二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 【短編完結】月下で交わる二人のオレンジ【もうすぐ四章】 ( No.84 )
- 日時: 2012/05/18 20:20
- 名前: 月牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: OYJCn7rx)
「……何かあったのか?」
憂いを湛えた表情で、ラス・ノーチェスの中に作られた宇木達が作った新たな住居の目の前に、少女が立っていた。水色のローブを羽織って、手には水晶の玉を持っている。そして、悲しそうな目で噴水から水が飛び散る様を眺めている。
その後ろ姿を見て、灰色の毛皮のコートを着た、初老の男が彼女に話しかけた。右目には眼帯、腰に巻いているベルトのホルダーには、二町の拳銃がはまっている。しかし、弾薬らしき面影はどこにもない。
彼の声に反応して、全身をすっぽりと覆い隠しているローブをはためかせて少女はゆっくりと振り向いた。その時に、声をかけた男は気付いた。彼女が泣いていることに。
「……双竜さんたちが捕まったの」
「……本当かよ」
「水晶に映ったから、本当よ」
胡散臭そうな目つきで、毛皮の男は眼帯のついていない左目で彼女の目をじっと見た。どうにも、嘘を吐いている気配は一切無い。深い深い溜め息を、一回だけ吐き出した後に、天井を見上げた。そして、かつてはここを取り仕切っていた一人だということを思い返し、自嘲交じりの笑いを浮かべた。
この男は、何が起きたのかはあまりよく理解できていなかった。正確には、全く教えてもらえていないのだが、彼の持つ洞察力で多少のことを悟っていた。
この男は過去に、大きな戦で命を落としている。二刀流の、似たような年頃の男の死神の手によって。そして、どうやったのかは知らないが、宇木という男の持っている力で、復活させられた。しかし、かつて十刃に身を連ね、上位の実力を持っていた過去は見る影もなく、今の彼には一切の霊圧が無かった。
そして、つい先日の話だ、ここの連中に合流しろと命令されるがままに従った。命令を聞くべき相手であった藍染がいなくなったことは目を覚ましてすぐに分かっていた。よって、忠義を尽くす相手は生き返らせてくれた男に変わったのだ、宇木了平に。
「えっと、あんたの名前って、何だったっけ?」
「コバルト。……コバルト・マーキュリー」
相変わらず彼女の頬を伝う涙が、天空のように澄んだ青色をしていた。髪の毛はオレンジ色で、手には同じような色合いの指輪をつけている。整った顔立ちは、日本人のものではなく、ヨーロッパ系だった。
「あなたの名前が……二つ見える。どっちが、本当の名前なの?」
「どっちだろうな、俺にも分からん。とりあえずは二人分両方残したいから……」
少し口を塞いで考えた後に、すぐに答えが出たのか、一拍の後にもう一度口は開かれた。
「二つに一つだ。“スターク・ジンジャーバック”か“コヨーテ・リリネット”かの」
「前者の方が、良いと思うわよ。慣れない名前は実力を抑制してしまう。言霊の力は嘗めない方が良い。鬼道の詠唱も、斬魄刀の名前だってそう」
「そうだな、スタークの方がしっくりくる」
ベルトに装着したホルダーから銃を取り出し、感触を確かめるように二回ほど宙に放って、受け止める動作を繰り返した。そして最後に、虚空に向け、引き金を引いた。紫色の一筋の閃光が天に線を描いた。
「無限装填<メトラジェッタ>」
彼の表情を、何だか陰鬱とした感情を晴らしたいがために、空へと八つ当たりをしているようにコバルトは捉えた。水晶玉の向こうには、炎を灯したグローブを手にする少年が一人。
「炎圧組が一気に七人まで減っちゃったわね」
「心配いらねえだろ。俺とあの“元ジジイ”が居れば」
「自信満々ね」
たしなめるように彼女がそう言うと、スタークは肩をすくめてみせた。何しろ、彼は最初からこの、“紫色の炎を操る人間の体”に慣れ切ってしまっていた。
同様に、彼の旧知の知り合いの“元ジジイ”の場合、“黄色い炎を操る人間の体”に完全に体が定着した、そういうところだ。
「ハリベルがいたらもっと丁度良かったんだが、どうにもあいつは死んじゃあいなかったみたいだしな」
「良いことじゃない。でも、正直そんなの今は関係無いわ。誰が味方かなど、関係の無い話」
ローブの中をまさぐった彼女は、真っ黒に塗りつぶされたおどろおどろしい匣状のものを取り出した。
「……何だそれは?」
「災厄の匣<パンドラ・ボックス>って読んでいたわ。一時的な霊圧が手に入れられるけど、使い捨てな上に五分で効果が切れる」
その匣は、情報として、リングの炎を動力として動く匣兵器を、画像として見た事はあったが、それと瓜二つ。唯一の相違点は、リングの宝玉を差し込む穴がないこと。
「これは、必要な時に握りつぶして使うらしいわ。ただ、これは貴方専用のものらしい」
そう言って、まるで汚物を扱うかのように、コバルトはそれを地面に転がした。
「気を付けて。それを使うと、貴方は二度目の死に一歩近づく」
「虚になる時にもう一回死んでいる。何かあったら三度目の死だ」
興味深そうな顔色でそれを拾い上げた彼は冗談交じりにそれを大事にしまいこんだ。
「弔い合戦ってガラじゃねえんだが……」
出動は近いよな?とスタークは占い師の彼女に訊いてみた。
「ええ、遅くとも明日ね。新月が見えるわ」
やれやれと、二人は溜め息を吐いてそれぞれ別の方向へと歩いていった。
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「離せ……縄をほどけぇっ!」
「うるせえ。負けたんならじたばたせずにすっ込んでろ」
市街地に攻め入ってきた中で、最初に目を覚ましたのは最初に決着のついた時空未来だった。武器の二本の剣を奪われ、幻覚の縄で縛られているので、もう反抗のしようがない。出来ることと言えば、喚くことと許しを請うことぐらいだ。まあ、彼女の性格からしてそれはないのだが。
「五月蠅い! あなたみたいな“口だけ右腕”じゃなくて最強の守護者に負けたんだ! あなた相手にだったら負けてないわよ!」
「てめぇマジでぶっ飛ばすぞ……」
いくら敗戦し、不利な状況下に置かれているといっても、決して時空未来は持ち前の暴言を緩めなかった。緩めるどころか、負け惜しみと相まって逆に強力になっている。一応は勝者側に立っているのに、怒りのあまり獄寺の額に青筋が浮かんだ。
だが、その睨むような目に、彼女は一切の恐怖や焦りを感じなかった。強気なのがアイデンティティだとか、そういうのは関係無く、雲雀の殺気に戦闘中はあてられていたのだ。ただのチンピラにしか見えない獄寺など恐るるに足らず、その態度は明白だった。
その後もギャアギャアと二人は言い争いを繰り広げていたが、他の者はまだ起きる気配が無かった。これだけ五月蠅いのに寝ていられるとはと、少々沢田は感嘆としていた。
「ていうかお前ら何者なんだ? リング持ってないのに炎使うしさ」
能天気、そして満面の笑みで山本は彼女に問いかけた。ずっと、彼が疑問に思っていた事だ。彼ら全員は、自らの持つ剣や左目に埋め込んだ義眼なんかに炎を灯しているようだが、リングでなくともそれができるのが驚きだった。
そこで、得意げになった時空未来は説明してやろうと、一旦は口を開いたのだが、すぐに口を閉じた。
「そっちが一つ質問に答えてくれたら教えてあげる」
「ああ? てめえ今の立場分かってんのか?」
「落ちつけ獄寺。良いぜ、何だ?」
ふざけてんのかと、大声で喚き続ける獄寺を片手で後ろに押しやって、山本が続きを促した。ボスである沢田は、成り行きを見守っている。
「あなた達は……死神たちに、炎のことをどこまで詳しく伝えた?」
「うーん? 武器ってことぐらいかな?」
「そうだな、属性の説明をしている暇なんてなかった」
「そう……」
気のない返事の向こう側、心の奥底で彼女がそっとほくそ笑んでるのが、沢田には直感的に理解できた。なぜなら、目を落として残念そうにしている割には、目の色そのものが死んではいないからだ。
どうしたものかと彼が考えている間に、時空は代償として自分の持っている情報を語りだした。
「リングの宝玉の原石、それが武器の中に埋まってるの。後は、あなたの時雨金時と同じ原理よ」
「なるほどな」
「……今あなた達、襲撃を食い止められてラッキーって思ってる?」
長い長い沈黙の続いた後に、静寂を斬り裂くように、ポツリと時空は話題を斬りだした。その声の中には、やや後ろめたい感情があるように思えた。屈辱感と、失敗に対する懺悔の念。
「まあ、そうだけど……。誰かが言ってたけど、目的はボンゴレリングなんでしょう? それなら護りきったし」
「確かに目的はそうよ、第一のね」
第一の目的が、リングの奪取、その衝撃の事実にいち早く気付いたリボーンは静かに驚きの色を示した。どういうことかと、少々疑念を差し挟んで、目と目を合わせてじっと見つめてみたが、嘘を吐いている気配は無かった。
「この作戦が失敗に終わりそうならば、この機に乗じて戸魂界に霊圧組を潜入させるのが、第二の目的。あなた達の足止めが私達の、本来実行されるべきではない役目ね」
「なんと、負けても勝っても目標を達成ということか?」
「まあね、同じ了平でもこっちの了平は頭の回転が悪いようね。すでに、向こうは戦火にさらされてるはずよ」
最後に一つ、付け加えた。戸魂界に攻めこむ、霊圧組を構成するメンバーの紹介だ。
その構成員の内、半分も知っていないこの少年少女が驚く訳もないのだが、事情を知っているものならば、ありえないメンバーの名前が上がったのだ。
「あのお方……そして宇木良平様。そして、ゾマリ、ザエルアポロ、アーロニーロ、ノイトラ、ウルキオラ。そして新たにあのお方が調教した、破面<アランカル>。全員が、霊圧と炎圧を組み合わせて使えるわ」
この時は、誰も知らなかった。その二つのエネルギー体がお互いに強く作用するというのは聞かされていたが、具体的にはどれだけ強化されるのかを。
そして、残る七人の炎圧組の実力も。
次回に続く……(予定)
この章は死神とアランカルがドンパチする話です。
三章とは逆方向ですね。
旧エスパーダが大量登場です。それでは。