二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 薄桜鬼 背中合わせの志【参照600超感謝】 ( No.104 )
日時: 2012/04/22 21:18
名前: 流夢 (ID: O72/xQMk)

49話「想い入れ」


千姫が去っていった時、空は我慢しきれなくなったのかぽろぽろと涙を流し始めた。
千鶴が慌てて晒を渡す。
空はそれを受け取ると、顔に当ててからぱっと泣き止む。

千鶴「落ち着きましたか?」
空「はい…」
新「おい、空。海が寝返ったって如何いうこった?」
空「分かんない…。だけど昔から知ってたのは、海は千姫様じゃなくて風間さんに憧れてたっていうか…尊敬してた」

空は俯いて、それだけ答えた。
空は昔の情景を思い出す。

———

海「また風間様が…。相変らず尊敬に値する」
空「海ぃ。そんなこと親の前で言ったら即殺されない?」
海「まぁ殺されるだろうな。其の前に自害するさ。あははっ」

まだ少し柔らかかった海の表情。
冗談交じりで言った言葉の端々は丸かった。
何時も筆を持って何かを書いている海。

空「海、何書いてるの?」
海「お前には関係ない…。壱つだけ言うのなら文だ」
空「誰に?」
海「誰でも良いだろう」

今考えると、その文は幼き頃から風間や薫に渡っていたものだったのだと知る。
筆を持っている時の海の顔は凛々しかった。
だが何処かに楽しさも感じているようだった。
それが、昔から海の眼が千姫ではなく風間達に向いていた事の証拠だ。

———

海「君菊さん、何か用ですか?」

海は振り返らずに問うた。
後ろの木の影に隠れていたのは疑うまでも無く千姫の命令で偵察に出ていた君菊だった。

君菊「やはりばれてしまうのですね。貴女には」

君菊は木の影から出てくる。
海は半分だけ後ろに振り返った。
海の顔は、月明かりが照らし出して青白く光っていた。
眼だけは爛々と蒼色に光っていた。

海「定期報告はきちんと遣します。それでもまだ何か不満が御有りですかね?千姫様は」
君菊「私は千姫様に頼まれてきているだけで、内容までは知ろうとしない」
海「ならば、逸早く此処から立ち去ってください。でなければ…そうですね、空を殺しましょう」
君菊「!!…貴女は、今まで共に過ごしてきたあの娘の事を何とも思わないんですか?」
海「ええ、思いませんね。彼女には最初から何の想い入れも無いですから」

海は、さらりと言ってのけた。
君菊がまだ何か反論しようとして口をあけた瞬間、乾いた銃声が鳴り響いた。
銃弾が飛んできて、君菊はもう少しのところで避けた。
君菊は、銃弾の飛んできた方向を睨む。
そこは建物の屋上で、銃を構えた不知火が立っていた。
向かいの建物の屋上には、天霧が立っていた。

海「私はもう手加減しませんよ?仲間じゃありませんから」

海は、口の端を上げて、妖艶に笑って見せた。