二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 世界への羽ばたき!『イナズ ( No.23 )
- 日時: 2011/09/16 23:22
- 名前: 携帯しずく ◆UaO7kZlnMA (ID: nQqcPBd1)
- 参照: コメント返しは、また明日?かあさってに!
「リサちゃんの好きな食べ物は?」
「そうねえ……肉とか脂っこいもの大好きよ」
「リサちゃんは、アメリカで何のクラブをやっていたの?」
「チアと……ああ、臨時でマネージャーもやってたわ。サッカー部の」
「リサさん、オレを全力で罵って下さいお願いします」
「…………」
こんな調子で、リサと生徒たちの楽しい交流の時間は過ぎていった。リサの誕生日、好きな食べ物、アメリカでやっていたクラブ活動、等々。ごく一般的な質問であった。中には意味がわからない質問も含まれていたが——そういうものは、秋に無視されていた。翻訳すらしてもらえなかった。
様々な質問に、リサは一問ずつ楽しそうに答えていた。初めは強張っていた表情も、質問を重ねるごとにだんだん明るくなっていった。最後には、冗談を言って生徒たちを笑わせたり、逆に笑ったりと、すっかりクラスに馴染んでいる様子だ。
「え〜それでは、質問は後五分で終わりです」
生徒たちが「え〜」と非難するような声を上げる。蓮がちらっと教壇上の時計に目をやると、後五分弱で一時間目が終了する時間だった。確かにきりがいい時間である。
最後の質問に、生徒たちはこぞって挙手。中には、ハイハイ!と自分が注目されるよう大声を出したり、両方の手で挙手する人間も。手を挙げる顔触れは、リサに何度も質問をしている固定メンバーだ。女子もいれば男子もいる。秋は、最後を誰にするか迷うようにキョロキョロしていたが、教室の窓側に視線を固定した。
蓮が、欠伸を噛み殺しながら両の指を絡めながら腕を天井に伸ばしていて、
「じゃ、白鳥くん」
秋は、蓮を指名した。その瞬間、蓮はかなり間の抜けた声を出し、生徒の失笑を買う。
「あ、リサ。あの男の子は、白鳥くん。英語が出来る子だから、困ったことがあったら話すといいよ」
きょとんとする蓮を指差し、秋は英語でリサに蓮を紹介する。リサは蓮を見定めるようにじっと見ていたが、やがてにこりと笑いながら口を開く。
「ココデアッタガヒャクネンメ。コンドコソ、オマエヲトラエテミセル!」
意味がわからない日本語に閉口する蓮。そして、口をだらしなくあける秋と生徒たち。教室に静寂の帳(とばり)がおりた。
しかし、蓮は頭を回し、何とか意図を汲み取ろうと努力する。会話の流れから言えば挨拶のはずだ。リサさんは、さっきの謎の挨拶から思うに日本語を勘違いしているだけなんだ。なら、ここは。
「うん、よろしくね。リサさん」
淀みのない英語で挨拶をすると、リサは英語で頼むわね、と返答。蓮の考えは正しかったようだ。
と、蓮は自分がリサに質問をしなければならないことをふっと思い出した。ちょっと質問もいい?と英語のまま話しかけ、生徒たちが白鳥すげ〜と称賛の声をあげた。
「リサさんは、どうして留学に?」
「私、日本代表のマネージャーになりに来たの」
リサは堂々と答え、秋は何故か翻訳をしなかった。その代わり、秋は蓮やサッカー部の円堂、豪炎寺、鬼道と言ったメンバーだけを順番に眺め、含み笑いをした。
生徒たちが戸惑うなか、蓮はあえて英語で問いを重ねた。
「え、何の日本代表?」
「FFIの日本代表よ」
「え、えふえふあい?」
"FFI"の単語に、大半の生徒は戸惑う。が、そのなかで豪炎寺と鬼道、そして蓮だけは信じられない、と言わんばかりの顔付きになる。が、円堂は頭を抱えていた。
「FFIって何だっけ?」「フットボールフロンティアインターナショナル、だよ。ほら、もうじき開催される少年サッカーの世界大会だよ!」
蓮の言葉に円堂は、あ〜と思い出したように手を叩いた。
「でも、日本代表なんてあったか?」
「ない」
即答する蓮の言葉通り、現時点で日本代表はない。
蓮は、リサが勘違いをしているのだと思い、英語で事実を教える。
「FFIに日本代表はないよ。アジアなら、マクドナルドとか韓国とかイタリアーナとかリオデジャネイロくらいしか、エントリーしてないはず」
思い付くがままに出場国を羅列する蓮であるが、その大半は間違いである。英語がわからない生徒たちが、困惑する一方で秋は口をてで覆い、必死に笑いを堪えていた。肩が小刻みに震えている。
リサはため息をつき、蔑むように目を細めた。
「アンタ、小学生から勉強をやり直した方がいいわよ?」
「地理はね、生きる上で必要ない雑学だからいいの。旅行もツアーとかで行けるし」
開き直る蓮。その時、背中を叩かれたような感覚がした。振り向くと、後ろに座る鬼道が、そっと耳打ちをしてきた。
「……白鳥、韓国だけは確かにアジアだな。だが、アメリカとブラジルはアメリカ地区、イタリアはヨーロッパ地区の出場国だ」
とっくの昔に呆れを通り越した、疲れきった声に、蓮は静かな怒りが込められているのを感じた。声には出さないが、鬼道はいい加減にしろと怒っている。蓮は、ありがとうと手短に用を済ませると、前を向いた。振り向きたくなかった。背中越しに感じる妙な圧迫感を無視しながら、リサに気になったことを尋ねる。
「でも、マネージャーになるなら祖国のアメリカでなればいいのに。アメリカも、出場してたでしょ」
その瞬間、リサは、
「……マーク」
寂しげに、愛しげに、誰かの名を呼んだ。小声だったので、そして無表情だったので、秋以外には聞こえなかった、気づかれなかった。マークの名を聞いた秋は、心配そうにリサを見つめる。リサは、すぐに笑顔に戻り、にやりと口角をあげた。
「日本代表のことなら、すぐにわかるわ。……ヒントは魔術師のキーワード、ね」
〜第一話終わり〜
蓮の地理バカは世界レベルに到達しています←