二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: イナクロ〜なくしたくない物〜4000越え ( No.245 )
日時: 2013/03/29 15:57
名前: 柳 ゆいら ◆JTf3oV3WRc (ID: O59cZMDb)

10話   「いろんな……」



建物から、そうとう離れた場所にいた。まあ、走れば五分くらいでつくけど。
ながめるのは、どうしても目を離せない、みんながいる建物。なぜか、すごく気になるんだ。なにかが、おこる気がして……。

「あ、あれ……?」

あれって、もしかして……。




『風花さん……。』

ファイアリはただひとり、とり残されて、練習場に立っていた。
アクアが現れたのと、ファイアリが封印されたのは、ほぼ期間だった。
それ以来、ファイアリよりも、アクアの方が、風花を理解できるようになっていて。
ひとり目の化身である自分より、アクアの方が、良き理解者になっているような気がして。
目がさめたら、いろんな風花がいた。
猫かぶってる風花。
『月流ユエ』としてふるまっている風花。
『月流ユエ』で猫をかぶっている風花……。
もう、ありすぎて数えられないくらい。
情けないことに、どれが本物の『風丸風花』なのか、識別がつかなくなってしまった。

『情けないにも、ほどがありますよね……。』

ファイアリは、目にたまった涙をこぼさないため、力なく、ただひとりでわらう。きれいな顔を、くしゃくしゃにして。
と、そのとき。

「ファ、ファイアリ、だいじょうぶ?」
『えっ?』

背後から、語りかけられた。自分だけだと思っていたから、こんな弱音、はいたのに……。
ふり返ると、なんと、輝だった。そのとなりには、フェイもいる。フェイは、なんとなく、深刻そうな顔にも見えるが……?

『お、おふたりとも、いつから……。』
「えっと……最初から、かな;;」
『……盗み聞きって言うんですよ、そういうの。』
「それより!」

深刻そうな顔をしていたフェイが、いきおいよく切り出した。ファイアリと輝も、ハッとして彼を見つめる。

「なんなの? ぼくに話すことって。ぼくに、なにか話すことがあるの? それに、そのことは、これからぼく自身が分かるって……。」
『そ、それは……。風花さんも、話さないのには、きっとわけがあると思います。だから、わたしの口からは、なんとも……。』
「そ、っか……。ごめん。」
『いえ……。』

その言葉を合図に、エルドラドの巨大な建物が、大きく揺れた。




俺が存在に気づいたときは、すでに遅かった。
あの無駄にデカい建物が、爆音と爆煙に襲われていた。
『フェーダ』だったんだ。あの銃で、建物を射撃していた。

「あいつら……! 試合は明日じゃなかったのかよ!?」

そこで、ハッとした。
まさか、あいつら、フェイを迎えに来た……?
その考えで、俺の体は勝手に動いた。建物に一直線に続く道を、自分の全力を出して、走り出す。
いまより最悪のタイミングは、あるかもしれないけど……いまのタイミングで、フェイを持って枯れるのはキツい。
戦力的以上に、雷門中の精神的に。特に、天馬はまずいだろ。あいつ、かなりフェイのこと信頼してたし。
全力疾走って、けっこう疲れるらしかった。持久走なみの距離のある道を、のどの奥が鉄の味がするのをがまんしながら、必死に走った。




「なに、この揺れ!?」
『分かりません! でも、危険なのは分かります。逃げましょう!』

ファイアリの声を合図に、ふたりともあわてて走りだした。
みんなも跳ね起きて、出口に向かって走っているのが、確認できる。

「すごい揺れだね……。」
「ふーちゃん、どこにいるんだろう……。なにも、なければいいんだけど。」
『風花さんは無事です。わたしが保証します。』

ファイアリのやけに真剣な声に、彼女を信じ、ふたりもうなずく。
出口を抜けるのと、大きな音をたて、自分たちがいた建物がくずれ落ちたのは、ほぼ同時だった。全員脱出できたのが、なにより安心だが、もし、一歩でも遅れていたらと思うと……ぞっとする。
さきほどは、せっぱつまっていたためファイアリをあっさり信じたものの、本当にだいじょうぶかは、誰にも分からない。輝は、みょうに大きな不安にかられ、向こうへ続く道の先を見つめた。




建物が、煙をあげてくずれ落ちるのが見えた。全員脱出できていることを願うけど……。

「くそっ。こんな離れてなけりゃよかった!」

ひとり、そうさけんだ。
やっと距離が近づいてきて、数十人の人々が、あぜんと崩れていく建物を見上げていた。

(あっ、いた!)

『フェーダ』の奴らだ。元々いたところは少し高くなっていたからよく見えたけど、走り始めるとなかなか見えなくて……やっと確認できたぜ。
俺は、天馬の元の方にさけぶ。

「天馬——ッ!」
「((ハッ ユ、ユエ!? どこにいたのっ。」
「悪い。ちょっと風に当たりに……。」
「良かった、ふーちゃん。無事だったんだね。」
「やあ。」

あ、来たよ。サリューが。

「SARU……君は、『フェーダ』だったのか!?」

天馬のさけび声が、すごく遠くに感じられた。
あ、あれ……? 気のせいか?
それにしても、酷いありさまだな。まわりにいる『フェーダ』は、全員銃を装備していて、こちらがなにか仕掛けようとしたら、撃つつもりでもいるのかな。
あの銃って、銃刀法違反には引っかからないのかね。
サリューがフェイを見つめた。と、その瞬間、フェイが「うっ。」と小さくうめく。その時点で、もう体は勝手に動いていた。フェイの元にかけ寄り、「フェイ?」と声をかける。
フェイの状態は悪化し、頭をおさえると、その場にくずれ落ちた。

「フェイッ。」

天馬の悲痛な声が響く。
まあ、うん。もし思い出した衝撃なら、しかたないだろうな、この頭痛は。
俺だけがただひとり、平然とした目でフェイを見つめる。
が……。

「あがっ。」

俺の方も、頭痛がしてきた。
なんだ、この音……! キィーンッて、すげぇ嫌な金属音みたいだ……!

「ううっ。」

体をくの字に曲げ、ひざをつく。

「えっ、ユエ!?」

フェイのような症状をうったえるふたり目の人間に、みんなの戸惑った空気が感じ取れた。
でも、そんなの、気になんてできないほど、苦しい。
ああ、ダメだ。もう、意識が、持たな……。

     ☆

フェイが目を覚ますと、着がえられており、ベッドに寝かせられていた。

「あっ、フェイ。気がついたやんね。」
「黄名子……。」
「うち、なにか持ってくるやんね。」
「いや、おれたちが持ってくる。おまえは話してろ。」

車田が言い、他の者たちにも言って、黄名子とフェイだけを部屋に残し、退室する。

「ぼく……?」
「とつぜん倒れちゃって、みんなびっくりしたやんね。……あ、でも、風花は全然驚いてなかったやんね。」
「あっ、ユエは?」
「風花? 風花は、となりの部屋にいるやんね。風花も、フェイみたいにたおれちゃったやんね。キャプテンたちが見にいったけど、まだ、眠ってるみたい。」
「そっか……。」
「会いたいやんね? なら、後で会うといいやんね。うち、見てるから。目がさめたら、呼びに来るね。」

黄名子はほほえんで言うと、部屋を退室した。




『風花さん、もう眠っているふり、止めたらどうです?』

天馬たちが退室してから数分後。ファイアリの声を合図に、俺はぱっちりと目を開けた。
そう。俺はずーっと、寝てるふりをしてた。って言っても、天馬たちが入ってきたとき、目がさめたんだけどな。

『どこまで嫌なひとなんです。』
「いいじゃん、許してよ。」
『にしても、驚きましたよ、フェイさんのことについては。』
「ああ。……注意、しないとな。」
『嫌なものですね、仲間をうたがいながら戦うというのは……。』
「なに言ってるんだよ。俺がセカンドステージチルドレンの能力持ってるって知ったら、みんなも俺のこと、スパイなんじゃないかと疑いなら、やることになるんだ。……まあ、つらいけどな。」

ほんとは、疑いたくなんかないしな。

「じゃ、寝るふり、続けますか♪」

俺はそう言い、ゆっくり目を閉じた。
でも、バカのことに、俺は寝るふりじゃなく、ほんとうに寝てしまっていた。黄名子が入室してきたことも、フェイの話をしていたことも、なにひとつ知らない。


目を覚ましたのは、真夜中の、二時だった。