二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 〜続・イナイレ*最強姉弟参上?!*〜 ( No.516 )
- 日時: 2012/02/26 22:02
- 名前: 伊莉寿 ◆EnBpuxxKPU (ID: r4kEfg7B)
第50話 …出会ったのは?
魁渡「んッ…」
暖かな日差しが差し込む部屋。魁渡は大きく伸びをして、一度深呼吸をした。
午前中は看護師や医者を説得して、リハビリに努めた。慣れないことをしたからか疲労を感じる。その感覚は久々だった。
瑠璃花が居なくなった事、それは魁渡にとってショックだった。が、今はもう振り切った。
姉が帰って来た時…その時に笑顔で再会しようと考え、リハビリをしてサッカーが出来る状態にしたいと思っている。
強い想いがあるからか、医者も驚きのペースで回復してきていた。1度リハビリをしただけで相当動けるようになったのだ。
小鳥の囀り(サエズリ)に耳を澄まし、そしてベッドの近くにいる少年へ視線を向ける。30秒ほど前に、勝手に入ってきた少年だ。
面識はなく、名前も分からない。ただ、静かに、と人差し指を立てて顔の前に持ってこられては看護師を呼ぶのも気がひける。
午後にも、医者に少し無理を言ってリハビリの予定を入れてあった。その時間がそろそろなのだが…。
魁渡「あのさ、」
少年「?何?」
?「魁渡君、そろそろ時間よ。」
ガラリ、とドアを開けて看護婦が入ってきた。彼女は入るなり顔をしかめ、魁渡のベッドの向こう側を見つめる。
その表情に気づいた魁渡は、ちらりと少年を盗み見た。彼はやってしまった、と焦った表情をしていた。
魁渡(…何だ、この2人…)
そして彼も彼なりの違和感に気付き、部屋の入口へ視線を振り向く。そこに立っていた看護婦は、見覚えのある姿だった。
魁渡「冬花!?」
少年「!?」
かつて魁渡も所属していたイナズマジャパンでマネージャーを務めていた、久遠冬花。彼女はにっこりと微笑み、それから黒いオーラを放つ。
冬花「ごめんね、魁渡君。私の患者さんが迷惑かけちゃって★」
少年「!」
魁渡「患者?ああ、コイツ(少年「あわぁぁっ!!」
冬花「その子サッカー好きだから、良かったらお話してあげてね。」
言葉を遮ろうとベッドに乗り出した少年が隠れていた事は、彼女にとってたやすく見抜ける物だったらしい。
オレンジ色の短髪、緑色の瞳。運動神経よさそうだなぁ、と今閉められたドアを凝視する少年を見て魁渡が思う。
魁渡「…サッカー、好きなんだ。」
少年「え、まあ、うん…」
魁渡「俺もサッカー大好きだ!よろしくな!!」
ニカッ、と眩しい笑顔を向けられて、少年は肩の荷が下りた気分だった。明るく接する魁渡に対して、警戒心が解かれた。
少年「うん、俺は雨宮太陽。君は?」
魁渡「流星魁渡!よろしくな、たいよ…太陽?」
名前を名乗った瞬間、少年の笑顔が固まった。———何度も聞いた事のある名前に。
太陽「っ!!??」
*
黒い花園、それは予想以上のダメージだった。
心がえぐられる感覚に足がすくむ。いやだ、と口が動き視線は下を向いた。震える手を握り締める。
月乃「‥‥んで、こんなに…?」
と、視線は顧問の先生から預かった携帯電話に向いた。手を伸ばす。掴んで、ボタンを押した。
誰に繋がったかなど、確認する余裕もなく。
『?何だ、えん…』
月乃「たすっ…けて下さ、いっ…!!」
涙声だった。ただひたすらに、彼女は助けを求めた。
————頬をなでる風が、変わる。
『ねえねえ、フロォラさま。』
黒い炎に焼かれる花園の景色を見つめる月乃の目の前には、なぜか花々が咲き誇る春のような景色が広がっていた。
桜色の髪の幼い少女が、左隣にいる女性の手を握りながら話しかけている。女性は優しい微笑みを浮かべながら話を聞いていた。
2人とも薄いひらひらしたワンピースを着ている。優雅で、神秘的な雰囲気が漂っていた。
少女『きょうも、いっしょにやろうよ!』
女性『そう…今日も特訓、頑張ったものね。』
少女『やったぁっ!じゃあさきにいってる!!』
嬉しそうに笑う少女。風が吹き、月乃の涙をさらった。
走り出す少女の行き先には、数人の女子が見える、そしてサッカーボールらしきボールも。
駆けて行った少女の後ろ姿を見る女性は、背中を見守りながら呟く。
女性『…ヴィエルジェ、貴女なら…努力が出来る貴女なら大丈夫。』
月乃「…ヴィエルジェ?」
小さな声が漏れる。女性は笑みを浮かべながら少女を追っていった。少女を信頼している、月乃はそう感じた。
温かい気持ちが溢れた瞬間、景色が消え去り暗い部屋に戻る。
剣城に乗り移っている悪魔は顔をしかめていた。広がった景色は見覚えのない物だったのだ。
「…今のは、」
月乃「感謝、します。」
「?!」
額に手を当てて、月乃は悪魔を見据える。
月乃「自分の記憶に間違いがなかったと、確かめる事が出来ました。」
「…へえ。」
月乃「ほんの少し…ですが。」
と、扉の外から足音が聞こえてきた。走っている。悪魔が急いだのか、月乃に手をかけようとした。
月乃「良いんですか、ここで私を攻撃して。」
「!」
下から睨むようにして、月乃が見つめた。その瞳には戸惑いが無い。威嚇するような鋭い視線が、刺さる。
フ、と悪魔が鼻で笑った。剣城の顔には似合っているかもしれない。
「…俺の負けだ。」
言葉を言い終わったのと同時に、扉が開く。月乃が振り返ると、外の明かりが差し込んで思わず目を手で覆った。
悪魔を振り返ると、剣城の姿はもうなかった。
「大丈夫かっ!!?」
悪夢の終わりを告げる声の主は、鬼道だった。