二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 短編集-花闇-【雑食/黒子短編うp】 ( No.19 )
- 日時: 2014/05/18 23:33
- 名前: 帆波 (ID: QxOw9.Zd)
- 参照: http://www.kakiko.info/bbs2/index.cgi?mode=view&no=8089
北伊夢「 アトリエに、少女が一人 」
・フェリのアトリエに少女が迷い込む話。
春の陽気が心地いい。仕事は珍しく昨日のうちに終らせたし、今日はまったりと絵でも描きたい気分だった。枢軸三人で遊ぶのもいいけど、最近はルートも菊も忙しそうで邪魔はしたくないから。…そうだ。折角だし、俺達三人の絵でも書こうかな。それで、描けたらまた今度二人に見せよう。場所は……うん、菊の家がいいなぁ。菊の家のエンガワってところでオチャを飲みながら三人で絵を見るんだ。…楽しみだなぁ。
二人の笑顔を思い浮かべると自然と口元が緩んで仕方がない。画材を詰めた木箱を両腕に抱いて、俺の家の外れにあるアトリエに急いだ。
北イタリアの外れにある自然豊かな土地の中に、俺のアトリエは建っている。まともに舗装された道もなくて、手入れもあんまりされていないみたいだけど、それでも鬱々とした様子はないし、寧ろこの晴れた日には木漏れ日が差し込んで綺麗なのだ。
「ここに来るのも久しぶりだよ〜。最近は俺も忙しかったからなぁ」
木造のアトリエの壁をぽんぽんと叩き、痛んでいる様子がないか確かめる。放置していたにしてはあまり痛んではいないようで、少し安心した。よーし、まずはキャンバス張らないとなぁ。
ぎぃい、と音を立てる扉を開けてアトリエに入る。白樺のテーブルと椅子、出したままのティーポット、ギルベルトの小鳥の木彫り……。隅から隅までを見渡して、一つひとつの物を確かめていく。あぁ、あの時計は止まっていたっけ。あとで電池変えとかないと。…あの木彫り、本当はギルベルトにプレゼントする予定だったんだけど、ちょっと失敗しちゃったからやめたんだった。そうそう、あの女の子は……、
「……おおお、女の子…!?えぇええええ!?お、俺まだ何にもしてないよ!俺、無実だから!」
両手を上にあげて、何もしていませんポーズをとった。今ここに白旗があるなら、何に降参するかもわからないけどとりあえず白旗を振りたい気分…。
部屋の隅にある簡易キッチンのカウンターに身を預けて寝ているのはどう見ても女の子で、穏やかな寝息をたてている。ど、どうしたんだろうこの子…迷子かな、寝てるけど…。予想外の来客に驚きと焦りを隠せずにあたふたしても、結局此処にいるのは俺とこの子だけで、しかもこの子は寝ているわけで。…なんだか俺だけ焦ってるみたい、恥ずかしい。うん、ここは一回落ち着こう。ルートも、予想外の出来事に対処するにはまず一度落ち着くべきだって言ってたし。
ゆっくりと深呼吸をしたら幾分か余裕を取り戻した。…とりあえず、この子を起こさなくちゃ。おーい、ねえ起きてよ〜、なんて声をかけながら座り込んで寝ている女の子の肩を揺すってみる。あ、よく見たらこの子ベッラだ…!
すると、中々に寝起きがいいようで、女の子は小さく声を漏らした後、ぱちりと目を開けた。俺と同じ琥珀色の目と視線がかち合う。女の子は寝ぼけ眼をどんどん見開いてわなわなと唇をふるわせた。焦る顔も流石はベッラ、様になってて可愛いなぁ、なんて。
「ど、どちら様でしょうか…っ」
「んーっとね、俺一応このアトリエの持ち主なんだけど……。…君こそどうしてこんなところにいるの?迷子かな?」
「わ、アトリエの持ち主さんでしたか…!すみません、素敵な外観に惹かれて少し覗いてみたら埃が被っていたもので、もう使われていないのかと……。」
「いいよいいよ〜、俺も最近使ってなかったし、君みたいなベッラに好きになってもらえたんなら、俺も嬉しいよ!」
「べ、べっら?私が…ですか?」
「うん、勿論!」
ベッラを前に口元がにやけて仕方が無いのをにこにこ笑顔で誤摩化しながら言うと、女の子は急に顔をトマトみたいに真っ赤に染めて両手を頬に押し付け、そのまま黙ってしまった。返事は帰ってこない。
あんまり褒められ慣れてない感じかな、可愛いのに。でも照れてるところも可愛いね。そう言おうと思ったけど、また更に彼女を困らせてしまう気がして、すんでの所でその言葉をのみ込んだ。代わりにもう一度笑顔で、同じことを問うた。
「それでさ、こんなところまでくるなんて…どうかしたの?迷ったんなら俺、送るよ?」
「っ……、あ、いえ、いいんです。此処には自分で来た、ので」
触れてほしくない話題だったのだろうか、女の子は悲しげに目を伏せて再度俯いてしまった。その一連の動作は酷く寂しそうで。胸の内に罪悪感と、何とかしてあげたい気持ちがじわじわと滲んでくる。こんな顔を見て黙っていられるほど、俺はヘタレじゃない。少なくとも女の子の前では格好良くありたいんだ。…そして何より、俯き様に見えた目に溜まった透明な雫が俺の心を強く揺さぶって。
「あの、さ。俺でよければ、話してくれない?君の泣き顔は見たくないよ」
「…ぅ、っぁ、……い、いいんですかあ…?」
「ヴェ〜、勿論であります!」なんて軽い笑顔で言い放って。それにしても、なあ。
…なんで”君”って、言っちゃったんだろ。いつも女の子っていう場面なのに、……なんてね。
「へぇ〜、君ってパン屋さんなんだ〜!」
「そ、そんな大したものじゃないですよ。厨房には立たせてもらってますけど、まだアルバイトの身ですから」
「そっかぁ、じゃあ将来の夢は自分のお店を持つとか?」
「えへへ、一応…。随分先になるってわかってるんですけどね」
「きっと叶うよ!あっ、その時は俺呼んでね!君のパン、食べたいな〜」
「! いいんですか!?その時は、是非!わたしもフェリシアーノさんに食べてもらいたいです!」
にぱ、とまるでお日様みたいな笑顔が真っ直ぐ俺に向けられた。俺もつられて笑みを零す。なんだか久しぶりだなぁ、ナンパじゃない時に女の子と話すなんて。さっきまで元気がなかったのに、今ではすっかり俺に打ち解けてくれて、謙虚さを見せながらもはにかむ姿は俺の目にとても魅力的に映った。ころころと目紛しく変わる表情から目が離せなくて、ずっとその笑顔を俺だけに向けていて欲しい。そんな醜いような、でも仕方ないような欲が出てきて、何とか繋がりを持とうと一つ提案をした。
「ねえねえ、今度さ、俺と遊びに行こうよ!俺、イタリアのことならなーんでも知ってるから!穴場スポットとか〜、パスタが美味しいレストランとか!」
「ほ、本当ですか?……フェリシアーノさんがいいなら、お願いしてもいいですか…?わたし、あんまり遠出とかした事なくて」
「そうなの?ならうんと遠いところいこうよ!南の端の端にね、地中海眺めながら美味しいパスタが食べれるレストランがあるんだぁ」
「素敵ですね。わたし、ボンゴレパスタが食べたいなぁ」
「じゃあじゃあ〜、俺ペスカトーレ!」
はいはい、と授業中に当ててほしい時のように勢いよく手を挙げ、それを見た彼女は口元に手を当ててくす、と笑みを零した。…まるで恋人同士みたいだなぁ。
陽光が差し込むアトリエ内に二人っきり、なんてシチュエーションだけでも端から見れば恋人同士に見えるに違いない。……ああもう、焦っちゃだめだ!もっともっと仲良くならなくちゃ。そのためには、次のお出かけは特別なものにしないとね!ヴェ〜、楽しみ!
「…?フェリシアーノさん、どうかしましたか?」
「…へ?え、何か俺変なことでもした?」
「あ、いえ、一人で楽しそうに笑っていたので…思い出し笑いとかですか?」
「ヴェー…どっちかって言えば、これからのことを考えてた、かな」
「……?」
訳が分からないといった風に小首を傾げた君に、なんでもないよ、気にしないで。と誤摩化した。だってまだ君は知らないんだもんね、俺の気持ちなんて。でもこれから知ってもらえばいい、時間はたっぷりあるんだから。絶対に振り向かせてみせるよ。
——一人決意したその時、彼女の顔が陰っていたことは、まだその時の俺は知らなくてもいいことだ。
アトリエに、少女が一人
((ごめんね、こんな狡い奴で。でもきっと君を振り向かせるから))
((ごめんなさい、貴方の好意に気付いていないわけじゃないの。ただ貴方の気持ちに答える権利がないだけ))
後書き
ねえねえ、なんでわたしって甘ってものが書けないの?なんでいっつも最後に暗い方に持っていくの?馬鹿なの?
…というわけで、参照の方のお題屋さんから頂いたお題の消化その1です。ヘタ.リアより、フェリシアーノ短編でした。
本当はですね、ヒロインちゃんこんな性格のはずじゃなかったんですよ。泣きもしなかったはずなんですよ。アトリエに迷いこんだ不思議系ヒロインちゃんにフェリが惹かれていくっていう話のつもりだったんです。…ごめんなさい、全力で謝ります、すみませんOTL
わからない方に解説いたしますと、…っていうか今ので全てを理解できる方は恐らくいらっしゃないので説明しますと、
フェリ→(←?)ヒロイン→彼氏→誰か
ってな感じですね、はい。ヒロインちゃんが泣いてたのは恐らく彼氏さんの浮気現場でも見たいんじゃないかな〜(鼻ほじ←
実はそこんとこ結構曖昧なんです。完璧雰囲気で書いてましたてへぺ((ry
次はろっさまか兄ちゃんかメリカがイギギになります。設定的にはろっさまとメリカが優勢です。…春待ち組!Σ