二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 〜続・イナイレ*最強姉弟参上?!*〜イナGO人気投票実施中! ( No.93 )
日時: 2011/09/09 23:24
名前: 伊莉寿 (ID: r4kEfg7B)

第10話 真っ直ぐなんて


とぼとぼと、彼の後ろを歩く彼女——月乃はどう思っているか分からないが、しっかりと彼——神童について行っている。

月「…何で…サッカー部は…」

ようやく絞り出した声に、神童が立ち止まる。振り返ると彼女はジッと見つめていた。

神「先輩方の人生を、俺が狂わせる訳にはいかない…」

月「先輩方…。ですが1年生だけがっ…」

神「あいつ等は良いんだ、話しただろう。」

彼はまた歩き出して。


——天馬さんは真っ直ぐで。


月「…兄様も、楽になれたら…」




—翌朝

橘「おっはよつきのん!」

月「?!」

彼女は驚いて、数学の教科書を落としそうになった。橘が月乃につけたらしいあだ名「つきのん」。

橘「今日からつきのんって呼ぶね!」

月「…はい。」

橘「あのねっ、敬語使っちゃダメだよ友達になろ!!」

月「…」

五月蝿い、と思った。

この時点で無理かもしれない。

歌「おはよう月乃さん。」

月「おはよう奏宮さん…」

クラスに入って来た歌音が椅子に座ると、部活決めた?と月乃に声をかけた。彼女は首を縦に振る。

天「おはよ月(月「静かにしてくれませんか。」

天「ええ?!」

歌音が…苦笑していた。月乃は頬杖をついて窓の外を眺める。

天「サッカー部の(月「私サッカーはしないんで。」

葵「あの、私からもお願いします、話聞いてくれませんか…?」

歌「!」

月「…私。」

うずうずする感情を抑え込んで、月乃がはっきりと言った。

月「きっと、サッカーが嫌いなんです。」





大事な誰かが居なくなり、大事な何かを裏切った。






サッカーがあったから。







歌「でも『きっと』なのね。」

昼休み、歌音が月乃の机まで来て言った。元々隣ではあるが。

月「…ま…。」

返事を濁した。

月「直感で言った事でもあり、6月を突き離すために言ったことでもあるので。」

歌「部活はテニス?」

首を縦に振り、視線を廊下に移す。その瞬間。

月「っ!」

歌「…?」

硬直した月乃、歌音が視線を辿る。…特に何も無い、普通の廊下。生徒と教師が話したり歩いたり。

月「…訳、分かりません…」

彼女の呟きは誰の耳にも届かずに、蒼く晴れ渡った空に吸い込まれて行った。



奏でられるモーツァルトの曲。

今日も屋敷には、ピアノの音色が響いている。苦しみも迷いも、鍵盤から音となって消えて行った。

弾いていた神童が、両手を鍵盤から離した。

神「…」

自分が何もしなくなると、周囲から音が消えた。月乃は部活に出ている。

神「…まさか、寂しい…なんてな。」

彼女のいる生活は、想っているよりはるかに心に刻まれているらしい。


また、鍵盤に両手を乗せる。






月乃はテニスの才能でもあるのだろうか。

まだ1日目。それなのに上級生が打つ様な低い球を、先程から連発している。

しかしコントロールは未熟で、ボール拾いや球出しに鋭い球が行ってしまいそうになる。

橘「上手いもんだねぇ…」

歌「橘さん、貴女何かあったんですか。」

校舎の陰からテニスコートを見ていた橘に、歌音が声をかけた。橘はきょとんとしてからくすくす笑う。

そして言った。「私、元からこんな感じだよ。」と。

歌「いいえ貴女は…」

橘「さて、私は帰ろっかな。」

スクバを右手に持って彼女は道路を歩いて行く。

——貴女は変わった。

そう言ったとしても、きっと彼女は受け流していただろう。



新人である月乃が出しゃばることに、多くの部員は不満を抱いていた。

しかしそれは、まだ小さな不満だったしそのうち消えるに決まっていた。

何時か消えるはずだった。


彼女が第六感に従っていれば。


心の声に、従っていれば…。




月「…待ってたんですか。」

校門を出た所で、彼女は自分を待っていた人物にそう声をかけた。

歌「ええ。疲れて交通事故にあったら大変だと思って。」

心配してたんだと、月乃も理解はするが返事はせず歩き出した。

家は何処?と歌音が聞けば住所は知らない、と返す。周りに目立つ物は?と聞けば住宅街、と返す。

月「…此処。」

彼女が足を止めた場所は、もちろん彼女の家。

歌「…此処って、神童の…??!」

歌音が、驚いて月乃の横顔を見つめた。


月「事故なんか、会いそうに無かったでしょう?」