二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【三章開始】月下で交わる二人のオレンジ【キャラ募集】 ( No.76 )
日時: 2012/03/10 17:16
名前: 月牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: QuEgfe7r)
参照: 獄寺&山本VS詩音&紅蓮 その2。


「向こうは向こうで激しく闘ってますね。僕たちも始めましょうか」
「構わねえぜ。もう、剣構えちまってるしな」
「それもそうですね、じゃあ、リング取られても恨みっこなしですよ」
「命は……取らねえのか」
「そのような命令が下らない限りは……ね」

 同じだ、そのように山本は感じる。元来の性格では破壊活動は嫌いなようだ。とすると、何かしらの原因があるのかもしれない。このように市街地を襲撃した、その理由が。幻騎士だって、そうだった。人間いつ道を踏み外してねじ曲がった行為に走るか分からない。それならば、少しでも道を逸れてしまった者を元のレールに戻すのが、自分たちの仕事。自分の親友ならばそのようにする筈だと山本は狒降り頷く。
 対する詩音は、いつ踏み込もうかタイミングをうかがっていた。適当に突っ込んだところで、倒せないほどの実力の剣士だと分かり切っている。それでも、攻めないと勝利は訪れない。

「迷っても仕方ねえし、そっちが来ないならこっちから行くぜ」

 その山本の一言に、詩音は意気を入れなおす。自分から行かないのならば向こうから来る、当然の事だ。タイミングを窺うも、機を逸してしまった自分に叱咤する。いくら訓練で良い成果を残しても、本番でこれでは、姉の紅蓮に示しがつかないと。
 一度攻め入る機会を逃してしまったのならば仕方ないので、動きだそうとする山本と、真正面から相対する。ちょっとでも気を緩めたら怪我の一つや二つは負うだろう。
 山本が左手に持つ、雨の炎が刃を象る小刀から、雨の炎が噴射される。沢田ほどではないが、それなりの速度での移動を可能にすると情報が入っているために集中してその動きを見極める。確かに速いが、対応ができないほどではない。その気になれば一太刀返せるかもしれない。
 唯一普通の刀として持っている、先程まで竹刀だった真剣、時雨金時を山本は振りかぶった。時雨金時という刀は普段は竹刀の形なのだが、時雨蒼燕流という流派の技を使う時のみ、真剣としての真の姿を現す。なお、未来での修行中に、彼はその刀身に炎を纏わせる技術を習得した。以来、彼は炎を剣に包ませている時は常に刀身をむき出しにすることが可能となった。
 よって、刀身がむき出しという事が、時雨蒼燕流の型を使うということには繋がらないので、普通の剣としても注意を払わなくてはならない。普通に真横に振っているだけなので、ただの斬撃だろう。
 ついに、刀同士がぶつかり合える距離に山本が侵入する。それを感じた詩音は目の前にいる彼の刀に細心の注意を払う。山本という人間らしく、峰討ちになっているが。
 一閃として宙を走るその刃に自身の剣を重ね合わせるように剣を振る。見事に二本の刀は衝突し、金属の擦れ合う音を奏で上げる。二人分の雨の炎が、池に石を投げ込んだように飛び散る。
 お互い、相手の雨の炎の効果が自分に及ばないように、雨の炎で牽制していた。雨の炎の持つ効果は“鎮静”。意識を闇に沈めて気絶させたり、炎を弱めたりすることが可能だ。よって、前者の使い方で体内に炎を送りこんで気絶させることは、勿論可能。それを防ぐために相手の雨属性の効果を自分のもので鎮静させて、無効化しているのだ。

「反応速いじゃねえか。幻騎士並だな」
「それは有難い、褒め言葉です。だけどもっと……剣技、見せて下さいよ。僕を魅せて下さいよ」
「洒落言う余裕があるんだな、良いぜ見せてやるよ」

 山本は自分の、犬の方の匣アニマルの方に、「小次郎」と声をかけて、三本の小刀を投げ渡す。炎を灯す山本の手から離れたその瞬間、炎の刃は消える。あっさりと、小次郎と呼ばれた柴犬は三本とも受け止める。
 山本はというと、空いた左手に残した一本の真剣を持ちかえる。持ちかえるための、短い、瞬く間に、両手で詩音の刀を押し込める。一気に力を加えられた詩音は、刀ごと後ろに押しこまれる。そうして体勢を立て直す瞬間に、またしても山本は間合いを詰め寄る。期待に応えるため、時雨蒼燕流の型に入る。
 辛うじて体勢が万全の状態に戻った詩音は目の前に、再度迫った剥き身の刃先に戦慄を覚える。ぞっとするような悪寒と共に、反射的に刀を合わせて止めようとする。だが、彼の刀はただ、空を斬る。山本の剣にも触れず、当然山本にも当たらず、空ぶりになる。
 なぜかと思い目をこらすと、いつの間にか時雨金時の方は空中を動いていた。すぐに気付く。刃を交える手前の間隙に、右手に受け渡すために投げたのだと。これはちゃんと情報が入っていた。


——————時雨蒼燕流・攻式五の型“五月雨”


 五月雨とは、特に決まり切った型は無い。直前に刀を持つ手を持ち替え、タイミングをずらして敵を斬る技だ。別に右手から左手に渡しても問題は無い上に、縦の動きでも可能だ。単純だが、一旦騙されると対応に困る。
 直前になって躱そうとするも、当然のごとく完璧に避けきるのは不可能。多少体を捻って極力致命的なダメージにならないようにする他ない。脇腹の辺りの服が裂け、薄皮一枚を斬り裂く。胴体へのダメージは、山本の峰討ちもあってか、それだけで済んだが、左手の甲に一筋の切り傷が入る。定規で書いたような赤色の、真っ直ぐな切れ込みから垂れるように血が零れる。

「流石ですね……一本取られました」
「ダメージあんまり通ってねえな。お前もやるんじゃねえの?」
「ええ、ではこっちから行きましょうか」

 途端に、山本が寒気を感じる。しかしそれは精神的なものではなく、気温的なものだと察する。隣では紅蓮の煉獄斬で、視界が揺らぐような熱が立ち込めているというのにだ。精神的ではなく気温が変わるほどの冷気だからこそ、彼は目を丸くした。当然のごとくこれを起こしたのは詩音だろう。
 ピシピシと、踏みつけた薄氷が砕ける音がする。いつしか詩音のアイスソードは白い煙を上げ、空気中のあらゆるものを凍らせていた。見ただけでは分からないが、水蒸気だけではなく、酸素や窒素、水素までもが凍っている。

「これは、姉さんの煉獄斬とは対照的な技です」
「雨の炎って……そんなことまで出来んのかよ……!」
「使い方ですよ、問題は。この技はですね————」

————物体の温度というものは、分子の振動によって決まっているんですよ。分子が、強く大きく動くことで熱量は上がり、反対に動かないと温度は下がる。分子を強制的に活性化させて温度を上昇、そのようにして全てを燃やしつくすのが姉さんの煉獄斬。そして対照的に分子の振動を鎮静化させて温度を下げ、絶対零度にまで持っていくのがこの氷鈴斬です。
 かなり長い詩音の説明が終わる。頭の弱い山本がそれを理解できる訳が無く、目を丸くしている。先ほどとは全く違う理由で。

「あのさ……全然分かんねえんだけど?」
「別に良いです。何にせよ、今の僕の剣は全てを凍らせられる!」

 今度はさっきまで受け身だった詩音の方から仕掛ける。次第に剣が、空気中の気体が凍ったものがこびりついて重くなっていくも、時折崩しながら進んでいる。それを見た山本は、言っていることはまんざら嘘ではないと納得する。
 だとすると、かなり恐ろしい能力だと踏む。防御壁を作り上げるために、一旦構えを取る。刃先を地面に押しあてて、ゆっくりと息を吐き出す。

「時雨蒼燕流・守式二の型“逆巻く雨”!」

 雨の炎を最大限に練り上げて、一気に剣を上空に向かって振り上げる。刃を纏っていた炎が、尾を引くようにして水のように透き通るも、光を反射させる壁を作り上げた。その隙に姿をくらませ、回避に徹する。
 そんなもの無駄だとでも言いたげに、詩音は一気に突っ込もうとする。すると予想外のことが起きた。姿をくらませたはずの山本が、その雨の炎の壁越しに見えたのだ。だが、まだ向こうは間に合っていないと判断した詩音は、山本が出てくるよりも先に逆巻く雨ごと山本を斬り裂いた。
 水のような性質の雨の炎が、絶対零度に当てられて、氷となり、砕かれて舞い散る。キラキラと舞い散る氷の欠片の中に、山本はいなかった。人を斬った感覚も、詩音は感じていなかった。
 背後からとてつもない威圧感を感じて、詩音はハッとする。逆巻く雨から転じる技が、時雨蒼燕流にはあるのだ。攻式九の型として。“うつし雨”と呼ばれるその型は、逆巻く雨で作った壁を鏡として使い、思ってもいない方向から攻撃する。

「後ろですか……!」

 同様で、絶対零度は崩れる。それでも、かなりの冷気は残っているのだが。後ろに現れた山本は今にも刀を振りおろそうとしていた。それにもすぐさま反応した詩音は、刀で防御する。重力のハンデを負ってしまっているため、両手を添えて。
 地面に降り立った両者は一旦間合いを取る。詩音は一旦落ちつくため、山本は次の一手を打つためだ。一方が心を落ちつけているうちにもう一方は相棒の燕を呼んだ。
 上空に待機していた雨燕<ローンディネ・ディ・ピオッジャ>が急降下する。そして、地面に衝突するすれすれに方向転換、詩音の方を向く。それに合わせて山本も駆け出す。雨燕は翼から強力な雨の炎を発し、山本を包み込む強力な外甲を形成する。

「時雨蒼燕流・特式十の型“燕特攻<スコントロ・ディ・ローンディネ>”」

 見る間に燕と山本の進行速度は上昇する。だが詩音にも打つ手がないという訳でもない。もう一度、先程のように絶対零度を纏う。今度は氷が形を成していく。自分自身を凍らせないように凍っていない雨の炎で薄い膜を作る。そして、山本同様に彼も走りだす。氷で作った、虎の外甲と共に。

「凍土白帝!」

 これもまた、紅蓮の持つ技と対を成す技。龍と虎、熱気と冷気。それらは正反対だが、威力の高さという面では共通していた。
 二つの青い閃光は衝突し、煙を舞い上げる。それと同じ瞬間に、隣で獄寺と紅蓮も激突、爆炎を上げていた。


ふう……ダブルスの二話目完成です。
次回、ダブルス決着です。