二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 【短編】月下で交わる二人のオレンジ【雲雀VS篠原鈴】 ( No.83 )
- 日時: 2012/05/02 21:40
- 名前: 月牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: 91QMlNea)
- 参照: 700記念の短編その二、一護VS双竜&風花
「まずは、説明だ。何だかよく分かんねえけど、とりあえず三対一で闘わないといけないらしい」
「それで……本編と違って霊圧と炎圧で普通に闘えるんですよね?」
詩音の出した問いかけに、そうだと肯定して一護は頷く。腕組みをして、悠々としているその姿には、一切の緊張感が無かった。
「で、BLEACHとリボーンじゃ、キャラの強さが段違いだってことで……」
「ハンデとして一護さんは虚化禁止、でしたよね?」
肯定の意を示すために、もう一度一護は頷く。卍解だけでもかなりの実力差だが、三対一ならば多少は埋まるだろう。(というか、作者がそうしてみせます)それぞれがそれぞれの剣を抜き、身構える。一護は刃と柄しか無い“残月”という名の大刀。詩音は“アイスソード”の名を持つ、すらりと細長く、青色に透き通った太刀。同様に、赤く透き通った剣を紅蓮が構えている。最後に、半透明な翡翠色の二枚の刃を両手に持つ、鈴音風花。
もうこれ以上の説明の言葉はいらない。そう言いたげな四人は好戦的な表情を取った。その場に立ち込める異様な雰囲気は、殺気に極めて酷似していた。だが、そこまで刺々しくない。ゾッとするような、押し潰されそうな閉塞感にも似たプレッシャー。完全に目の前の戦闘に集中しきっている当の本人たちは平気そうな表情だが、もし仮に周りに人が居たとしたら、その重圧に気圧され、最悪気絶するだろう。それほどに、その空間に威圧感が立ち込めている。
脳髄を焦がしてしまうような緊張感が支配する中、最初に動いたのは三人組だった。三対一という、数的な利を生かすために、双竜姉弟が駆け出した。風花を今の場所に待機させ、詩音は左側、紅蓮が右側に展開する。周りから一気に畳もうという戦術だ。真っ向から適当に突っ込んで勝てる敵ではない。
各々の剣に炎を灯し、自分自身の剣技の型をいきなり見せつける。風花の双剣の周囲で渦巻く大気が鋭利な風を生み出し、風花の二本の刃をコーティングする。詩音の蒼い剣にはうっすらと、真っ白な霜が張り付いていた。紅蓮の握りしめる太刀からは、夕陽のように真っ赤な炎が煌々と燃えている。
迫りくる三属性の攻撃、それすらも一護はものともしなかった。ただ、ほんの一瞬の硬直だけでどう対応するのか瞬時に思い浮かべる。三方向から迫りくるというなら、三方向同時に薙ぎ払えば良い。つまりは全方向同時攻撃。
その判断は間違っていないと断定した一護は、一気に左足を軸にして開転し始める。ただ、それだけのモーションで、突風が吹き荒れる。残月の刃の部分が強い光を上げて輝いた。
「月牙天衝……」
一護は、丁度一回転したその瞬間に、一気に残月を振り抜いた。一護が大剣を振るったその軌跡をなぞり、斬撃が肥大化する。一護の霊圧を乗せた霊圧は、水平に、放射状に一気に放出される。気付いた時には、もうすでに三人の目と鼻の先に、光の剣戟は迫っていた。
風、氷、炎を纏った、手元の剣で三人とも防御を試みるが、あっさりとその剣圧に吹き飛ばされる。ただ、その死ぬ気の炎のおかげで威力は軽減され、致命傷までには至らなかった。ただ、精神的には大打撃だ。
それほど本腰を入れた攻撃ではなかったとは言え、明らかに有利な三人同時攻撃をあっさりと防がれたのだ。しかも、奥の手である“卍解”を使うことも無しに。
それでこそ、やりがいがあると感じた紅蓮は、好戦的に笑った。それなりに覚悟が、より強固に踏み固められた彼女の剣には、今まで以上に強力な炎が燃え盛った。
「やってやろうじゃねえか。行くぜ、詩音」
「了解です、姉さん」
「分かった、私も……」
紅蓮の一言を皮切りに、詩音と風花の刀に点いた炎も巨大化する。その刀身に収まりきらぬほどの死ぬ気の炎は漏れ出し、足元へと流れる。地平から天へと昇るその姿は、まるで三人の闘志のように映った。
「……気持ちは折れてねえんだな。そうこなくっちゃ面白くねえ」
包帯のような紐でグルグルに巻かれた柄を握り締めて一護は笑ってみせた。そして、切先を自分の真正面の方向に向けてみせた。右手だけで剣を支え、その右手を左手で支えている。
この体勢は、“あの状態”へと移行する合図。
「卍……解……!」
爆発するようにして霊圧は、一護の中に収束される。元々の質が高すぎる一護の霊圧が高密度に集中されて、それはそれは凄まじい濃度のエネルギーが構築される。爆炎が晴れたそこには、死覇装の様子が少し変わった一護が、万字型の鍔を持った漆黒の長刀を持っていた。今、一護が発するオーラは、何物をも塗りつぶす、黒。
「…………天鎖残月」
「出やがった……っ!」
その、一本の黒刀に向かって顔をしかめて紅蓮は毒づいた。こちらもそれなりに体勢を立て直したつもりだが、それでも情勢は悪化しただろう。卍解とは、普通の、隊長格の死神の切り札なのだから。そんなものが一護の手の中に握られている、この状況を楽観的に見ることのできる人間を連れて来て欲しいと、切に願った。まあ、一部の隊長は逆に歓喜しそうなものだが。
しかし、それでも自分たちには絶望でしかなく、より一層勝利へは遠のく一方だとも紅蓮は分かっていた。彼女の、みため幼い弟も、二人の親友である風花も、しれは理解していた。気を抜いたその瞬間が命取りだと、頭の中で何度も何度も復唱する。
だが、気持ちを落ち着かせるよりも遥かに速く、恐るべき速力で一護の姿は消えた。天鎖残月は、始解状態でのおそるべき強度に拍車をかけた強靭さに加え、使用者に並々ならぬ超速戦闘を提供する。意識を集中し、どこに一護が飛んだのか探そうとする三人、その中で詩音がただ一人冷や汗を浮かべる。
ちょっと出遅れただけの話なのに、彼の目の、ほんの数センチ先には真っ黒な刃の先端が突きつけられていた。なんとも形容しがたい恐怖が彼の脳裏を駆け巡るのと共に、脳髄の奥深くに冷たさが突き抜ける。それとは対照的に、冷静さは一気に燃え上がり、焦燥だけが煌々と、冷静の欠片の消し墨みたいに、そこに残っていた。
「——————————!」
漏れ出ていた雨の炎が彼の致命傷になりそうなピンチを排除した。鎮静の炎に当てられた一護の動きが、ほんの一瞬だけとてもゆったりとしたものになった。その偶然にホッとするも、長続きする訳がないのだからと、瞬時に飛び退く。その、飛び退こうとした瞬間に詩音の頬を黒い鍔が触れた。その前に、刃も触れていたらしく。一閃が、血で一本の赤い線を、詩音の頬に刻んだ。
仕留め損ねたのをすぐさま判断した一護は、また高速で移動し始めた。またかと思いながらも考える。今、このやり方が成功したのだからもう一度してやればいいだけの話なのだと。
隣を見ると、紅蓮は普段しないような闘い方をしていた。晴れの活性の炎で自分自身の命を活性化していた。そして、風花は片目に埋め込まれた義眼の石から炎を灯し、体中を硬化させていた。それと同様に、相手の動きを止める用の雨の炎を詩音も展開した。
「月牙天衝」
だが、それらの行動も全て無駄となる。どれほど体を活性化させて追いつこうとしても、一護を鈍足化させようと思っても、全くもって成功しない。さっきの不意に起きたあれ以外、一度たりとも鎮静化に成功していない。しかも、こちらから手を出そうとする前に、何度も月牙天衝を放たれて退かざるを得ないのだ。
名目上、一護も全力で闘っているのだろうが、それでも書くが違っていた。事実、虚化の制限された状態での勝負である上に、明らかに詩音たちは防戦一方で手も足も出ていなかった。
これでは明らかで、なおかつただのリンチだと気付いた一護は決断した、終わらせようと。
それが、今ポツリと呟いた月牙天衝である。どす黒い霊圧が、細い天鎖残月には留まりきらなかったようで、家事の現場の黒炎のように漏れ出していた。迸る凄まじい霊力にぞっとして顔を青ざめるも三人は最後の覚悟を決めた。どうせ終わるなら全力を出しつくそうと。
「じゃ、皆……行くってことで良いよな」
「了解です、姉さん」
「分かったわ、紅蓮」
サポートや防御に回していた全ての死ぬ気の炎を問う剣の方に集中させた。向こうが見えるほどに薄く透き通った刃が、炎に当てられて美しく煌めいている。それを確かめた三人は、紅蓮、風花、詩音の順に駆け出した。
「焦土龍帝」
「碧蝶の舞」
「凍土白帝」
赤、緑、青の光線のような突進が突っ込んでくるのを、なんとも思っていないのか一護は、自分の刀だけに集中していた。目を閉じて、天鎖残月に霊圧を残さずに注ぎ込むようにして、開眼したその瞬間に、空間中を真っ黒な斬撃が埋め尽くして行った————。
勝敗は言わずとも分かったでしょう。
それにしても短編書くのに一カ月以上かかったのかな……
まあ、今度から四勝書いていくんでそっちもよろしくです、では!