二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 青の祓魔師 〜漆黒の記憶 Dark memory〜 ( No.351 )
- 日時: 2012/01/29 12:05
- 名前: 月那 ◆7/bnMvF7u2 (ID: IsQerC0t)
第十四話 「明けの明星」
「はあ、はあッ、はッ」
男は真夜中の路地を走る。まるで化け物にでも追われているかのように、全速力で。顔は死人のように青ざめていた。男は曲がりくねった路地の角を曲がる。するとそこは行き止まりで、目の前には巨大なビルの壁があった。
——————コツ、コツ、コツ。男の背後からブーツの足音が聞こえる。その音を聞くと、男の顔はますます恐怖で青ざめ、引きる。
——————コツ、コツ、コッ。足音が止まった。男は恐る恐る背後を振り返る。するとそこには一人の少女が立っていた。
少女は白のコート、ワンピース、ブーツという純白の衣装を身に纏っていた。少女の肌は雪のように白く、その右手には、白とは対照的な黒の銃が握られている。
少女は紺碧の瞳を男に向ける。その瞳には光がなかった。否、———生気がない。まるで感情の無い人形のようだ。少女はコートのフードを被っていたが、そこから見えた顔は整っており、とても美しかった。だが、今の男には恐怖で見えなかっただろう。すると、少女は薄桃色の唇を開き、男に言う。
「・・・おとなしく私に殺されて下さい。貴方の仲間の方はもう殺しました」
「・・・なッ! お、お前は何故こんなことをするんだ!? 同じ人間だろう!?」
男の言葉に無感情の瞳を向け、少女は冷たく言う。
「貴方を殺すのはある方からの命令ですから。私は・・・人間でもあり、人間でもありません」
「?」
少女の言葉に男は意味が分からないという顔を浮かべる。
すると、少女の背後に二つの黒い影が降り立った。影は少女のコートとは対照的な黒のマントを羽織っている。二人の人物は被っていたフードを外す。
「まだ殺ってないの〜、シュリュッセル?早くしないと夜が明けちゃうよぉ」
「はい、すみません、リラ様。ただいま実行いたします」
影の片方、リラと呼ばれた、少女が純白の少女、———シュリュッセルに上から目線で言う。リルは金色の髪を掻き分け、薄桃色の瞳でシュリュッセルを見上げる。そんなリルはシュリュッセルより背丈は低く、どこか幼い感じがした。
すると、シュリュッセルは男に銃口を向け、ゆっくりと引き金を引く。
「まて、助けてくれ。お願いだ!助け—————」
男は言い終わらないうちにシュリュッセルは撃つ。巨大な音と共に、男の心臓には一つ穴が空き、鮮血が溢れ出す。スローモーションのように男はゆっくりと地面に倒れる。
シュリュッセルは飛び散って顔についた男の血を拭う。その瞳にはやはり感情というものが無い。血はコートやワンピース、ブーツにも大量に付いていた。
男は死にかけながら一筋の涙を流す。今も胸からは血が溢れ出ており、祓魔師のバッチも真っ赤に染まっている。
どうして自分がこんなめにあわなくてはいけないんだろう。仲間の祓魔師にも罪はないのに——————。 そんな男の心を読んだかのように、リルと同じマントを羽織った青年が言う。
「それはなぁ、選ばれたからなんだよ。あの世で誇りに思うといいぜ?オスクロラ様の“余興”のための《生贄》に選ばれた、ってな? アッハハハハ」
青年はダークブルーの髪を緩く縛り、眼帯を着けていない左の銀色の瞳で男を見下す。
「うっわぁ〜。セイってばやっぱりSだ・・・」
リルは思わず口に出して呟く。
「ん? なんか言ったか、リル? ・・・それより藍華、ちゃんと名は名乗ったのか? オスクロラ様は《生贄》にもちゃんと名は名乗れと言ったからな」
「はい、セインラ様」
そう言うとシュリュッセルは死にゆく男の前でお辞儀をし、ゆっくりと名を名乗った。
「はじめまして。蔀藍華と申します。またの名を《シュリュッセル》といいます。今晩は貴方の—————《生贄》様の血を頂きに参りました」
少女は感情の無い瞳でニコリと微笑む。そして澄んだ声で詩を詠み始めた。
闇より現れし 古の扉よ
今 血の雫で滴りし その身を捧げん
黒き迷宮を鮮血に染め上げ、
紅の楽園へと創りあげよう
すると、少女の胸がキラリと光る。少女の胸に掛かっている赤みがかったペンダントが、金の紋様に添って開かれる。そこにあったのは—————闇。闇は男を包み込む。
「っあ、・・・あっ、あああ」
死にかけの男は声を上げるが言葉にならない。数秒後、闇は男から離れ、ペンダントへと吸い込まれ戻っていく。
少女は男に目をやると、そこには男はすでに死に絶えていた。しかし、先ほどあった大量の血は無くなっている。今度はペンダントに目をやると、先ほどより赤みが濃くなっていた。
「シュリュッセル ご苦労様ーー!! じゃあそろそろ夜明けだから、戻って。ね?」
「はい、かしこまりました」
リラの言葉に少女は頷き、目を閉じる。「じゃあ、いっくよーー!」とリラは少女に向かって両手を伸ばし、静かに唱える。
汝 ジョウハクの名の下に鎮めよ
錠拍の境界線には裏と表が一体になる
黒と白が入れ替わる時が鎮めの時がなるだろう
レンジェント ピュール サルバドル
リラが唱えた途端、少女の体は電池が切れたロボットのように崩れ落ちる。が、その体をセインラがしっかりと支える。セインラの腕の中ではスヤスヤと眠りについている。
「さて、いくか」
「うん。いこー」
セインラは少女を抱え直し、リラと共に歩き出す。
空を見上げると西の方では沈みかけの月が、東の方では昇ってきたばかりの太陽と瞬く金星———明けの明星———があった。
〆 1月29日