二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: D・Gray-man 〜涙のメロディ〜 こめんと募集中! ( No.285 )
日時: 2012/09/19 21:09
名前: 月那 ◆7/bnMvF7u2 (ID: IsQerC0t)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel3/index.cgi?mode


  第20粒「少女は一歩前へと・・・」


 「久しぶり・・・リズ」

 あたしはそう声をかけた。
 そしてドサッと十字架にもたれかかる。目の前を見ると、一面の海が広がって見える。カモメが空を飛んで鳴いている姿は、どこか懐かしい気分になる。

 ここはフランスの南部・アルラにある小高い丘の上だ。

 フランスはリズの故郷だし、リズには家族がいないと聞いていた。なので、海風が吹く粉の心地よい場所に墓を建てようと、あたしとアイツで決めたのだ。

 「ねぇリズ。あたしね、・・・ずっと、リズが死んだのはあたしのせいだって思ってたの」
 そう、あの日までは・・・。
 「けどね、ある人に言われたからさ。リズの人生はリズのものだから、って」


 あのね、


 「だからね、あたしはもう、リズの死をあたしのせいにしない。リズの人生をあたしのものにしないためにも・・・」


 ずっと言いたかった


 「でもさ、やっぱり寂しくなったら、また会いに来てもいい? リズの好きな菊の花をたーっくさん持ってくるからさ」


 でも、言えなかった。いや、言いにくかった。だって


 「だから、ね。そのときは、・・・なぐさめて、よね」


 記憶がなくなっていたあたしには、とても照れくさくて、言いづらかったから


 「『・・・お母さん』」


 風に乗って塩のにおいがする。涙腺が緩んでいたあたしには、それはとてもよく効いた。


   * * * * *


 『ねえサクラー。アタシのこと、「お母さん」って呼んでもいいのよー?』

 『いーやッ』

 『そんなこと言わずにさー。呼んでみてよー、ほら!』

 『いやったら、いーや!』


 あの頃は、記憶をなくしていたあたしに、親代わりみたいなものがいただけでとても嬉しかったのに、

 「お母さん」って呼ぶのが、
 恥ずかしくって
 照れくさくって、

 ずっとずっと、言えなかった。

 言おうとするだけでも、体が熱くなって、顔なんか夕日みたいに真っ赤になってしまったのを、覚えている。


   * * * * *


 気づくと、薄明るかった空は暗くなり、太陽も沈んでしまうところだった。

 「じゃ、そろそろ行こうかな」
 あたしはそこから立ち上がり、またリズの墓を見つめたあと、

 「バイバイ、またね」
 そう言ってあたしは歩き出す。

 なんだか、一歩前に進めたような気がした———。


  〆 9月19日