二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 〜続・イナイレ*最強姉弟参上?!*参照700突破♪ ( No.211 )
- 日時: 2011/09/26 03:04
- 名前: 伊莉寿 (ID: r4kEfg7B)
第22話 自由に…
歌音に席を案内され、月乃はその場所に座った。鈴音と橘の間。全員が一個ずつ左にずれた。橘のストッパーになる。
前から2列目という素晴らしい位置だった。彼女の目の前では、正に今、選手達がポジションについている。
試合が始まった。
その内容は不自然で、歌音は顔をしかめ、鈴音は「勝つ気が無い」のが弟だけでは無いのかと思い始めた。
天河原中が攻めても天馬と西園しか動かない。多過ぎるミスもDFは実はわざと抜かれていたりトラップミスも意図的な物だったり。
無表情でフィールドを見つめる月乃に、鈴音が話しかける。
鈴「サッカー、好き?」
月「……嫌いでは、無いと思います。」
あやふやな返事に少々驚いて、けれど全く理解できない訳では無かった。
自分だって、と彼女は思う。
フラッシュバック——イナズマジャパンが、世界一になった日。あの時、魁渡は倒れた。
魁『鈴音、後でな!』
後って、何時?
ねえ、何時なの?
ぎゅっと唇をかむ。蓮がその動作に気付いて、大丈夫?と気遣った。帰らない、と鈴音は言う。保護者だから、と。
天馬が倒れる。神童が天馬を心配し声を上げた。
FWが攻め上がる。DFはフィフスセクターの指示に従うため動けない。
喜多がゴール前でパスを受け取り、少し悲しそうな表情をした。
——やるしかない。
その時、そう思ったのは1人だけでは無かった。
ラ「動くわね。」
ソ「…」
ソフィアが席を立った。橘が彼女の名前を不思議そうに呼んでも返事は無い。ついて来い、という意味だと橘は理解し彼女に次いで観客席から出る。
喜多がボールを思い切り蹴った。初めは構えていた様子の三国は、諦めた様に見える。
と、それを空中でカットした者がいた。誰もがフィフスセクターに従う為の1点だと思っていて、カットしようなど考える者—天馬や西園は動けなかったはずだ。
ボールが少しバウンドして、その足がボールの上に乗せられた瞬間に会場が沸きたった。
月「——兄様…」
鈴「…」
小さな声で月乃が呟く。神童だった。強い瞳をして、彼は平然とそこに立っていた。
神「俺は…フィフスセクターの指示には従わない…。この試合、本気で勝ちを取りにいく!」
雷・天全「!?」
天「わあっ…!!」
そのままドリブルを始めた神童。沸きたつ観客席とは対照に、静かにスタジアムを去る少女がいた。
*
橘「ソフィア、どうしたの?」
静かなスタジアム内の通路。その問いかけを受けて、ソフィアは振り向いた。
ソ「どうやら…悪魔は動かないみたい。」
橘「ほぇ?!」
ソ「…彼女がいないって、思ったみたいだけど?」
——彼女。
橘「そ、うなのかな…いないのかな。」
だんだん声が小さくなる橘。その人は自分の憧れでもあり、大事な大事な人だった。
そんな橘を慰めようとするかのようにソフィアが言う。
ソ「仕方ないかも知れない…彼女が聖力を解放しないと、悪魔も私達も何も出来ない。隣で話をしていても分からないし…。」
橘「……ゎたしは、」
ソ「月乃さん。確かに彼女は似てるかもしれない。桜色の髪…彼女と似ていると私も思う。でも仮に月乃さんが彼女だとしたら…?聖力を解放する場面なんて無さそうな女子中生なのに。」
橘が観念したように口を閉じた。聖力の解放。その力を意識していない者が解放するにはダメージを与えたりしないといけない。
ソフィアが自嘲的に微笑み、橘を背にして歩きだす。
ソ「確かめたいのなら、アルモニ貴女がやりなさい。」
階段まで来てその姿は消えた。残ったのは、金色の光と少しの風だけ…。
*
月「…」
神「進む道は自分で切り開く!」
神童のドリブル突破。相手チームの選手が競りに来ると、ボールをFWの倉間にパスした。
…はずが。
全「!」
強い回転が加わったボールは自ら何処かへ飛んでいく。天馬、と神童が呼ぶと黄色い光の軌道が現れ、ボールが彼の元へ飛んでいく。
月「…これは。」
鈴「神のタクト。雷門中の生徒なら、知ってるで(月「分かりませんでした。」
サッカー部の話を聞いた時、神童は神のタクトに一切触れなかった。自分の事はあまり話したくなかったのかもしれない。
傷付きたくなかったんだ。月乃はそう思う事にしている。
鈴「キャプテンが頑張ってるのに、アイツは…」
天馬がボールをFWにパスしようと思って南沢にアイコンタクトを取ると、そっぽを向かれてしまった。
歌「…鈴音さん?」
蓮「鈴音、オーラが後で絞めてやろうか、って言ってるよ^^;」
月「…仕方ありません。」
彼女の言葉に、蓮と鈴音、歌音が彼女に視線を向ける。フィールドを見つめたまま月乃は言い放った。
月「あんな大きなものに逆らおうって…味方が少ない中そう思って実行に移せるのは、有り得ない事なんです。」
神のタクトからこぼれたボール。ゴール前で相手に渡しそうになった所で、神童が何とかボールを取った。
そしてそのまま、シュートする。
神「フォルテシモ!」
月「…ちゃんと、フォルテシモになってます、…。」
——サッカーは、好きでも嫌いでもない。
揺れたゴールネットに、観客が沸く。喜ぶ観客とは正反対に、月乃は顔をうずめる。
やってしまったという顔の雷門陣。霧野たちDFは唖然としていた。
——今、どう思ってる?
テ「やった!1点先制!!!」
歌「良かったわ…杏樹?」
——ボールは、兄様や天馬さんが蹴っていて…嫌だって、それでも嫌いって思う?
月「…わない。」
歌「?」
月「思わない、サッカーは…」
その先の言葉を、彼女は誰にも見えない表情で紡いだ。
———笑顔で。
*つづく*