいですよね」

精一杯の笑顔をつくって、榊君に笑いかける。
彼の紫紺の瞳と、視線が合った。
とても、綺麗だと思う。

よかった、今度はちゃんと焦点も合っている。
私の声も届いてる。
よかった……よかった。

でも何故か、切なくて、悲しくて、思わず目を逸らした。

「ここに来たことがあるんですか?]
「え……?」
「いや、参拝客の方は全て把握してるつもりだったんですが……あなたのことは知らなかったので」

知らなかった。
うん、そうだよね。
それでいいんだよ、榊君。

「いいえ……来たのは、高校生になってから。あなたと初めて会ったあの日が初めてです」
「そう、ですか……」
「はい」

他人と話す時のこのぎこちなさが、鳴海との間にできるなんて思いもしなかった。
前は触れることだって出来たのに。
今はこの数メートルの空間が、切なくて仕方ない。

「じゃあ、私そろそろ行きますね」

さよなら、と伝えたところで、榊君に引き留められた。

「ひとつ伝えておきたいことがあって」
「……?」
「神木さんに言うべきなのかどうかは分からないけど、でも……」
「え……?」



「恋人が、できたんです」



その言葉を聞いた時。
ああ、とどこかで納得してしまった。

どうしようもないくらい胸が痛くて、思わず目を伏せた。
でも、この道を、この運命を選んだのは私自身だ。

精一杯、彼のことを祝福しよう。

「おめでとう……」

その言葉を伝えて、私もひとつ決心した。
もうこの恋心に縋るのはやめて、他の幸せを探そう。

「じゃあ……今日で来るのは最後にします」
「え……?」

榊君が不思議そうにこちらを向く。

「だって私なんかといたら、彼女さんにやきもち妬かれちゃいますよ」

お幸せに。
と言うと、榊君はなんとも言えない表情をした。
悲しいような、切ないような、愛しいような、寂しいような、縋るような、何かを恐れるような。
そんな、表情。



どうか、思い出さないで。
 苦しむのは、私だけでいい。
だからどうか、あなたは幸せに。
 私の分まで、どうかあなたは。
そして、どうか。
 また好きになってとは言わない。
でも、どうか。
 一年前のあの日から、紡いできたこの時間だけは、
忘れないでいて。



「さよなら」

そう告げた。
彼に背を向ける。
涙が出た。

ああ、そういえば、一年前もこれくらい泣いたな。
でも選んだのは私なんだ。
階段をゆっくりとした歩調でおりていく。
振り向かなかった。
振り向けなかった。



多分、私がこれからの人生、何度恋をしたって、
きっと鳴海以上に好きになれる人なんていない。

もう今となっては過去にさえならない記憶。
もう、戻れない。
分かってるのに。

初めて抱き締めてくれた時のことも、
初めて好きと言ってくれた時のことも、
初めてキスをしてくれた時のことも、

忘れることなんて、出来ないよ。

「鳴海……」

大好きだよ、これからもずっと。
さよなら、この世で一番大好きな、

「私の……幼馴染」



涙が、風の中に溶けて消えた。









「咲、耶……」



(そう、)
(誰かが呟いたのは気のせい)









■後書き

思いっきり捏造です。
こんなEDがあったら咲耶が報われなさすぎて涙腺決壊どころの騒ぎじゃないです。
でもお互いのことを忘れてしまったEDも、凄く切なかったです。
二人は絶対幸せにならなきゃ駄目です。