二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 【二次創作】泡沫【短編集】 ( No.82 )
- 日時: 2012/01/06 23:23
- 名前: 雲雀 (ID: 7aD9kMEJ)
■この小説は「緋色の欠片」の物語を作者が勝手に作りかえたものになります。
未プレイの方及び捏造が苦手な方はお控えください。
珠紀と守護者の関係が本編とは全く別のものになっており、
珠紀は美鶴のような位置にあたる人物になっております。
実際の作品のイメージを崩されたくない方も同様にお控えください。
【記憶に残る花はあまりにも鮮やかで/真弘×珠紀】
珠紀は静紀の言動には一切口を出さず、失礼しました、と言って部屋を出ていった。
縁側から外に出て、月の浮かぶ空を仰ぐ。
「もう……」
穏やかな時間に終わりが来る。
彼らはまだ高校生なのに、過酷なこの運命に翻弄されるのだろう。
その血脈に、生まれついたがために。
「……珠紀?」
聞きなれた声が耳をくすぐった。
振り返れば、夜の闇と一体化するような淡い漆黒の色の髪。
「真弘先輩……こんな夜更けにどうしたんですか?」
珠紀が少し驚きつつ尋ねると、なんか嫌な予感がしてな、と彼らしい言葉で笑った。
その笑顔に、張り詰めた心が、ほんの少しだけほぐれたような気がした。
「お前の顔を見るかぎり……予感的中ってところか?」
「え……?」
「玉依姫のことだろ?」
「……っ……」
そこまで表情に出ていたなんて。
動揺を押し隠すように、珠紀は胸に手をあてた。
「はい……近々、この村に来られるそうです」
「そうか……」
夜風が二人の間をすり抜けてゆく。
まるで、二人を引き裂くように。
隔てる壁はとても薄く、簡単に触れ合うことが出来るけど。
心はあまりにも遠くて、必死になって触れても、壊れてしまうような気がした。
「そんな顔、するな」
「え……?ちょっ……」
真弘がぐしゃぐしゃと珠紀の頭を撫でまわす。
いたいです、と珠紀が抗議の声をあげると、その手は簡単に離れた。
「俺達は大丈夫だ。拓磨も、祐一も、大蛇さんもな。だから、そんな顔、するな」
その眼差しはどこまでも穏やかで、いつもの子供っぽい表情はどこにもなかった。
受け入れた、というよりは、どこか諦めてしまったような。
そんな表情だった。
「せん、ぱい……」
守護五家の運命はとても残酷で、どうして彼らがそんなものにとらわれるのだと、何度も思った。
でも彼の背負う宿命はそれ以上に重く、深く、悲しいものだった。
「私、は……」
頬にあたたかいものが伝う。
声も掠れてしまって、思うように声が出ない。
嗚咽が漏れて、涙で歪んだ視界では彼の顔がよく見えない。
こんな情けない姿、絶対に見せてはいけなかったのに。
言葉にならない悲しみは、涙となって後から後から零れ落ちる。
「泣け泣け。今だけは、泣いてていいから」
真弘の手が、再び珠紀の頭を撫でる。
でもさっきのように乱暴な手つきではなく、壊れ物に触れるような、優しい手つきだった。
「……あっ……」
伝えたい言葉は、口から出てきてはくれなかった。
違う、泣きたいのは私じゃない。
あなたのはずなのに。
あなたが犯した訳でもない罪を背負わされ、生きていくしかないあなたのはずなのに。
どうして、私はこんなにも弱いんだろう。
あなたの優しい手が、また涙を誘うから。
止まらなくなって、喉は自由になってくれない。
どうして、あなたなんだろう。
どうして、こんなにも優しい人が、封印の犠牲にならなくてはいけないんだろう。
私の命を捧げることで、この人が封印という楔から解き放たれるなら、私は迷わずその道を選ぶだろう。
あなたはきっと怒るだろうけど。
あなたに何もしてあげられない無力な私。
それでも、あなたがその優しさを傾けるから。
余計、切なくて。
涙が止まらない。
「お前はほんっと……昔っから泣き虫だな」
半ば抱き締めるような形で、彼は私の頭をぽんぽんと撫でた。
酷く心地よいぬくもり。
それは儚い夢のようで、縋りつくことさえ叶わない。
「ごめ、っなさ…………ごめん……なさい……っ……せん、ぱい……」
「謝ることなんか、何もしてないだろ。お前は」
真弘が珠紀を抱き締める。
彼の表情が見えなくて、ただ悲しい思いを胸に抱いたまま空を見上げた。
「これがもう……最後だから」
彼が呟いた一言。
その言葉に、突き刺すような胸の痛みを覚える。
「は……い……」
幼い頃の口約束。
大きくなったら結婚しようね、なんて、それはそれは馬鹿みたいな約束で。
あの頃はただその幸せな未来だけを思い描けた。
白い花でつくった小さな指輪。
それは私の一番の宝物で、それを彼から貰った時。
「幸せになろうね」って、二人で笑いあった。
もう戻れない、遠い過去の話。
今あるこの胸の痛みなんて、想像もしていなかった頃。
あの頃に戻して、なんて言わないから。
どうか今だけは、時間を止めてほしい。
この、何よりも優しくて脆い、最初で最後の抱擁が、終わってしまう瞬間まで。
(幸せになろうね、)
(そう誓ったのはいつの日か)
■後書き
予定していた真弘の小説です。
美鶴のような立場で恋をすると、玉依姫である時よりも残酷に終わるのかもしれません。