二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 【リボーンと】月下で交わる二人のオレンジ【BLEACH】 ( No.25 )
- 日時: 2012/01/06 16:43
- 名前: 月牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: Jagfnb7H)
「射殺せ……」
「・・・…! それって市丸の……」
剣を引いたままの状態で、黒髪の男は何かを指示するように呟いた。射殺せ、と。ただ、何に対して誰を射殺すのか、そのような事に一々気を配らせても答えなんて全然出ない。なぜなら沢田たちはこれのオリジナルの使い手を知らないのだから。それで、知っているからこそ一護は目を丸くし、絶句しそうになるほど驚いている。
一護の呟いた市丸という男の本名は市丸ギン、かつて彼を含む彼ら数多の『死神』と呼ばれる者たちを裏切った三人の死神の中の一人。万全に近い状態の一護が手間取った、さらには止めを刺せなかったほどの実力の持ち主。
「神鎗(しんそう)」
ようやく黒装束の男が命令した相手が沢田達にも察することができた。彼が指示した相手は、生きている者でも死んでいる者でも無く、意思と闘うための能力<ちから>を持った刀だった。「射殺せ、神鎗」の掛け声でその刀は高速でその刀身を伸ばした。
たったそれだけと言われたら確かにそれだけの話だろう。しかし伸縮の威力も相当で伸びる勢いも相当だとしたら、銃弾よりも遥かに鋭い刃は容易に人間など貫けるだろう。その恐ろしさは一護はよく知っている。危機感を強く感じた一護は迫りくる刀を、咄嗟に自分の大刀を地面に突き立て、その刃の側面で受け流した。誰にも当たることなくその伸縮は限界まで伸びた後に止まる。その長さは、言うとするならば刀百本分だ。
「ふむ、この程度ならあっさりと防げるのですか」
「てめえ……どういうことだ。その斬魄刀は市丸のもんだぞ」
「知っていますよ。まだ僕の力が見たいですか?」
何、と余韻を残して眉間にしわを寄せて一護は訊き直した。目の前の素性の知れぬ死神の言っている事の意味が分からず、適した対応を取ることができない。ただ、自分が理解できるところまで訊いていくしか。
「では一つ、面白いものをお見せしましょうか」
「別に、見てやるつもりは…………」
その瞬間、オレンジ色の髪の死神は、一般人にとって特殊な、死神にとって基本的な歩法で、瞬間的に加速した。これを“瞬歩”と呼ぶことを後々になってボンゴレファミリー一行は知る。
「ねぇよっ!!」
現れた一護が飛びだしてきたのは、黒い髪の毛の死神の右側。完全に死角を取り隙だらけの状態だ。そこに先ほどの“月牙天衝”を全力で繰り出そうとした。今にも刃を振り、光の剣戟が敵の姿を捉えようとした時に刀の真の力が解放された。
「奪い取れ………………………空蝉写し(うつせみうつし)」
いきなり現れた鏡にしては大きすぎる鏡が、盾のようになって月牙天衝を防いだ。衝突する時に爆風を巻き上げるも、その鏡は割れるどころか傷一つ付かなかった。まるで無敵の防御壁のように、傷一つ付いていない『完璧』としてそこに或る。だが、あまりにも早すぎてほとんどの者に見えなかったそのからくりを一護は見切った。
現れた鏡に自身の一撃が直撃する瞬間、感じることさえ困難なほど短い時間だけこの鏡面からは光が放たれた。それも懐中電灯ほどの弱い光だ。その次の瞬間に月牙天衝の一部は鏡の向こう側に吸い込まれた。役目を終えたと言わんばかりに鏡は薄れて、景色に溶け込むように消えていった。
今のは一体何だったのか考えている暇も余裕もない。一体何が起こったのか分からないならこれ以上情勢が悪くなる前に叩くしか手段は無い。包帯のように、白く平べったい捲き紐に込める力が無意識のうちに強くなる。次の月牙天衝で決めてみせる、それだけを考えて霊力を込めていく。
すると、説き伏せるようにして目の前の死神は話しだした。
「そろそろ、自己紹介をしておきましょうかね。僕の名前は宇木 了平(うき りょうへい)。これが僕の斬魄刀、“空蝉写し”です。本体はさっきの鏡ですよ」
「それがどうした? 市丸の力を使える説明にはなってねえぞ」
「この先の説明で、そういう説明になるのですよ。僕の刀の能力は、生きている者ならば死神、人間、虚<ホロウ>、破面<アランカル>、大虚<メノス>を問わずにその力をコピーするものです」
意気揚々と、得意げに宇木と名乗った彼は自分の斬魄刀の能力を告げた。そんなもの隠しておいた方が有利だというのにだ。そしてこれは一つのことを暗示している。この男は市丸と接触したことがあると。さらに不味いことに、市丸と会ったことがあるならばきっと『あの男』とも接点が合っただろう。もしもそうだとするならば、一護以外に闘える者はいない。
「死神……ホロウ? アランカルって、メノスって何だ?」
その二人のやりとりを目の前にして沢田達は強い驚きを隠せていなかった。見たことない奴が目の前で見たことの無い力で闘っているのだ。その上意味の分からない言葉も出てきたのだ。やり場の無い感情と疑問を誰かに押しつけたくなってもおかしくない。
「ああ、君たちはまだ知らないのでしたね。教えましょう。この世界はあなた達のいる世界とは違う、死者が向かう場所が存在する世界です」
「死人が向かう場所のある……世界?」
「はい、戸魂界<ソウル・ソサエティ>と言います」
「SOUL SOCIETY……(魂社会)」
ソウル・ソサエティという名を聞き、咄嗟に日本語に変換してより深く獄寺は意味を呑みこんだ。要するに地獄でも天国でもない黄泉の国といった所だろう。
「そこには死神という、一種の警官のような存在がいるのですよ。彼らは心を抜かれた死人の成れの果て……元々人間だったが理性を無くした虚という化け物を退治しているのです。虚というのはそこの雲雀くんが倒したあれですよ」
そう言われた八人はその姿を思い返した。像ぐらいのサイズで四足歩行のおおよそ人とも生物とも言えない妙な姿。まるでこの世の者ではない風格とおどろおどろしさを持っていて、動物を遥かに凌駕する力を発揮した。
「その虚の中でも、複数のそれらの魂が溶けあい、個を失った者が大虚です。これはさっきの鈍重な奴ですね」
「さっきのあれか……あれには、手も足も出なかった」
「そうでしょう、そちらの世界には脆弱で話にならない者しかいない」
それは聞き捨てならないと、ずっと離れた所で黙っていた雲雀が姿をもう一度現した。自分が雑魚扱いされるのは彼にとって何よりの侮辱、それを言う者には容赦しない。一気に咬み殺すつもりなのかもうすでに手にトンファーは握られている。
「勝てるとは思わないように。後、忘れているみたいですが、もう複製は完了しましたよ」
自分たちが何を忘れているかよく思い出せなかったがつい先ほどのシーンを思い返すことでようやく気付いた。特に沢田は超直感が補助したこともあり、より一層それが早かった。
「さっきのあれだ! 早く逃げないと!」
「月牙天衝……」
宇木の持つ日本刀がの刃に霊圧が込められていく。先ほどの一護の一撃と全く同じように————。