二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 月下で交わる二人のオレンジ【キャラ募集、アンケートしてます】 ( No.40 )
- 日時: 2012/02/12 18:05
- 名前: 月牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: rtUefBQN)
「ひいっ! 何あの強そうな門番! もしかしてあれに勝たないと通れないとか?」
「いや、そんな事はねえぞ。確かに侵入者はそうだけど、俺は普通に顔見知りだからな」
天に届きそうなほどに高い都市を取り囲む壁の、目に見える範囲内での唯一の入り口となっている門、その前方に立ち塞がるように一人の巨大な死神が居た。たらこ唇で、おおよそ人間とはかけ離れたサイズの、やはり人間よりも大きな二本の斧を掲げた巨人。
そこから一護の説明が始まった。死んだ霊が一番最初にたどり着くのは戸魂界の周りに位置する流魂界(るこんがい)と呼ばれる場所、そこと戸魂界は殺気石という特殊な石で作られた壁に守られている。その中でも西に位置する白道門では、兕丹坊(じだんぼう)がその守護の任に就いている。
「なるほど。警備は万全という訳なのだな」
「そういうこった。さあ、さっさと行くぜ……って……ん?」
少し疑問を感じた一護は目を凝らした。どう考えてもあの巨大な門番はかなり険しい表情で下方向を睨みつけている。門番破りにでも誰かが挑んでいるのかもしれないと直感した。そうでもないと彼は斧を抜かないことを思い返す。
彼が斧を抜いていると言うならば、基本交戦状態だ。何か異変が起きたのは明白で、死覇装の男を先頭に、いきなり上から降りてきた九人組は走りだす。何事かと思った住人達はあちらこちらから顔を出している。
走って近づいていくとようやく分かった。声の質と身長からして兕丹坊と闘っているのは一人の青年だということに。遠巻きにしか見えない最初は宇木良平を疑ったが、すぐに違うことは分かった。その服装は死覇装ではないから。
「ハハハハハ! そんなんで門番務まってんのかよ! カスの極みだなあ、オイ!」
この声、どこかで聴き覚えがあると直感した。それはもう一度大男と対峙している男を見つめ直すとはっきりした。肩よりも長い長髪、眼帯を付けていて、特徴的な鎌を二つ組み合わせたようなリーチの長い武器を掲げている。その武器の尻には鎖が嫌というほどに付いていた。
後ろに飛びのき、その瞬間に細身の方の男は口を大きく開いた。普通よりも遥かに長い舌を吐き出すように口から差し出す。その舌先を尖らせて霊圧を集中させる。先端には光の、エネルギーの塊が出来上がる。これは間違いなく大虚の撃ったものと全く同じレーザー。確か名前は、浦原から教わった通りならば虚閃<セロ>。
「第五刃(クイント・エスパーダ)……ノイトラ・ジルガ……? 何でこんな所に!? あいつは確かに剣八が斬った筈……」
エスパーダ、かつての敵、藍染が従えていた十人の破面の長。その実力は凄まじいもので、者によっては一護を完全に圧倒した。満身創痍だったとはいえ、あのノイトラも一護を完璧に叩き伏せていた。
そんな奴が門番一人斬り伏せるのに手こずる筈もなく、時間をかけてなぶっていた。楽しむようにしているその姿は、悪魔としか言いようが無かった。
「ちくしょう、とりあえず俺は先に行くから、ここで待ってろ」
背中に背負った大刀を手に持ち替えて、瞬歩と呼ばれる技で一気に間合いを詰め寄ろうと駆け出す。その頃相手はそろそろいたぶるのにも飽きてきたのか、首を落とそうと思いっきり武器を後ろに振りかぶり、投擲した。
一直線に鎌は突き進み、巨体の喉元を捉えようとする。もう終わりだと彼が目を閉じた時に、鎌は大きな刀に弾き飛ばされて宙を舞った。何事かと思ったノイトラはそこに目をやった。そこには、奴にとってかつて叩きのめした一人の死神の姿。
「ああん? 誰かと思えばいつかの死神じゃねえか? また死にに来たのか?」
「うるせえよ、今回は前とは違う。全力で行くぜ」
「ハッ、威勢は上等じゃねえか。来な」
ノイトラが気を緩めたその時、巨大な剣をノイトラに向ける。一気にその刀に全身の霊圧を込めていく。大きな力は渦を巻き、一護を中心として膨れ上がっていく。その変化に目を見張らせた一護は、一気にその力を爆散させた。
「卍解……天鎖残月」
膨大なエナジーが残月を震源として周囲に広がる。不味いと思ったのか武器を投げたノイトラも、それの尻に付いている鎖を引っ張って手元に戻した。
砂煙が払われたそこには、一護が立っていた。死覇装の様子が着物のような菅田からコートのように変わり、刃と柄だけの、巨大すぎる刀は一本の細い、卍型の鍔のある太刀に凝縮されていた。
斬魄刀、それは死神の持つ霊体撃滅用の兵器。斬魄刀にはそれぞれ名前があり、解号と呼ばれる命令句を口にすることで真の力を解放する。それが第一段階の始解であり、それを遥かに超越するほどのものが卍解である。卍解はどれほどに才ある者でも十年の鍛錬は無いと会得できないとも言われている死神の最終手段とも言える最強の力。
「忘れたか……てめえはこの前もそれを使って負けたんだぜ」
「やってみねえと、分かんねえだろ?」
「威勢だけ充分なのはグリムジョーだけで飽きてんだ、適当な事はほざくんじゃねえよ」
ノイトラが手元の武器を後ろに構える。口の端を高らかに上げて見下すように嗤っている。そのように卑下された態度を取られても一護は表情一つ変えない。いくら見下されようと関係無い。気を取られていたら死に直結する、闘いというのはそういうもの。
挑発には乗ってこないと察した破面の彼はつまらなさそうに舌打ちをし、それならばと鎌を天に掲げた。そして、緩急を付けた動きで、一気に瞬発、加速する。静止の状態からの不意を突いた一撃。なのだが元来速力の劣る彼の動きは卍解状態の一護に容易く見切られる。
一護の卍解の能力は、有り余る霊圧を一点に集中したことによって生まれる超高速の先頭スタイル。まだまだ腕が未熟で、無力だった日にも速力だけは上々と言われた経験もある。
不意打ちをあっさりと漆黒の太刀で受け止める。強い激突音がこだまし、火花の散るような衝撃が空気中を伝わる。初撃をあっさりと防がれたノイトラは目を丸くした。
「おっと、反応はいいじゃねえか?」
「嘗めんな!」
調子に乗り、敵の懐に入ってもなお喋りつくす彼に対して一護は手に持つ剣に力を加える。巨大な鎌状の武器を上方にかち上げ、無防備の土手っ腹を狙う。遮るものの何もないその胴体に一護の天鎖残月が重なる。紛れもなく直撃した、はずなのだが……。
ノイトラに刃は通っていなかった。正確には硬すぎる表皮に阻害され、刃が肉に達しなかったのだ。
「言ってんだろ! 俺の鋼皮<イエロ>は歴代エスパーダ最高硬度だってなあ! てめえの剣は通らねえぜ、死神!」
「ああ、知ってるよ……だからこうする」
鋼皮、エスパーダの表皮であり、信じられない硬度を誇る。刀でさえも通らない彼の鋼皮は歴代の中でも最上級であり、破ることはほぼ不可能だと言いたげだ。しかしそんな事は一護だって知っている。
絶大な量の霊圧が一気に細い刀に込められる。不味いと思っているのか、顔色を変えたノイトラに、一護は容赦のない一撃を入れる。
瞬間、刀身から放たれた真っ黒な月牙天衝が一人の破面を呑みこんだ。
次回に続きます。