二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 【四章一話】月下で交わる二人のオレンジ【5/18完成】 ( No.91 )
- 日時: 2012/06/06 21:03
- 名前: 月牙 ◆nadZQ.XKhM (ID: 0L0ONGC.)
「さて、今こそ進撃の時か?」
「そうですね。では私は、霊圧組を引きつれて先に現世へと向かいましょう」
「そうだな。俺はここで今しばらく待機していよう」
天蓋の下、ラス・ノーチェスの深奥での会話だ。一人は宇木良平であり、恭しげに首を垂れて跪いていた。その先にいるのは、かつては藍染が使用していた、王座のような椅子。腰掛けているのは、真っ黒な髪の死神だった。その顔は、闇に隠れてあまり窺うことはできない。
地面についている拳にグッと力を加えた宇木良平はその力で起き上った。そのまま、急ぐように踵を返すと、すぐさま“瞬歩”にてその姿を消してその場を去った。炎圧組の住む市街地とは正反対、その方向に霊圧組と呼ばれる十三人の従者がいる。いずれも、隊長を一人相手にできるように調教したつもりだ。
「さて、一度は負けた者たちの筈だが、どこまで使えるのやら」
重たい腰を玉座から持ち上げた彼は、後ろを振り返り、磔にされている者たちをその目に収めた。ボンゴレリングを手に入れずとも、別に彼は構わなかった。具体的な炎にまつわる実験は、彼らのお陰ですでに実証されていたのだから。長い銀髪や、一見ただの赤ん坊を含む彼らによって。
「君たちから得られた、炎についてのデータは生かされている。まあ、雲については君たちの中にいないから少し苦戦したが。そう睨むなよ、孤高の獅子のような暴君よ」
抵抗しようにも、その六人組は迂闊に抵抗できなかった。この男に対して、その集団は手出しができないようで、忌々しげに舌打ちしてみせた。霊力を持たない者は手を出せないのだ。その上、少し離れた所には炎圧組という輩が巣食っている。満身創痍の彼らでは今一度敗北するのがオチだろう。
そのジレンマを理解している主犯の死神は、楽しそうにそっとほくそ笑んだ。今こそ、ずっと考えていた、戸魂界を乗っ取る時。
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「隊長、今の言葉を聞きましたか?」
現世の様子を心配そうに眺めている大多数の隊長格、その中の一人がふと声を発した。最初に話しだしたのは、真っ赤な髪の毛を後ろの方で一つに縛っている、六番隊隊長の阿散井 恋次である。話しかけた相手は、自分の隊の隊長の朽木白哉。貴族出身の雅やかな白夜は、側近とも呼べる副隊長を振り返り、応えた。
「当然、聴いていた。この言葉が正しければ、今にも連中は仕掛けてくる、そういうことであろう」
そんなことは大した問題ではないと、落ちついた口調は断言していた。どうせ、元十刃がいる、などというのは、何も知らない人間の幼子の妄言だと思っているようだ。
「しかし、現に数時間前にノイトラはここに……」
「……だが、一度その首を取った相手だ。大して気に病む必要はないであろう」
「でも、“あの炎”は脅威かと思われるっすよ」
ふと、二人の会話の中にさっきまでいなかった人物が割り込んできた。いつの間にたどり着いたかもわからないその不審な男を、周囲の者はじろじろと見つめた。甚平を羽織り、帽子をかぶり、杖を携えた男。無精髭を生やしたその者は、他ならぬ浦原喜助だった。
この時、皆が皆一様に驚きの色を示すかと思えば、そうでもなかった。砕蜂は忌々しげに怒りをもろにぶつけていたし、現世を心配していなかった少数派の一員のマユリも、苛立たしげな視線をぶつけていた。
「どうも、ヤバそうな雰囲気なんで来ちゃいました」
「……さしたることではない。直に終わる」
「いやいや、朽木さん。そうでもないってもう分かってるでしょう?」
先程と比べると心持、その顔が強張っているのを浦原は見逃していなかった。その理由は彼どころか、その場に居合わせる全隊長格が理解していた。流魂街に手を出させないために、開けっ放しにしている白道門の向こうから、大気がしびれるような霊圧が流れ込んできたのだ。
浦原がここに現れるのと、同じ道を通ったのかは定かではないが、何にせよ見た事のある顔ぶれを含む連中がやってきたようだ。
「ところで、黒崎さんはどこっすか? ちょっと、伝えることがあるんですけど」
「ああ、もう行ったぜ」
最初にその答えを教えたのは、恋次だった。淡々とした口調でそう答えられると、やっぱりそうですかと、落ち込むほかなかった。もうすでに卍解したであろう巨大な霊圧は一目散に翔け、段々と遠ざかっているのが感じられる。
「それにしても、危ないですね。言い損ねたんですよ、完全虚化には気を付けてって。平子さんから伝言頼まれてたんですけどねぇ」
その虚しい響きなど本人にココ得る由もなく、もうすでに一護の姿は無い。それなら、自分たちもいかないといけないな、と思った全隊長は腰に差す刀に手を当てた。各々、目の前にいる奴に狙いを定めて、その刀を抜いた。
誰が誰を相手にするか、そんなのはもうどうでも良い。数はあきらかにこちらの方が多いのだ。全霊の力で臨めば負けはしないだろう。侵入者の突然の来襲など意に介さず、高速で彼らは、その姿を消した。
斯くして、二つ目の血戦の火ぶたは切って落とされたのだ。
最初に敵と一対一にもつれこませたのは、最初に特攻した一護だった。狙いをつけたのは、つい先ほど取り逃がしてしまったノイトラ・ジルガ。彼にとっては一度辛酸を舐めさせられてしまった人物だ。そのリベンジという意味合いは特にないのだが、対するならばこいつだと最初から決めていた。
先刻負わせたはずの怪我がいつしか治っていたのだが、そんなことに気をかける素振りもなく、細長い一本の黒刀を構えた。日の光を浴びて少しその刃を白く光らせて傾げてみせる。真っ向から挑む死神の姿にノイトラは不敵な笑みを作った。
「おい死神ぃ……。こっちはさっきと違って……」
ノイトラはノイトラで武器を取り出した。……のは良いのだが、その武器は今まで彼が使っていたものではなかった。三日月形の刃を二枚重ねたような鎌状の武器ではなく、緑色の何かを通電させたような残月並の大きな刀だった。
「本気で挑んでんだぞぉっ!」
途端に、薄く帯電していただけの電撃が大きな炸裂音を上げてショートする。大気中にも溢れ出るほどのその雷撃に、目を眩ませた一護は一瞬目を伏せた。その次の瞬間に、雷撃が襲ってくるのかと思って身構えたのだが、どうやらそれは見当違いに終わったらしい。
何も起こらないことに違和感を感じながら、ノイトラをもう一度目に収めると、予想していたのと若干違う光景が広がっていた。攻撃用の電気だと思っていた緑の稲妻はノイトラの全身を覆っていた。
「試しに一発撃ってみろよ。月牙天衝でも何でもなぁ……!」
安い挑発、最初に一護が感じたのはそれだった。しかし、こちらから一度仕掛けるチャンスを貰えるというならば、良いチャンスだと判断した一護は霊圧を込める。
堂々と、何かを期待するように防御の姿勢も取らずに意気揚々としている。どこまで自信があるのかはよく分からないが、試してみないと何にもできない。
天鎖残月から迸る薄雲のような霊圧を見て、最高まで充填できたのを確認した一護は凛とした目でノイトラを見据える。余裕ですましているうちに一撃で決められるのならばこれ以上に楽なことはない。
「月牙天衝……」
三日月形の真っ黒な“飛ぶ斬撃”は、迷うことなくまっすぐにノイトラに向かう。その得意げな表情ごと、奴の全身を呑みこんで空に黒い浮雲のような一護の霊力が漂う。捉えた、そう一護は思った。実際一護は捉えることはできた。だが、たったそれだけだった。
黒煙の晴れた中から現れたノイトラは、傷一つついていなかった。そんな訳は無い。一護は咄嗟にその事実を否定した。以前闘った時もこうだったが、あの時は一護は傷だらけの手負いだった。その上、月牙天衝だって使っていなかった。万全の状態の月牙を喰らって無傷、それが信じられなかったのだ。
「どうだ。信じられるか? これが雷属性の特徴、硬化だぜ」
「何言って……」
「見ただろ、鈴音風花の闘い方も」
そう言われた一護はつい先程の、緑の長髪の少女を思い出した。あの時彼女は、緑色の雷撃に身を包み、己の身体自体を硬くさせていたのだ。それと同じことだと理解した一護はどうしたものかと困惑した。
攻撃の手立てが早くもなくなってしまった。もう、どうしようもない、そう思っていた矢先の話だ。今度は、ノイトラがその大刀を振り上げた。
「さて、地割れ一発起こしてやろうかぁ?」
霊圧と、炎圧————二つの強力な力は相互に影響し、お互いにその力を増幅させているようだった。宇木良平の言っていた、強く反応するとはこういうことだったのかと、一護は舌打ちした。それにしても恐るべき霊圧だ。ぞくぞくするような寒気に身を震わせながら、歯をむき出しにして嗤う破面を見据えて、覚悟を決めた。
突如として広がる爆発、それに伴う爆炎と爆音、爆煙……それらが周囲を覆い尽くした。周囲のものを根こそぎ吹き飛ばすほどの勢いで、平野で放ったら地形が変わってもおかしくない。途端に、上空で爆発が起きた。
その爆発の一瞬前、一護は確かに見た。あの体表の硬度を誇っていたノイトラの胸元を、一本の細い光の槍が貫いたのを。それは、一護だけが見覚えがあった。その槍を放ったであろう人物の声が聞こえると共に、ノイトラが地に堕ちる。
「……ランサ・デル・レランパーゴ」
声の主の方向を、一護は振り返り、向かいあった。そこに立っていたのは、かつて出逢った破面の中でも最強の存在。
「その程度だったか、お前は。黒崎一護」
——————————ウルキオラ・シファー。
次回に続きます。
ノイトラはもはや咬ませ犬みたいになってます。
ウルキオラのノイトラ攻撃の理由は次回明らかに……なるはず。