二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 【3/16最新話】月下で交わる二人のオレンジ【現在三章】 ( No.79 )
- 日時: 2012/03/20 15:10
- 名前: 月牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: DzlMUhcv)
「何しに出てきたのよ……虹宮……」
「おっと、随分な言いようだな。今! ここで! 俺が! 来なかったらお前はただ単なる敗北者だろうが!」
「来ても変わらないわよ」
「変わるね! そうなればお前は、俺を手助けした功労者なんだよ!」
突然現れた虹宮という男のいでたちは、相当に変わっていた。先刻申し上げた通りに、体中に紋章が浮き出ている。しかしそれは、体表に模様として現れたというよりも、皮膚の下に埋め込まれたようだった。右腕にはモニターのついたパソコンのような機械、妙なゴーグルのような装置を左目にだけかけている。その風貌はまるで化学者。
額、両手、両足、腹部、クロームのいる方向からは見えないが、背中の合計七か所に、それぞれ色の異なる紋章が煌めいていた。その色は、炎の色と同じ七色。これで大体のことは、魔レンズで調べ上げることができた。この男は自分の体に違う人の炎を、大空の調和で、拒絶反応を起こさずに移植、戦闘に活用しているのだと。
ただし、虹宮自体は大空属性ではないらしい。他の仲間の大空の炎で調和させ、自分自身は紋章を構築している。霧属性の炎の特性、それが“構築”だ。幻覚を構築するのが一般的と思われているが、別にそれだけには限らない。紋章という、溜めこんだ多属性の炎を放出する装置的なものを構築している。
そして、もう一つ発覚したことがある。この男、形はそれほどではないが、実質的な実力は相当なものであると。何だか狂ったようなテンションで、終始高笑いしているような変人に映るが、炎圧はかなりだ。疲弊していたとはいえ、了平が一撃で倒された、そんな相手にクローム自身が勝てる由もない。
ちょっとした恐怖と戦慄に駆られる。いっそ幻覚にかけて逃げだして、沢田や雲雀に任せた方が得策かもしれない。手元の三叉の槍を地面に突き立てようとする。だが、またしても虹宮は了平に撃ち出したように大空のレーザーを放つ。沢田の移動に使われていることからも、大空属性はかなりの速度である。少し手元を掠めた程度だが、焼けつく痛みに武器を放り出してしまった。
「あっ……」
「じゃあな! とりあえずリング三つゲットだぜ!」
——————沢田綱吉サイド——————
「なあリボーン、この子どうするの?」
「仕方ねえ、適当に縛っとけ。暴れられても面倒だ」
「こんな場所で? 俺が変な人に思われる気がするんだけど」
「つべこべ言わずに家庭教師<かてきょー>様に従え」
超モードを解除し、普段のへたれた方の性格に戻った沢田は、少しだけ狼狽しながら隣の赤ん坊に問う。このまま気絶した少女を背負うというのも、人目を引いてしまう。するとリボーンは、どこに持っていたのか長いロープを取りだした。小さな、動物の目がついていたからすぐにリボーンのペットのレオンだと分かった。
レオンというのは、リボーンの持つ特殊なカメレオンで、見たものの形に変身できる。
ただし沢田はその回答に余計に困惑することになった。縄で縛りあげた人間を持ち運ぶ人間の方がよっぽど特異な人間だと。そもそも目立ちたくないから訊いたのに、なぜ余計に目立たせるのかとリボーンに反論する。ただしその反応はリボーンにとって苛立たしかったらしく、強烈な蹴りが沢田の顎に入る。変な鳴き声を上げて、沢田は空を見上げる。涙目になって顎を片手で押さえながら抗議する。
「なあ、結局どうすんの……!」
「……どうしたんだツナ? いきなり顔色変えやがって」
「いや……この感じ……もしかして……」
何だか不穏な雰囲気を感じ取ったのか、突然沢田は顔つきを変えた。身の毛がよだつような、冷たくなるような感覚。今までにも何度か似たようなものを感じとった経験はあった。
考えている最中、凄まじい、劈くような音が聞こえてきた。立ち上ったのは雷属性の炎。先程ランボが放ったものを感じ取ったが、それよりかは多少威力が低い。その上、波長の感じもランボとは全然違っていた。
現在、クロームや了平達の状況はどうなっているのか分からない。しかし、沢田には何となく予想はついていた。きっと、窮地に立たされているのだろうと。
でも、きっと心配をする必要性は無い。彼が来たのだから————。
——————再びクロームサイド——————
「まあ、とりあえず恨みは無いけど! 威力マックス! 雷の光線を! 喰らってもらう!」
大空属性の時に右手の紋章が橙色に輝いたのに対し、左手の紋章が緑色に輝きだす。ショートする時に起きる引き裂くようなバチバチという音がする。強力な雷属性の炎は、七属性の中で最も硬度が高い。並の兵器よりも遥かに威力は優れているだろう。
電圧が……炎圧が高まるにつれて、危機感も増していく。このままではクローム一人どころか、三人揃って敵の手に落ちてしまう。クロームは戦闘に不向きな上に、ランボは先刻の一発でガス欠、了平は既に倒された。絶体絶命の状況下で、何とかする手立てはもう既にゼロに近い。
これまでかと彼女が諦めた時に、虹宮は翡翠色の閃光を放つ。ただの緑ではなく純度を上げ、透明感の高い翡翠色の炎。ここで終わり、絶望しながら、緑色の光線が上げる大きな爆発音を聞きとる。それこそ、本物の雷が落ちたように。刻一刻と迫りくるその光の動きが、三人にとって相当スローペースに感じられる。催眠術にかかるような感覚で、クロームはスッと目を閉じた。
途端に、地面にぶつかった炎は、天空に向かって盛大に爆炎を上げる。雷属性の爆炎は、落雷が天に帰って行く様子によく似ていた。
「ハハハハハ! なあ鈴音ぇ、これでお前と俺は三種のリングを持ち帰った! 謂わばMVPだぜ!」
「癪に障るけど、確かにそうね」
心底忌々しげな表情で、自信満々、得意げな虹宮に、吐き捨てるように風花は言葉を返す。漁夫の利を得るようなスタイルにしか持ちこまないこの男を、彼女は嫌悪していた。
それでも、頼る相手がいない以上は仕方ない。ついでに詩音や紅蓮の下に向かいたいという意志が現れる。よろよろと立ちあがって、ボンゴレリングを回収しようとした時に、何だか違和感を覚える。目の前から、強力な霧の炎————。
「ん? どうしたよ鈴音。いきなり立ち止まりやがってよぉ」
「近づかない方が……良い」
「あ? なんでだよ。満身創痍の! カス共だぞ! 別に嘗めてかかっても良いだろうがよ!」
「それはどうも、勘違いというものですね」
虹宮は、先程まで無かった声に驚き、顔色を変える。了平という男もこのような声ではなかった、さらには残りの二人からこんなに低い声が発せられるとも思えない。明らかに声変わりを終わらせた男子の声音だ。
特徴的な笑い声と共に、突然の来訪者は現れる。その笑い声は本当に特徴的なもので、一般人がいきなりそんな風に笑いだしたら、きっと気が狂ったかと思われるだろう。それも、彼が言うとそう聞こえないのは凄まじい性質だと思われる。「クフフ」という笑い声は。
「えっと……確かお前の名前って?」
「あなた達ももうすでに知っているはずですよ」
「そうね……確か……」
彼の代わりに消えていたのはクローム髑髏。どこかの中学の制服も、女ものから男ものに変わっている。開いた制服の内側に見えているのは色々な色の散りばめられたシャツ。手には、三叉の槍を持っている。右目と左目で色の違うオッドアイ、赤い右目には瞳の中に“六”と字が入っていた。右手の中指のリングからは、恐ろしいまでに強い霧の炎。
彼の瞳の中の漢数字が“六”から“四”に変わる。オーラが眼球から放たれるのが視認できるようになる。その瞬間に雰囲気が変わり。それは場の空気をも一変させた。
確認を取るために、風花は口を開いた。
「六道骸だったわよね?」
今回は最近の話と比べると短めです。(それでも3000文字)
ようやく骸様登場です。ようやく書けたなこのシーン……
さてと、後一話で三章が終わるので、その後に短編書けそうです。
では、次回に続きます。