二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

  誕生日を祝ってくれた方々へ感謝を込めて!お礼短篇 ( No.104 )
日時: 2012/05/04 11:12
名前: さくら@GW (ID: te9LMWl4)
参照: http://mb1.net4u.org/bbs/kakiko01/image/280jpg.html

 私が何時だって求めていたのは、貴方という存在でした。


 ×


 あの日は確か雨が降っていた。バケツを丸ごと引っくり返した様な、そんな雨。一粒一粒が雫の刃の様に冷たく突き刺さる。血が滲んでも痛くないから気にしなかった。
 神童とは昔からの幼馴染で、今まで幼稚園も小学校も中学のクラスまで同じ。所謂腐れ縁って奴だ。まぁ、昔から仲が良かったと言えば仲も良い方で登下校などは一緒にしていたから、関係を怪しまれて変な噂も立てられたりした事もあった。其れに神童はモテるから、噂を聞き付けた先輩達から呼び出されたりもして「違います」って否定しても信じて貰えなくて、何だそんな関係じゃ無いっつーの!ってむしゃくしゃしたりしたなあ。今となればちょっと不快な思い出も良い思い出だ。

 神童は優しくて、情深くてしっかりしてて泣き虫な奴だった。対する私は意地っ張りで短気で何時も人に頼ってばっかで、全然神童とは釣り合わないタイプの人間だ。
 昔は私の方が強くて、泣いている神童を護っていたけど中学に入ってからか、彼は部のキャプテンを務める様になり、少しずつ変わっていった。同じ所に立っていた神童は、何時の間にか凄く先に行ってしまっていて、私は何時も背中ばっかり見ていた気がする。
 でも決して嫌いだった訳じゃない。寧ろ好きだった。大好きで大好きで溜らなかった。其れは、一人の男としての意味でも。


「何で、何でこんな事になっちゃったんだろう」


 神童、神童神童神童。私は夢を見過ぎた。緑の若葉がふと目に入る季節。5月に入った丁度あの日。神童は私の目の前から姿を消した。
 あの日は雨が降っていた。


『神童、宿題手伝ってくれてありがとね』

『お前の誕生日位早く家に帰れる様に努力しろよ』

『あれ、今日誕生日だったっけ』


 確かこういう会話をしていた気がする。私の溜めるに溜めていた宿題の後片付けを手伝ってくれた神童と一緒に通学路を歩いていた。冬じゃないからまだ日は沈んでいない。だけど激しい雨だったから視界は薄暗かった。
 そっか、今日私の誕生日だったか。そーいえばそうだった。何かあまりにも普通の日常過ぎて感覚鈍っていた。

 だけど、予期せぬ最悪の出来事は、そんな何気ない日常の狭間で、起きる。


『ほら、誕生日プレゼント』


 手渡された小さな箱。嗚呼、神童は覚えててくれたんだ。私でさえも忘れていたのに。


『ありがと。…ゴメン。今開けて良い?』

『ん、』


 嬉しくて胸が高まる。やったあ、とリボンを解きながら早足の私は一足早く横断歩道を渡った。其の時は確かに青だったのに。
 神童から誕生日プレゼントを貰った事が嬉しくて嬉しくて、此方に迫ってくる自動車の存在に気が付かないでいた。スピードを荒げている乗用車。

 ピカッ、と眩しい位にライトが光って一瞬だけ脚を止めた。何だ何だと興味本位で眩しさの残る瞳を抉じ開けてからやっと、其の自動車の存在に気が付いた私は馬鹿だ。もう自動車は私の隣まで来ていた。
 信号無視して通ろうとする自動車に、私の足は動かない。怖い、怖い、動きたい、動かないと死ぬ。嫌だ死ぬの嫌だ。怖くて脚が竦んでその一歩を踏み出す事が出来なかった。
 神童は悲鳴に似た声を上げながら走ってきて、私の肩を強く押した。


 ぐちゃり。嗚呼、視界が揺れる。ぐちゃり——ぐちゃり——、生暖かい何かが私の手を汚す。
 其れから、神童は消えた。死んだ、と言った方が合ってるのかもしれない。私は真っ暗な闇に落とされて、一人で、寂しかった。私の嘆きは、届かない。



「うぅっ、っあ、」



ふと、誰かの泣声がして振り返る。だけど其れが誰かなのかは分からなかった。声はしてるのに。何で、でも其の声が誰の者なのか、凄く聞き覚えがあるのに分からない。
 立て続けに声がした。


「おい、あいつの葬式で泣くのはもう止めろよ」

「だって、お、俺の、所為」

「お前の所為じゃない」


 誰なんだろう、凄く懐かしい声。泣いている方は、凄く、愛おしい声。


「神童、お前が泣いてちゃあいつも悲しむぞ」


 “神童”彼がそう言った瞬間、私の視界が晴れた。そうだ、思い出した。大好きな神童が目の前に居る。あれ?でも何で。彼は死んで此処には居ないはずなのに。夢を観ているのかな。


「神童、あいつは、死んだんだよ」


え?聞き捨てなら無い其の言葉。死んだ?誰が?え、私?
 白い花達に囲まれて笑っている私「の写真」があった。な、何。これじゃあまるで、


「ごめん、ごめんな。俺があの時、お前に手が届いていたなら」


 如何やら私は夢を見過ぎていたらしい。夢に溺れていたらしい。
 死んだのは、私の方だった。



(( 指揮者はそのタクトを祈りのように描いたのです ))

240504
誕生日プレゼントをくれた方への感謝お礼短篇。
ゴキブリワールド楽しくやってるかー!
此方、誕生日数々の女神様等に祝って貰えて発狂したさくらだよ。