二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【リボーンと】月下で交わる二人のオレンジ【BLEACH】 ( No.22 )
日時: 2011/12/27 20:27
名前: 月牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: QxOw9.Zd)


「どうした? 剣八。顔色悪いぞ」
「あぁ……何でもねぇよ。で、事情って一体何があったんだよ」

 剣八がひどく驚いた表情を取ったのをいち早く察した一護は本人に何か不都合があるのかと問いただす。事情が全く分からず怪訝そうな顔をしている。そのためか、本来仲間であろう剣八に向けて疑心から生まれる殺気を向けている。
 何やら妙な雰囲気が起こっているなと感じながら沢田達は様子を見守っていた。本来この二人は知り合い、それも心を許した関係なのだろう。一護の、最初にここに現れた時の態度がそれを物語っていた。
 不味いと感じたのか、やちるというあの少女が彼の背中から飛び出してきた。一瞬、沢田の目には藍色のもやが耳の辺りから、ほんの一筋だけ立ち上っているのが映った。

「そうだよ一護。何があったか早く教えてよー」

 この時、沢田達をこの世界に誘った彼は上手く誤魔化せたと思ったのだろう。しかし、外面だけを真似していたとしても、内面を知っている一護は誤魔化し切れなかった。

「お前……本当にやちるか?」

 ふと一護が漏らしたその言葉に、やちるはとても驚いたように目を見開いた。地面を擦る音と共に、彼女は一歩退いた。相対するオレンジ色の少年から、彼の殺気から離れるために。
 やはり何かが可笑しいと思った一護は、自分の背負っている大刀に手をかけ、臨戦態勢に入る。穏便に済む敵ではないと、直感が物語っている。今まで戦いの最中で磨かれてきた本能が。

「ど、どういう事……かな? あたしはやち……」
「やっぱりお前は違う」

 動揺して、しどろもどろの口調で一護をなだめようとする彼女に彼はより一層強い気迫で否定した。お前は自分の知っている者ではない、と。相当に不味い状況に置かれたのか、言われた方の者はと言うと、第三者から見てもはっきりと分かるような冷や汗を浮かべていた。

「まずやちるは、俺のことを一護って呼ばない」

 いつも『いっちー』と、もっと砕けた言い方で呼んでいる、そのように彼は付け加えた。それ以外にも異なる点はいくつかある。
 “本物の”やちるは普通、驚くような事が起こったとしても、目は見開かない。せいぜい、顔から笑みが消える程度だ。まあ、その方が実際怖いのだが。そして最後に、これが一番重要だがどのような状況でも口元でどもるような言い方は決してあいつはしないと、付け足した。

「そういう訳だ。お前はやちるじゃねぇ。だとしたらてめえ、一体誰だ?」
「そこまでばれちゃったら仕方ないっか」

 先ほど沢田の目に映ったあの藍色のもやが今度は剣八とやちる、二人の全身を覆い尽くす。さっきは違うことに気を取られ過ぎていたから全く気付かなかったが、これは自分たちには見覚えがあった。
 なぜなら、自分たちが武器としているものがそれなのだから。そう、それはれっきとした『霧の炎』だった。

「御名答、私は確かにお前の知っている者ではない」

 そうして、霧の炎が払われたところにはそれぞれ一人と一匹、術者がいた。片方は腰に刀を差した、やはり真っ黒な装束を着た男。もう一方は神々しい光を放つ狐。だが、その狐の首にはリングを一部に含むネックレスがかかっていた。そしてその狐の胸には、小さいながらもさっきから何度も見ているあの孔が開いていた。

「…………! そいつ、もしかして……」
「ええ、あなた達が破面<アランカル>と呼んでいる物でしょう? とても強くて扱いやすいですよこの子は」

 ふと、その狐が足元からサラサラと消えていく。今まで見ていた方の狐は幻覚による虚像で、本体はすでに一護の後ろ側に回り込んでいた。そして鋭利なその爪を高々と掲げていた。沢田達はというと、幻覚だとは分かっていたがその速度に対応できていなかった。だが、反射的に声は出ていた。

「後ろだ! 気を付けて!」

 その声を聞きつけた一護は、一瞬目を丸くしたが指示に従って一瞬で後ろに振り向いた。もう少しで爪が彼の身体を引き裂くかと思った瞬間、彼の手元にある大刀が刹那の時間で振るわれた。あっさりと切り裂かれたその狐は、少し前の巨大な奴と同様に、昇華するように消えた。その小さな狐が消えた跡として、その場にリング付きのネックレスが転がった。

「お前ら……俺が見えてんのか?」

 剣八——いや、剣八に扮していた一連の異変の黒幕とは違って、彼はクロームの予想通り、姿が見られていることに関してひどく驚いた。だが、その隙を突かない程甘い相手ではなかった。この揺らいでいる時間は好機だと感じたのだろう、得体のしれぬ男は、その漆黒の髪を風に当てながら腰の刀を抜いて斬りかかった。
 だが、その程度の低俗で低レベルな不意打ちに敗北するほど、一護も弱くは無い。放たれ始めた強い殺気に瞬時に反応し、一閃される刃に自信の刀を合わせた。金属同士の擦れ合う音が五月蠅く響く。火花を上げて二つの力の塊はお互いを吹き飛ばした。
 地に足を付けた両者はすぐに摩擦で勢いを殺し、体勢を立て直す。立て直した瞬間に我先にと駆けだした黒髪の男に対し、オレンジの少年は次の一歩を踏み出そうとしていない。

「動作が遅いですよ、迂闊ですね」

 見る間に開いた間合いを詰めていき、勝ち誇った余裕からか上から目線で一護に声をかけた。愉悦感に浸りながらゆっくりと剣を振りかぶるが、その余裕の表情はすぐに崩れた。

「月牙……」

 月牙、そう一護が呟いたタイミングでせっかく詰めた間合いを、黒髪の男はもう一度開いた。何かを回避するために。
 次の瞬間、一護の持つ巨大な剣の刃の、鋭利な切り裂く部分が輝きだす。そしてそのまま大刀を振り下ろした時に、とてつもない威力の斬撃が生まれた。空間を削り取るような高威力高圧縮の大気を翔ける斬撃、さっき自分たちが真に見たのはこれだったのだと、沢田を初めとする八人は納得した。

「天衝!!」

 一本道の長い長い大通りに、一筋の亀裂を残して、飛ぶ斬撃は一直線に突き進む。間一髪といったところで相対する男は回避する。巻き込まれた前髪の先端部分がチッという、小さな音を立てて切断された。斬られた髪の毛は空中をパラパラと舞い落ちる。

「くっ……やはり強いですね。それならば仕方ありません。少々、本気で行きましょうかね?」
「勝手にしろ。待ってやるつもりはねえけどな」
「では……」

 そう言って彼は剣を後ろに少し下げて、切先だけを一護の方に向けた。フェンシングをするようなスタイルだ。そのまま突きを繰り出すにしてはあまりにも距離が開き過ぎている。

「射殺せ……」

 今度顔色が変わったのは、一護の方だった。








珍しく一回で完成です。
射殺せ、というとやはりあの人のあの刀ですよね。
散れとどっちにしようか迷いましたがこっちを選びました。
では、次回に続きます。