二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【リボーンと】月下で交わる二人のオレンジ【BLEACH】 ( No.13 )
日時: 2011/12/05 21:05
名前: 月牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: xOnerCAx)


「百倍ぐらい? 咬み殺しがいがありそうで楽しみじゃないか」

 沢田が訊いた質問に対し、雲雀はあっさりと楽しそうだと返した。その表情はとても嬉々としていて、やはり戦闘の中に身をおいてこその人間なのだという印象をより強く刻みつけられる。牙を剥くように、そのトンファーが輝く。

「じゃあ……あれはどうでしょうか?」

 驚きで白目になり、大量の冷や汗が顔の上を流れるその焦った状態で沢田はもう一度質問する。ゆっくりと、右手を上げながら。その人差し指で指されている咆哮を一同は同時に見つめた。そこには、とても巨大で巨人と説明するのが適したような妙な怪物がいた。
 ただし、さっきの奴とつながりがあることは否定できない。なぜならそいつは、鼻のような部分が長いことは別として、同じような真っ白な骨のような仮面を付けていて、胸の部分にはぽっかりと孔が開いていた。

「オイオイ、あれは……でかすぎんじゃねえの?」

 沢田同様に、とは言ってもそれほど多くはないが少しの冷や汗を流した山本が焦燥混じりの笑いを浮かべて小声で言い放つ。ちょっとした呆れ顔だ。この世にこんな化け物が本当にいることが信じられないと、少し硬直気味だ。もっともそれは、彼一人だけの話では無かったのだが。
 横を見ると獄寺も、良平も、クロームも、あのランボでさえも呆気に取られていた。そんな中、冷静に努めようとしているのがリボーンであり、子供がはしゃぐような嬉しさを抱えているのが雲雀だった。

「ワオ……こんな大物滅多に逢えないよ」

 そう言い終わるが早いか、動きだすのが早いか、彼は一気にその化け物に飛びかかった。迂闊に攻め込まない方が良いと沢田は未知の敵に対する仲間を制しようとしたが、もう遅かった。止めようとしたのだが、それよりも早く雲雀は駆け出した。
 その次の瞬間に気付く。一体目の化け物の咆哮と同時に歪んだはずの景色は、もうとっくに元に戻っていた。だが……その景色はもはや、並盛ではなかった。
 だがそこに注目している余裕なんてなく、その鼻の長い巨人は自分たちを狙うかのように少しずつこちらへと歩んで来ていた。その巨体が踏み出す度に地面が揺れているような感覚がする。颯爽と駆け出した雲雀はもうすでにかなりのところまで進んでいた。

「あいつ一人に任せられっかよ! 行くぞ野球バカ!」
「おうよ!」

 これ以上手柄を雲雀一人に奪われるのは癪だと思った獄寺は、隣の山本に声をかけて自分も駆け出した。短くそれに了解の意を示した竹刀を持つ彼も後を追うように駆けだした。

「えぇい! よく分からんが行くしか無かろう!」

 そう言い残して了平も駆け出した。八人中四人は揃って勇敢に向かったのだが、残っている四人はあまり動く気配が無かった。まずクロームは、その巨体を遠くから収めて全員に視覚情報を与えるため。リボーンは素性の知れぬ敵とは関わり合いになりたくないため。ランボは全く危機的状況を察していないため。そして……沢田は完全にびびってしまっているため。

「どうすれば良いんだよ……こんなの相手に……」

 その巨人の足元にたどりついた四人は、一斉に攻撃を始めようとする。しかし、その敵とて黙って攻撃されるために派遣された訳ではないだろう。寄ってきた何人もの有りに対応するがごとく、彼は口元に光のエネルギーを溜め始めた。それに気付きもせず、下では四人が全員匣<ボックス>を開匣した。赤、青、黄色、そして紫の炎が入り乱れながら数多の衝撃がその大きな化け物の脚を襲う。だが、多少のものは意に介さないといった感じで、そいつはまだまだエネルギーを溜めて行く。

「ヤバいって! あの口元のあれ……相当だよ!」

 彼の、沢田の血に流れる本能、超直感があれが危険だと察した。超直感、ボンゴレのボスの血筋を引く者だけに現れる、人知を越えるまでの洞察力。

「ファミリーの危機はボスが救うもんだぞ、行ってこい」

 そしてリボーンは、あろうことか沢田に銃口を向けた。ファミリーではなく友達だと、訂正させようとしたのだが、赤ん坊のクイックドロウ(早撃ち)は相当のもので、その時にはすでに眉間に弾丸が撃ち込まれた。
 しかし、それでも撃たれた沢田は死にはしなかった。流血することも無く、何事も無かったかのようにそこに立っている。だが本当に何も無かった訳ではない。手にはいつのまにか炎を放つ厳ついグローブを付けていて、撃たれた眉間からは透き通るようなオレンジ色の炎が放たれていた。瞳の色も、オレンジに変わっている。

「行けるか? ツナ」
「もちろんだ」

 今までの態度や雰囲気とは打って変わって、落ちついた声音で彼は返答し、手から放たれる炎の推進力で空を翔けるように飛び出した。やっと行きやがったかと、リボーンにニッと笑った。
 ここまで激しい人格の変わりっぷりは全てリボーンの撃った弾丸に由来する効果である。放たれた弾丸の名は『小言弾』。沢田の中に眠る、静かなる闘志を呼び覚ます効果を持つ。撃ち抜かれた眉間からは透き通るような橙色の炎が迸る。彼の所持している系との手袋は、その戦闘時において絶大なる威力を発揮するグローブに変化する。そのグローブの手の甲の部分には手のひらサイズの大きなクリスタルがはまっている。その戦闘状態のことを、『超(ハイパー)モード』と呼ぶ。
 そしてその状態では手袋から炎を発射することで、相当の推進力を生みだして超高速で移動できる。一般人には視認できない、音速にもかなり近いと言っても過言では無い。その能力<ちから>で、彼は一気にその巨大な化け物に突っ込んで行った。
 その頃、足元では四人がようやく、光の超高密度のエネルギーの収束に気付いた。発射の寸前であり、ほとんど会費にも防御にも間に合いそうにないタイミングだった。

「なっ……あんなの開匣してる暇ねえぞ!」

 ひたすら爆弾を投げまくって攻撃していた獄寺が最初にまず気付いた。もう発射の準備は整ったようで、今にもそれは撃ち出されそうだった。無理だと分かっていても、少しでも威力を緩和させるため、上空遥か高くに彼はダイナマイトを投げつけた。
 空中に放り出された重火器は、尻の部分から大きく火花を上げて加速した。推進用の火薬を後ろ側に仕込んであり、何らかのタイミングで一気に加速する。獄寺の武器の一つ、『ロケットボム』。
 だが、その健闘も虚しく、化け物の口元で集まっていくその莫大な力に呑みこまれて消え失せる。あまりの威力に彼らは舌を捲いた。
 一応のために雲雀が防御壁代わりに自分の匣アニマルのハリネズミを召喚して空中に防御壁を発生させるように指示した。何の無いよりはマシながら、向こうにとって相当に脆弱な結界が出来あがった。
 ついに、向こう側から、その光線は発射された。この威力を彼らはまだ知らない。そして、これもその怪物の名前同様に後から聞くことになるのだが、虚閃<セロ>という。




四話ようやく完成です。
では、次回に続きます。