二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: イナクロ〜なくしたくない物〜4000越え ( No.244 )
日時: 2013/03/27 18:17
名前: 柳 ゆいら ◆JTf3oV3WRc (ID: O59cZMDb)

9話   「自嘲」



建物を無断で飛び出し、そこらへんにあった、適当な木に、一気に登りつめる。息は完全に上がっていて、呼吸をするのも苦しいほどになっているのに、いまはまったく気にならない。
信じたくはないけど……あり得ないけど……! 分からない……!
アクアが、自分からなんて、そんな……。
でも、あいつならやりかねないよ……。
どうしよう。もし、ファイアリも消えてたら……!!

(どうしよう……!)
『風花さん、聞こえていますか?』
(ファ、ファイアリッ?)

良かった。ファイアリは消えてなかった……。

(ファイアリ、アクアは? アクアはどこなの?)
『アクアさんは……消えてしまいました。』
(え……そ、そんな。まさかとは思うけど、自分から……?)
『まさか、そんなことは! アクアさんは……耐えきれなくなってしまったんです。《半個半幽》のせいで、アクアさんに負荷がかかりすぎてしまって……。』

つまり……俺のせい、ってこと……だよね……?

(お、俺のせい……なんだよね?)
『なにいってるんですか! しかたないことです! 《半個半幽》になってしまったことも、それで、アクアさんが消える運命になってしまったことも!』
(だったら!)

そういって、思わず取り乱してしまったとき。
すわっていた枝から、ずり落ちてしまった。

「きゃっ——!」

自分でも、「うわ、女々しい。」とか思ってしまうような、短い悲鳴を上げて、アスファルトの地面に落ちていく。
絶対もうダメ——! そう思って、目をつむった。
でも、ぜんぜん痛みなんて感じない。これといった衝撃も感じていない。
ゆっくり目を開けてみて……絶句した。

「こ、これ……!」

浮いていた。
あおむけの状態で、アスファルトから数センチほど、浮かんでいた。しかも、地面が見えるくらいに、透けて。

「な、え、これ……え……?」

混乱して、言葉が出てこない。
ゆっくりと、体がアスファルトに降りた。かたく冷たい、夕焼け色に染まったアスファルトが、はっきりと実感できる。
なのに、体はまだ透けている。
俺が、ゆっくり体を起こそうとしたとき、やっとその透明度は、数値を落としていき、はっきりと、体の色を取り戻した。それでも、俺のくちびるは、わなないている。

「バ、バカ……だな。」

うつむいて、自嘲する。
あーあ。こうなること、分かってたじゃん。
やっぱり、怖かったんだよ、こうなるのが。

「あは、は……。」

もう、笑いしかこぼれてこない。
逆にいえば、もう笑うほか、なにもできなかった。
泣くこともできない。くやしがることもできない。
全部、自業自得のような気がしてきてしまって。

「まあ、いいや……。もう、戻ろうかな。夜練、あるだろうし……。」

力なく立ちあがり、ヨロヨロしながら、建物にもどった。

     ☆

練習が終わって、もう三十分はたっただろう。はやいことに、みんなもう、寝付いていた。
……ちょうど、いいな。

「ファイアリ、いくぞ。」

静かに現れたファイアリに、俺は語りかけた。

『で、でも、風花さん。試合までに、間に合いますか……?』
「いいさ、間に合わなくても。……大事は、ないと信じてるから。」
『フェイさんのことですね。あの、こんなこと、首を突っ込むべきじゃないと思うんですが、聞かせてください。
 ……いつになったら、フェイさんにお話しするつもりなんです?』

無駄なこと聞くな。

「いつかだよ。……ていうか、きっと、今回の試合で、全部分かるさ、フェイ自身がな。俺が説明するより、からだで実感するさ。」
『イヤな、方ですね。』

なんとなく、ファイアリの声は、笑っているように聞こえた。

「……うん、かもね。まあ、いくっていっても、ちょっと風にあたるだけだけどね。」

俺はほほえみ、ファイアリをふり返った。ファイアリも、苦笑いしていた。

「じゃあ、いってくるね。」
『あっ、で、でもっ……。』
「俺ひとりでいかせて。ひとりになりたい気分なんだ。」

ファイアリが止めるのも聞かず、俺は、出口に向かった。


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短いな、おい。