二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 雨夢楼〜儚い少女の夢物語〜 ( No.3 )
- 日時: 2012/01/12 18:11
- 名前: 夏茱萸 (ID: lkF9UhzL)
- 参照: http://w5.oekakibbs.com/bbs/oe-kakiko2/data/137.jpg
第一帳〜少女は対照的な自分と出会う〜
はらりと白く美しい粉雪が、少女の身体に落ちていく。
少女はそれを手で払いながら、凍えないように手に息を吹きかけた。
ここは町から外れた遊郭街の一角。
人目のない暗く湿ったこの場所で、少女は小さく息をしていた。
「寒い、よぉ…どうして…私がこんな目に合わないといけないの…?」
少女の家は貧しかった。どの家よりも、ずっとずっと貧しかった。
母親は薬も貰えずに病で倒れ、父親はこの生活に耐えられず逃亡。天涯孤独となった少女は、家も追い出され幼くして外での生活を強いられた。
わずかに残っている布の切れ端に身を包みながら、曇った空をじっとみつめた。
「きっと神様は、私に何か恨みでもあるんだわ…」
一人ぽつりと呟いたその言葉は、粉雪の中へと消えていく……はずだった。
「それは違うわ。恨みなんてもの、ちっぽけで欲深い人間なんかに持ったってつまらないもの。神様はきっと、優しくて心が大きい人なのだから」
まさか独り言の返事が返ってくるとは思わなかった少女は、驚いて声のする方へと視線を向けた。
「…誰…?」
にっこりと笑っている青緑の髪をツインテールに結った、愛らしい女の子。自身と同じように綻びた着物を着て、この場所に立っているということは彼女も何かしらの事情があり、外での生活を強いられた子なのだろう。
同じ状況のはずなのに、この子の瞳は明るく笑っている。
どうして…?
少女が黙り込んでいると、彼女の方から自己紹介を始めてきた。
「私の名前は初奈多美香、年は今年で10になったわ。訳あって今はここで暮らしているけど、きっとすぐにお迎えが来てくれるのよ」
「私、鏡野鈴華…年は今9才。お母さんとお父さんがいないから、ここで暮らしてるの…。どうしてお迎えが来るって分かるの?そんな人がいるのなら、ここで暮らす必要ないじゃない」
少女——鏡野鈴華は自身の紹介をしながら、疑問に思ったことを口にした。
一瞬彼女——初奈多美香は、きょとんとした表情を浮かべたが、すぐに先程の笑みで鈴華に言った。
「だって、約束したもの!『迎えに行くよ、待っていて』って!そう、私のお兄様が言ってくださったわ」
「…お兄様?」
「うん。お兄様はとっても優しくってね、いつも私と遊んでくれたの。だけど、遠くに行くからそれまで待っててって…でも、待っていればお兄様はきっとすぐに来てくださるわ!」
「そうなんだ。お迎え、早く来てくれればいいね」
「うん!」
美香がこんなに明るく笑っていられるのは、お迎えがあるからなのかな…
俯きながら憂いを帯びた瞳で、鈴華は考えた。
———私にも、そんな人がいたらきっと…
「ねぇ、今鈴は幸せ?」
「え…?」
唐突に聞いてきた美香の瞳は、真剣だった。
今のこの状態で、幸せなんて誰が答えるのだろう。
「…幸せなんて、ありえない…」
もちろん鈴華も例外ではなく、思ったままを口にした。
「私は今、幸せなんかじゃないけど…でも、これから先に絶対いい事があるの。だから、それを考えたら今この状況でも、強く生きていけると思うの」
「…?」
「鈴はいま、すごく辛いって顔してる。まるで自分が、悲劇のヒロインにでもなったような…だから私は、鈴にそういう風に今の状況を捉えてほしいの。辛い思いをした分だけ、幸せも返ってくるってお兄様が言っていたわ」
鈴華と一つ年齢が違うだけで、こうも考え方が違ってくるのか。
それともただ単にこの子が楽観的で、鈴華が悲観的なだけなのか…
美香の言葉を聞いて、鈴華は初めて笑顔を見せた。
「…私にも、美香のお兄さんみたいな人がいたらよかったな…」
「鈴って、笑った方が可愛いよ。これからもっと、私と一緒に笑っていこう?」
「…一緒にいて、いいの?」
「私もちょっと寂しかったしね。鈴、これからよろしくね!」
満面の笑みで言う美香に、これからという言葉に
鈴華は涙を浮かべた。
今日は寒いはずなのに、不思議と温まっていく心身。
この薄気味悪い遊郭街の一角で。
二人は小指を絡め、誓い合った。
互いの傷を慰め、与え生きていくことを……————