二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【竹取物語】二次小説【羅生門】 ( No.6 )
日時: 2012/05/02 23:07
名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: ijs3cMZX)


今日は数十年前に卒業した、高校の同窓会である。
同窓会は、母校の近くの、宴会場も兼ね備えた豚カツ屋でやるそうだ。現地集合ということで、時間の十分前にここに来た次第だ。


だけど。

「どうして誰も来ない……?」
私以外、誰一人としてやって来ない。何故だ。何故なんだ……!
もしかしたら集合場所を間違えたかな、と思って幹事から送られてきた招待状のハガキをバックから取り出す。間違いない、ここの豚カツ屋さんであっているのに!

「あ、」
もうやだ消えたい。場所は合っているが、日にちが違かった。昨日だった。同窓会は、昨日。
何と言うか、ショックすら感じない。言葉が出ない、とはこういうことなのだろう。ただただ虚しくなる私の頭上で、雀の子が数匹、楽しそうに鳴いている。

わざわざ数時間もかけて地元に帰って来たのに、このザマ!
あまりにも悔しいので自棄になって豚カツ屋ののれんをくぐる。もういい、この際一番高いセットを頼んでしまおうか。
カウンターを通り、窓際の日なたの席に案内された。店内に客は少なく、中年の二人組のおじさんが向こうの方で煙草を吹かしているだけである。
とりあえず、渡されたメニューをパラパラとめくった。なんかもう、定食でいっか。呼び鈴を鳴らすと、はーい、と威勢のいい返事が聞こえて、ウェイターがやって来た。

「お客様、ご注文は……って乙海?」
「へ?」

驚いて顔をよく見ると、自分と同年代くらいの男のウェイター。
「あ、もしかして……高校でクラスが同じだった、鬼塚?」ここでバイトしていたのか。
「そうそう!ああ、じゃやっぱり乙海だ!久しぶりだな〜。っていうか、なんで昨日の同窓会来なかったんだよ。みんな会いたがってたぞ。」
「私だって会いたかったよ。」半ば、ふて腐れて言った。「聞いてよ、ほんと阿呆な話でさ。あたしったら、今日だと思ってたんだよ、同窓会。」
すると鬼塚は大笑いした。「成程!いやーそりゃ笑えるね。」ギャハハハハ、と鬼塚は加えて笑った。
「……む。仮にもこっちはお客様なんだからね。とりあえず日替わり定食お願いします。」
「まぁ、怒るなって。了解いたしました〜。少々お待ちくださいませ〜。」
ふざけたようにペコリとお辞儀すると、鬼塚はそのまま小走りで厨房の中に消えていった。……ったく、本当に適当な奴である。

その時、ガラガラ、と店の戸を引く音が聞こえた。振り向くと、お客さんが一人、入ってきているところだった。今度は鬼塚ではない、女のウェイトレスが客を案内する。
「日が当たる席がいいな。」そう、その客が何気なく頼んだ。

結局、その客は私より二つ向こうの席に落ち着いた。若い男の人で十歳くらいは私より年下に見えた。
どうしてか私はその人物がやけに気になってしまい、遠慮も無くジロジロと観察してしまった。その視線に気が付いたのか、その男の人はこちらに振り返ってきた。
マズイ、と思った時にはもう遅かった。ガッツリと目が合う。

「あれ……確か……。乙、海さん、だっけ。」その人は、確かに私の顔を見ながらそう言った。
「え、そうですけど。すいません、どなたでしたっけ?」

するとその人は朗らかに笑った。言われてみれば、どこかで見たような気もしないでもない顔である。「印象の薄い顔だ、ってよく言われてきたけど。さて、僕は誰でしょう?」
「あー……」今更だが、かなり整った顔をしている。「すみません、私ったら思い出せなくて。」
「そっかぁ、残念。岩笠って言うんだけど。ほら、吉川先生の替わりに古典をやった。」
「あ、思い出した!岩笠先生ですよね!いやぁー本当にすいません。でも本当にお久しぶりですよね。」


正直、驚いた。
特別、目立っていたわけでもない私のことを覚えていたなんて。しかも、岩笠先生と関わりがあったのは十数年前の、七月、たった一か月の間だけである。
「もう何年たったんでしょう。でも先生、随分とお若いままですねって……あれ?」

私は今、三十四歳。でも、目の前に居る岩笠先生は見た目二十代前半。って、あれ?あれ……?

気持ちが表情に出やすい私は、きっと物凄く混乱した顔をしていたのだろう。その様子に気が付いてか、岩笠先生は悪戯っぽくクスクスと笑った。

「驚いたでしょう?」笑いながら、岩笠先生はウェイトレスが運んできたグラスの水を飲んだ。「僕だって驚いた。まさかここで乙海さんと……お、それに鬼塚君とも再会できるなんて。」

気が付くと、鬼塚が頼んだ定食を私の目の前にことん、と置いていた。もちろん、鬼塚も相当に驚いた顔だ。