二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 月下で交わる二人のオレンジ【キャラ募集、アンケートしてます】 ( No.35 )
- 日時: 2012/02/05 20:21
- 名前: 月牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: .pdYDMor)
「何だ? どんな所かと思ったら両側が崖の一本道ではないか。それほど恐ろしくも見えんがなぁ」
「そこの熱血野郎、とっとと走れ! 拘突来んぞ!」
浦原の用意した門を抜けた先には毒々しい背景だが、殺風景な空間が広がっていた。そのせいか了平は特に身構えるような態度も取らずに立ちつくし、感想を述べる。その瞬間に、死覇装————しはくしょうと読む、死神の着る真っ黒な着物————を着た一護は叫んだ。調子に乗っていたら恐るべき事態が起こるぞ、と。
その呼びかけに対して、言われたはずの当の本人は未だに危機感を持たずに周囲を観察しているが、こちら側の者の言う事はきちんと聞いておくべきだと悟った残りの面々は前に向かってひたすら駆け出した。
一人取り残されてしまったことにようやく気付いた了平も、先に飛び出した彼らに追いつくために一気に駆けだした。それで良いと一護は頷き、後ろを確認する。まだ拘突は見える範囲には無い。それならばもう少し安心できると息を吐く。
だが、油断は禁物だ。神出鬼没が拘突の代名詞だ。いきなり現れて侵入者を捉える、そういうものなのだから。その昔、藍染に破壊されてしまったが、おそらく今はもう復旧しているだろう。
黙々と、体力の浪費を恐れるあまりに喋ることすら放棄してただ足を動かす。こちら側の者と比べると色々と劣る沢田一行だが、基礎的な体力は元々かなりのものだ。何せ未来で散々磨かれたのだから。
「案外体力持ってんじゃねえか、半分超えたから安心しな」
行き一つ乱さずに余裕の表情で一護は後ろの八人に声をかける。リボーンはまだまだ余裕そうだが、沢田とクローム、ランボ辺りはそろそろ体力面に支障が出てきていた。
「こ、こんだけ走って……まだ半分かよ……」
「泣き言言ってんじゃねえ、ダメツナが。こんぐらい耐えきって見せやがれ」
「そう簡単に言うなって。こっちだって本気なんだから」
「本気じゃあダメだ。死ぬ気で何とかしろ」
「いっそそうして欲しいよ。撃たれるのは嫌だけど……」
下手な事言って眉間を打ち抜かれるのは簡便なので必死に足を動かす。それにしてもどれぐらい走ったのだろうかと考える。かなりのペースで飛ばしているのだが、景色が一切変わらないのと、時間感覚が狂っているのとで全然その辺りが掴めない。
ふと、彼らの見ている範囲に一筋の光明が見えた。相当離れた遥か遠くの一点に、針の穴ほどの光が見えた。
「よし! 多分あれが出口だ。一気に走りぬけるぞ」
そこで、ラストスパートと言わんばかりに先頭のオレンジ髪の青年は一気に速度を上昇させた。そのスピードに八人が振り落とされる。仕方なく自分のペースで付いていく。
——————ふと、後ろから汽笛が聞こえてきた。
「何だ? この音は?」
最初に気付いたのは山本、この中では基礎体力は一、二を争うほどなのでまだまだスタミナが残っているので、試しに後ろを振り返ってみると、何やら軽く妖怪のような雰囲気を放つ妙な電車状のものが見えた。
一瞬で判断した、あれがさっきからずっと恐れ続けている拘突だと。それならば捕まらないように気を付けないといけない。
「ツナ、後ろから来てるぞ」
「マジで!? じゃあ急がないと…………!」
その瞬間、何やら不思議な感覚が沢田の身体の中心を走りぬけた。この感覚、どこかで……そんな事を考えていると、出口にたどり着いた。だがすぐに気付く、一人だけ姿が見当たらないと。
「あれ? クロームは?」
沢田が後ろの方を見ると、そこには転んだのであろう、倒れているクローム髑髏の姿が見えた。今にも汽車は彼女を呑みこみそうだ。
それを何とか防ごうと沢田は走りだそうとしたのだが、もうすでに遅く、出口を抜けてしまっていた。
気付いた時にはもう、見慣れない時代劇のセットのような待ちの一角に落ちていた。
「ここって……どこ?」
明らかにそこは現代では無かった。一昔、いや、数百年は時間が遡った気分だ。横を見てみると天にも届きそうなほどに高い壁が完全に何か大きな都市を取り囲んでいる。
あそこには一体何があるのだろうか、そう思う頃に重大な事を思い出す。さっき転んだ一人は一体どうなったのかと。とりあえず慌てて辺りを見回す。一人二人と確認して行く、一人余裕そうに立っている一護、沢田同様に呆けている山本、獄寺、了平、はしゃぐランボ、冷静に観察する雲雀とリボーン、それだけだ。
「クローム、もしかして……」
嫌な予想が沢田の脳裏をよぎる、もしかして一番最悪の事態が起きたのではないかと。ただしその不安は杞憂に終わることとなる。
ふと、沢田は影の下に隠れたような感覚に襲われる。そして、上方を見上げると、他校の制服を着た誰かが落ちてきた。ただし、ここで問題だったのは彼女が気絶していたことと、沢田が何の対応をできる体勢で無かったこと。つまりは落ちてきたその少女の下敷きになってしまった。
「あいだっ!」
完全に沢田をクッションとしてクロームは目を閉じたまま降り立った。着地の衝撃で我を取り戻したようで、具合悪そうに沢田の上からどいた。
「ボス……ごめん」
ただし彼が今度は気絶してしまい、それどころではなかった。どうしようかとクロームはあたふたしているが、リボーンの方は落ちついて、無理やり叩き起こした。
「起きろ、ダメダメ野郎」
「ふげっ……!」
蹴り飛ばされた顎を押さえて沢田は立ち上がる。どうやら無事全員が辿り着いたということは理解できたようで、安堵の表情を浮かべていた。
「そう言えば、クローム、何があったんだ?」
「分からない……こけた直後に意識が飛んじゃって……」
俺よりそっちの心配かよと、沢田はぼやいたがリボーンはクロームに声をかけた。そしてもう一度辺りを見てみる。きっとここが、戸魂界。
一護はこっちだと手招きして全員を連れて空に向かってそびえ立つ巨大な壁の正面に向かって歩いていく。
一護の向かう先にはおおよそ人とは思えないサイズの、門番らしき死神がいた。
「てめえら、ここを通ってようやく戸魂界だぜ」
珍しく一回で更新。次回に続きます。