二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: イナクロ〜なくしたくない物〜3000越え ( No.227 )
- 日時: 2013/01/30 20:43
- 名前: 柳 ゆいら ◆JTf3oV3WRc (ID: 2ft.mOaW)
4章 。○きっかけ○。
1話 「透明」
「つか、ここどこさ?」
「ここは、たぶん屋上みたいなところ。ほら、下が見えるだろ?」
「……待てよ。ここ、屋根の上っていうののほうがあってるような気がするんだけどさ……。」
高いし、なんかツルツルしてるし。すべりそうだし!
「ひぇっ;;」
「おい、だいじょうぶかよっ;; ったく、どんくせーな。」
「おまえより、どんくさくない気がするんだけど。」
「あっそ。」
相崎、いつも以上にあっさりしてるなー。あしたは雨か?
俺が相崎から説明を受けている間に、さまざまなことがわかる。
「なんじゃいな、その……えんろうのきしって。」
「円卓! おまえ、耳だいじょうぶかよ?」
「だいじょぶです!」
「あ、でもそういえば、円卓の騎士のなかに、天馬さんとフェイ・ルーンだけいなかったような。」
「……って、ことは、もしかして……。」
「だろうな。主人公の見習い騎士は、天馬さんとフェイ・ルーンってことだな。」
「すっげー……。俺の予想、当たっちゃったよー……。」
「とかウワサをすれば、そのおふたりさんが……あれ? なんだ? あのクマ。」
「クマじゃねーよ。ワンダバ。フェイと一緒に、未来からきたの。」
相崎、その情報は知らなくて、菜花とフェイのことについては知ってるわけ? おかしいだろ、それ;;
「あ、ちなみに、あれはアーサー王ね。」
相崎が指した先には、バルコニーに立っているひとが。りっぱな鎧に、金色の王冠。いかにも、王さまって感じのひとだ。
「イメージどおり……ww」
「さっきっから説明ばっかりしてる気がしないでもないんだけど……。円卓の騎士、でてきたぞ。」
「え?」
ふたたび相崎が指さした先には——鎧に身をまとった十二人!
「た、たしかに雷門のひとたち……!」
「アンバランスなひとも、何人かいるけどな。」
「あっ、もしかして、神童先輩が隊長とか?」
「イエス。そのとおり。」
「……あ、でも、待てよ。あの絵本のとおりだと、あれって・・・・・。」
「乗馬したままの剣術試験……だよな?」
ふたりして心配顔。同時に天馬とフェイをふりかえると、どうやらふたりも、けっこう不安そうな顔。まあ、やるっきゃないっていうのは、わかりきってるみたいだけどなぁ。
「だいじょうぶかなぁ……。」
「さすがに、マジでガチの乗馬試験じゃないとは思うけどな。」
「試験の内容は……サッカーだ!」
「えぇ——んぐっ。」
俺がさけびかけたとたん、まるではじかれたように、相崎の手が、すばやく口をふさいだ。
ま、まさか、こんなところにまで、影響がおよぶなんて……! 信じられない……。なーんて、ちょっとオオゲサか。
神童先輩いわく、俺たちが持ちこんだ『サッカー』という概念が、この世界にも影響してしまったんだとか。……意味不明。俺には、まったく理解できません。
「つまり、おまえらの『サッカー』に対する思いが、この世界に影響をおよぼしたってわけ。」
「あー、それならわかる!」
「おまえ……読解力、だいじょうぶか?」
相崎、とんでもない軽蔑の視線。
「うっ、うるせーな!;」
「なっ!? ちょっ、おい! おまえ、すべりおちてっぞ!」
「え? って、わああっ;」
ドサッ
受け身をとる間もなく、俺は地面に墜落しました……。あーあ、めちゃめちゃ、いたい……。ていうか、みんなはテレビ越しだから、わかんなかったと思うけど、アーサー王の世界は、なぜか夏のはじまりとおなじくらい暑い。だから、普段着に分厚めのローブなんていうすがたの俺は、もともと暑がりなのもあり、とんでもなく暑く……。そのせいで、背中にたまっていた汗で、布がべったりと背中にはりつき、とんでもなく気持ち悪いです……。
助けてくれよ……。
「だいじょうぶかよ、月流!」
相崎は、器用に屋根をすべりおり、かれいに着地。くやしいけれど、俺とは大ちがいだ……。
「ほら、手、つかめよ。」
「悪いな……。」
俺は、軽くぶつけたあたまをさすりながら、相崎の手をとった。
「ったくよ……。あっ、それより、先まわりしないとな。」
立ちあがった俺を確認したあと、相崎はかんがえるポーズをとった。……そういえば、相崎って、ふつうにしてれば、けっこうカッコイイよなぁ。
「たしか、この先は、エクスカリバーとやらをなおすために、妖精のいる泉の森に向かうんだよな。よし、いくぞ。」
「お、おう。」
俺は、先を走る相崎の後を追った。
そのときからだった。
なんだか、からだがすこし軽くなって……。
手が透けはじめたのは。
☆
「と、森に先まわりしたのは、いいものの……。」
「あっという間に、おわっちまったな。」
そう。なんと、泉から妖精役の山菜先輩がでてきたかと思えば、「なおれ、なおれ。」という、とんでもなくテキトーな呪文で、エクスカリバーはなおってしまったのです……。本日二度目の、信じれん……!
「ぼうぜんとしてる場合じゃねえぞ。つぎ、いくぞ。」
「ういよー。」
がっくりと肩をおとしながらも、足を走らせる。相崎は、藤代ヶ丘のなかでは、いちばん足がはやかったから、ついていくのにも一苦労だ。なぜか、下半身だけタイツになっていて、草や花、小枝などにあたっても、さほどいたくない。俺がこんなことをするって、まるで決まっていたかのように、つごうがいい世界だと思う。
俺は、チラリと右手をだして見た。うっすらと、自分の足と草花が、手をとおして見える。もう、手のほうは、透明にしてしまおうと思えば、できるほど《幽体》……幽霊のからだに近づいてきていた。
(もう……消えてしまうのかな……。)
「おい、月流! 森、ぬけるぞ!」
「えっ、あ、ああ。」
相崎に言われて、前を見ると、木々の間から、光がこぼれだしている。
もうすこし先に、光がある。そう思ったとたん、目をつぶってしまうほどの光が、俺と相崎をおそった。
と、同時におこったできごとが、とても信じたくなかった。
「わっ!?」
「なっ、月流!?」
いきなり、俺だけ足場が消えていた。きっと、段差なんだろうと、そのときは思っていた。でも、その次の瞬間には、相崎のおどろいた顔が、視界のかたすみにうつった。しかも、俺は見上げられている——……。
つまり……飛んでいるらしい。
「げつ……りゅう……?」
相崎の声が、ボロリ、ボロリと、口からこぼれだす。
(なんで・・・・・どういうこと……? もう、消えるから……?)
わけがわからなくなり、視点が定まらない。
感覚で、すべてがわかった。なんだか、からだがスースーする。さっきまで、とんでもなく暑かったのに、いまはむしろ、暑いとも涼しいとも感じない。おかしいくらいに、からだも軽い。まるで、ウエハースになってしまったかのように。
一瞬、わけがわからないあまり、意識がとびかけた、その瞬間。落下した感覚。そのつぎには、地面にいきおいよくたたきつけられていた。自然と、からだがのけぞる。
「っっ!」
「月流、だいじょうぶか!?」
相崎が、あわてて俺の元にかけよる。はでに背を打ちつけたにも関わらず、ふしぎなことに、まったくいたみを感じない。ゆっくりとからだを起こしていく俺を、相崎が凝視しているのを、感じていた。ボーッとするあたまを、必死にはたらかせようとするのに、なぜか、いやな思い出がよみがえってくる。
『気持ち悪い』
やめて。
『生きものなわけ?』
やめて、やめて。
『化け物!』
やめて、やめて、やめて!
『化け物、化け物、化け物……。』
ちがう……。ちがう、ちがう、ちがう! ちがう!!
俺は俺だ! 風丸風花だ! 『化け物』なんかじゃない!
人間だよ。たしかに、おかしいかもしれないけど……。でも、人間だよ!
なんで、気味悪がられなくちゃいけないんだよ。おなじ人と人のはずなのに……っ。
「月流……。」
相崎の発した声に、ビクッと肩がふるえる。
これで、気味悪がったりしなかった相崎も、気味悪がるんだね……。うらんだりはしないよ。どれだけいいあっても、そんなことは、なかったしな。
しかたないんだ。こんなとこ、見られたら。
俺は覚悟して、でも、なんだかこわくて、目をギュッとつぶった。