二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【二次創作】泡沫【短編集】 ( No.68 )
日時: 2013/01/01 21:22
名前: 雲雀 (ID: QGuPLo0Y)
参照: http://www.youtube.com/watch?v=tDGWVApZLtQ&feature=related

【気づいてしまった。/涼太×葵】



「先輩、早くしてください」

少し不機嫌そうな声が、背後から聞こえた。
屋台のおじさんからクレープを受け取り、急いで彼の元へと戻る。

「ご、ごめんね。色んな種類があったから迷っちゃって……」

機嫌を損ねてしまう前に、謝罪の言葉を口にする。
いや、ちょっと遅いのかもしれないけど。

「この人の多さなんですから、あんまりもたついてるようならおいてきますよ」
「そ、そんなに待たせた?」

“ さぁ? ”と篠原くんは軽く笑う。
か、からかわれた……!
多少のショックを受けつつ、でも待たせたことには変わりないのでお詫びとして何をしようかと考える。

お詫び……お詫び……あ。

「篠原君っ」
「な、なんですか?そんな大声で言われなくてもこの距離なら聞こえますけど……」

少し驚いた様子で、篠原くんは髪をかきあげる。
女の子みたいにさらさらしてるなぁ……。
羨ましい、と心の中で思いながら、ついさっき買ったクレープを彼の前に差し出す。

「はいっ、待たせたお詫びに、クレープ、一口どうぞ!」
「は……?」

意味が分からない、とでも言うように、篠原くんが目を細めてクレープを見つめる。
そんな彼に、二度笑いかける。

「篠原くんのこと、凄く待たせちゃったみたいだから。そのお詫び」

そう言って、再びクレープを差し出した。
言葉の意味を理解したのか、あぁ、と言ってから、急に頬を朱に染めた。

「わっ!し、篠原くん大丈夫!?顔真っ赤だよ!?ね、熱でもあるんじゃ……!」
「赤くないです先輩の鈍感さ加減にうんざりしただけです……!」
「それはそれで酷いよ!?」

どうしよう、会話が成り立たない……!
お詫びの話からどうしてこんな話に発展してしまったのだろう。
原因が分からないままあたふたしていると、遠くの空から花火が打ちあがる音がした。


「あ……」


赤、黄色、青、緑……色とりどりの花火が、夏の夜空を埋め尽くしていく。
その花火に呼応するように、人ごみが一斉に動きだした。

「はぁ……」

隣から小さなため息が聞こえてきて、どうしたの?とたずねようとしたら、急に腕を引っ張られた。

「え……し、篠原くん……?」
「先輩、こうでもしてないと、どうせ迷子になるでしょう?」

少し乱暴にそう言い捨てて、さっさと前を歩いていく。
でも、決して早すぎない速度。
身長なんて私とさほど変わらないはずなのに、いつもより少し大きく見える背中。
ああ、男の子なんだって思った。

ほんの少しだけ絡まった指先。
離れそうで、でも繋がっていて、その曖昧さが切なくて、心地いい。




鼓動が脈を打つ。



(触れ合った指先のぬくもり、)
(恋だと自覚する)









■後書き

なんてありきたりな話……御免なさい、本当に御免なさい。
でも藤田麻衣子さんの「花火」を聴いていたらいてもたってもいられず、つい書いてしまいました。御免なさい。