二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【リボーンと】月下で交わる二人のオレンジ【BLEACH】 ( No.29 )
日時: 2012/01/15 20:49
名前: 月牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: Vkpu3Lr3)


「さっきの神鎗……そう考えると、やってみる価値はあるな」

 自信の技をそっくりそのまま奪い取ったと宣告されたというのに、一護は全く動揺していなかった。それどころかどうやら突破口が開けたようで、試してみる価値はあると呟いた後にまたしても霊圧を刀に込める。もう一度、月牙天衝を放つつもりだ。
 どういう意図があるか、余裕が無いのだから仕方ないが説明を受けていない沢田達は一護に声をかけた。

「危ないって! 自分だったら分かってるでしょ、あんなの当たったらひとたまりもないって!」
「大丈夫だって。誰だか知らねえし、何で見えてんのかも分かんねえけどとりあえずそんなにビビる必要性はねえよ」

 その自信満々の声音の、その理由までは分からない。でも沢田はその人格からか、彼に流れる血に溶け込んでいる超直感の能力からか、すぐに悟った。目の前のオレンジ色の髪の青年は錯乱も混乱もしていないし、嘘を吐いている訳でも無謀な賭けをしている訳でもないのだと。
 悪性の強い人間には一切見えない。今までの行動を考えるとどう考えても正義側の人間だ。だから沢田はその言葉を信じてみようと思った。全速力で後退する仲間たちを差し置いて、一人だけその場に立ち止まって見守るようにして眺めている。

「沢田ぁ! 何をやっている、早く逃げるのだ!」
「十代目、言いたくないですが、あいつには敵いません……ここは撤退した方が……!」
「ツナ、良いからすぐ走ってこっちに!」

 もうすでに彼の耳に仲間の、友達の声は入っていなかった。ただ茫然と自信ありげな少年の刀の一振りを見守っている。いや、見とれているの方が正しいだろうか。一護の、誰かを守れる強さに、鋭い一太刀に。
 それに対して、撤退するつもりの無いことに対して宇木と名乗った黒装束の男は半分不味そうな表情をしているように見えた。その事に疑問を感じた沢田が妙なものに感づいた顔をしたのが見えたのか、ハッと気づいて我に帰った宇木はその細い刀を振りきった。光の斬撃は刃から放たれて一直線に走る。
 発射されたが一護は動かず、その場で力を大刀に注ぎ続けた。できるだけ威力を上げるべく。発射された『偽月牙天衝』を見て仮定は確証に変わった。
 ついに宇木の放った剣戟は眼前にとたどり着く。その瞬間、目にも留らぬ早業でその大きな剣は一閃される。溜め時間が極めて短かったその月牙天衝でさえ、簡単に宇木の月牙天衝を打ち砕いた。
 一護がさっき神鎗を見た時に思ったことは、本物の使い手、市丸ギンと比べると速力も込められた霊圧も段違いのような気がした。要するに宇木の能力はただのコピーではなく、“劣化”コピーだ。見てくれは同じでも威力やスピードが劣ってしまう。

「やっぱな。あんたの攻撃、市丸ほどじゃあなかったんでな」
「くっ……こんな簡単にばれるだなんて……霊圧も感じられない子供にも超直感でばれますし……ひとまずここは退きますか」
「何言ってんだ? ここまで暴れといて帰してやるとでも思ってんのか?」
「ふふ、そんな事言ってる間にもう準備はできているんですよね、逃走の」

 途端にまた天は裂けて、さきほど説明を受けた巨大で鼻の長い大虚<メノス>が現れた。そして光線のようなものを宇木に向かって照射した。この光景を一護は見たことがあるはずだと、過去を思い返す。だが気付いた時には時すでに遅く、手遅れだった。

「反膜<ネガシオン>……」

 反膜を一護が目にしたのは戸魂界に彼らが喧嘩を売った時の、かけがえの無い存在の命を助けるために戸魂界に潜入した時の話だ。最初は違法の潜入者、要するにスパイのような存在であると思われていたが、最終的には和解した。彼らがそのような危険な事を起こした原因に藍染という死神が関わっていると知った時に。
 戸魂界には数か月前にとても大きな謀反が起きた。主犯格は藍染で、それに付き従うように市丸ギンともう一人の死神が大虚の住まう虚圏<ウェコムンド>の王となり、戸魂界との全面戦争を始めた。藍染の力と戦略は圧倒的で、もう少しで危ういというところまで陥ったのだが、黒崎一護の力でその謀反は失敗に終わった。それが一か月前の話。
 ただしここで、宇木にとっては収集していた情報とは違う現実と遭遇していた。黒崎一護は、藍染を倒すための強大な力を得た代償として死神の力を失ったはずだった。
 それなのになぜ、自分の目の前にその姿で立っていると、つい攻防の手を止めて訊きたくなった。だが、今となっては訊いても答えてくれなさそうだったので、隙をさらすだけのそのような行為はしなかった。
 だが、理由は分からないとしても黒崎が闘える状態にいるという情報だけは持ち帰るべきだと宇木は反膜を自分に照射させた。そして無事にボンゴレファミリー……いや、ボンゴレリングをこの世界に連れてくることができたと言う事も。反膜の中に入り込み、余裕を取り戻した彼は満足げにほくそ笑んだ。
 反膜とは、大虚が同族の虚を助けるために照射する光のことで、一度それに包まれたならば最後、虚圏に行ってしまうまでその中にいる者とは外界からは一切干渉することはできない。遠巻きにただ呆然と指を咥えて見ていることしかできない。

「もう少し実験を積んだ後……それがあなた方の最後です。藍染があなた達から奪ったものは大きい。自分を含める三人の隊長格、総隊長の左腕、そして本来ならばあなたの霊力」
「それがどうしたってんだ?」
「我々をあまり見くびらない方が良い。私がこうしている間にも研究は進んでいる。三日後には侵攻の準備は完了するでしょう。霊圧は炎圧と強く反応することがもうとっくに分かっていますからね」
「炎圧……だと……?」
「詳しい事は横の子供の方が僕よりも良く知っています。ではまた会いましょう、黒崎一護。そして脆弱な異世界の者たち」

 それだけ言ってから彼は裂かれた天の隙間に呑みこまれていった。何をすることもできず、じっと立ち止まっていた一護は我を取り戻した。沢田たちも同様に、自我を取り戻す。
 次の瞬間に沢田と黒崎の言葉が重なった。図り合わせたかのように、ぴったりのタイミングで。

「お前たちの事……」
「君やここのことを……」




——————————もっと詳しく教えてくれないか?





第一話fin——>>——>>二話に続く