二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: イナクロ〜なくしたくない物〜キャラ人気投票&2000越え ( No.188 )
日時: 2012/12/16 21:22
名前: 柳 ゆいら ◆JTf3oV3WRc (ID: ftamISp/)

十話   「長い髪」



イチかバチかで……。

「アクアかファイアリと、ミキシマックスするか……。」
『むだに体力をつかうことは、かんがえないことですよ、風花さん。』
「! ファ、ファイアリ……。」

ふりかえると、実体化したファイアリが、不安そうな笑みをたたえ、立っていた。その短い紅色の髪が、ユラユラと風になびく。

「ファイアリが実体化したのは、はじめただな。」
『ええ。やっぱり、アクアさんにいわれて、すこし気になったもので。』
「気になった?」

俺がききかえすと、ファイアリはこくっとうなずいた。

『アクアさん、とても心配していらっしゃいましたよ、風花さんのこと。』
「どうだかなー。宿主(やどぬし)がいなくなるのが、やっかいなだけのような気も、しないでもないんだけどなー。」
『なんてこというんです、風花さん。アクアさんは心底、風花さんがムチャなさるんじゃないかと、ずうっといっていらっしゃるんですよ。』
「ふぅん……。」

アクア、大まじめに心配することもあるんだ……。

「……俺、髪切ろっかな。」
『えっ!?』
「だって、この髪は、友撫のためにのばしてたんだ。母さんに似せるために。……でも、もうその必要も、なくなった。」
『で、でも、ずっと大切にしてたじゃないですか、その長い髪。風花さんは、それでいいんですかっ?』
「べつに。…………どうせいちど、切ったことあるし。」
『そ、それは、自分の意志ではなかったではなかったではないですか。』
「経験があるから、べつにいいっていってんの。ファイアリ、はさみ出して。」

俺がたのむと、ファイアリはいつにもなく、真剣なまなざしで、俺を見た。

『い、いやです。』
「なっ。なんで!」
「だ、だって、風花さんの髪を切ることなんて、できませんもの。』
「そ……か。」

ファイアリって、意志の強いヤツだったんだな。しょうじき、ちょっとナメてたや。

「なら、自分でやるさ。」
『!』

俺は、ポケットからはさみをとりだし、ゆっくり、髪に近づけていく。もうすぐ髪にとどく——という、その瞬間。

『させませんよっ。』

ファイアリが力を発動させ、俺の両方のほおスレスレに、つくりだした炎をあてる。でも、それ以上は近づかせないことに、俺はフッとほほえんだ。

「それ以上は近づけられないよな? だって、むだだって知ってるし。」
『それは……ッ。』
「ま、俺がもし仮に、この炎で死んだとしたら、おまえが消えるだけだもんな?」
『わ、わかっているなら、切らないでください。』
「……ごめん、やっぱり、むり。」
『! やめ……っ!』

ザクッ

耳元でにぶく、切れる音がした。パサパサと音をたてて、たくさんの髪がおちていき——……。
髪を切っていた。

『あっ……。』
「よかった……やっと、これくらいの決断力がついてて。」
『よかったじゃありません! なんで、こんなっ……。』
「だって……むだなんだもん。もう、友撫もこの長い髪、求めなくなったし。」
『風花さんっ。』
「わるい。俺、みんなのところ、もどるわ。」

ファイアリがまだいいたげではあったが、ひと息もらすと、俺のからだのなかに、すうっととけていった。

「ごめんね、アクア、ファイアリ……。」

ぽつりと、そんなことばをもらした。
ほんとうは、ファイアリもアクアも、俺を心配してくれてることは、とっくのむかしから知っていた。俺が《半個半幽》になり、不安そうにしていたとき、ちょうどアクアが俺を宿主として選んだんだ。でも、そのとき、俺はフィフスでのとらわれの身……。アクアを抜群につかいこなせるまでの能力があるかは、自分でもわからなかった。
その日から数週間後に、化身を実体化させることができるようになったんだ。理由は、たぶん、新しくアクアが、俺を宿主に選んでくれて、ちょっとがんばろうと思ったからだったと思う。いつもより、特訓……っていうより、修行に近かったけど。まあ、その修行をがんばってみたからだった。
でも、そっからアクアのおせっかいさや、いやらしさを知ったんだけどな……。半分、実体化させられるほどの実力を、つけないほうがよかったって後悔したときもあったよ。
けど……おせっかいじゃなくって、心配して、世話を焼いてくれているだけだったみたいだ。……いやらしい理由は、なんなんだろう。ちょっと気になるかも。
こんなに尽くしてくれているのに、俺はけっきょく、ふたりをふりまわして、迷惑しかかけられないんだなー……。

「……いくか。」

俺がみんなの元にもどると、フェイがど派手に転んだ瞬間だった。

「うわっ;; フェイ、だいじょうぶかよ!?」

俺は気持ちを切りかえ、フェイにかけよった。こうでもしないと、暗く接して、……転校初日の体育の授業中に輝にいったようなことを、いってしまいそうだったから。

「う、ん……? えっと、え……?」
「どうしたんだよ、フェイ?」

フェイは、「このひとだれ?」っていう顔。
あっ。ま、まさかっ。

「もしかして、髪切っちゃってわかんなかった? 俺だよ、ふ……ユエ。」
「えっ!? ユ、ユエ!?」
「うっそ!」
「髪切ると別人って感じだねっ。むしろ、そっちのほうが似合うかも! 女子っぽいしっ。」

ううっ。信介、ほめてんの? けなしてんの?

「……。」

あれ? フェイ、ノーリアクション? てか、一ミリたりとも動かないけど!?

「フェイ!?;;」
「ハッ。あ、ご、ごめん;;」
「そーいや、プエは、サッカーやんねえのか?」

トーブくん、プエって、俺のことかな?^言^

「そういえば、最近やらないよね。」
「うん、そうだよね。どうしたの?」
「出番がないだけだしー。やろうと思えばやれるしー。……っていっても、みんなよりレベルは、ドドンと低いけどな。」
『うそつけ。このバカ。』
「だから! バカっていうの、いいかげんやめろよ! ……って、あ?」
「だ、だれ!?」

俺は思わず、人さし指をたてた状態でぽかーん、天馬たちは、敵かと思い、身構える。

「びっっくりしたー……。なんだ、おまえかよ。」
「ユエ、知り合い?」
『知り合いもなにも、ふ……ユエの化身だよ。』
「へー、ユエの化身……って、風花の化身ん!?」

信介、おどろきすぎ。

「ふ、ユエの……!?」

あり? 意外とフェイさん、びっくり仰天って感じ。

「どしたの、フェイ?」
「もしかして、彼女は実体化した……?」
「ん? ああ。まあ、そうだけど。」
「す、すごい……。そうとうの実力者じゃないと、できないはずなのに……。」
「へー、そうだったんだ。」
『やっとうぬぼれなくなったという証拠だ。やあっと進歩したな。長年、まったく進歩がなかったが。』
「おまっ! いま、一瞬鼻でわらっただろ!」

俺とアクアが、ふたりでコントのようなものをくりひろげていると、

「ねえっ、ユエ!」

と、いきなり信介が、俺に声をかけた。

「ん? なんだよ、信介。」
「ユエもさ、一緒に特訓しようよ!」
「……は!? いやいやいや。トロオドンさんたちと!? むりだっつーの!」
『やれ。これは命令だ。やらないと、おまえのあたまに、氷がつきささる。』
「え……;; や、やります、はいっ。」

というわけで、強制的にやることになりました。もちろん、アクアがいつ、氷を俺のあたまにつきさすかわかんねえから、とりあえず引っ込んでもらった。

「お兄……。」
「ん、どうした、友撫?」

俺のとなりに歩みよってきた友撫の表情は、不安げだった。

「なんで、髪切ったの? それじゃあ、まるでむかしのi 「友撫、その話は、またあとで……な?^^」え……う、うん。」

友撫は、納得がいっていない顔だった。