二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: イナクロ〜なくしたくない物〜4000越え ( No.249 )
日時: 2013/03/30 11:52
名前: 柳 ゆいら ◆JTf3oV3WRc (ID: O59cZMDb)
参照: http://nicoviewer.net/sm18621153

2話   「役に立たぬお荷物」



しんと静まり返り、すごく気まずい、この空気。
沈黙を破ったのは、この空気を作りだした張本人——サリューだった。

「バレちゃったね、風丸風花さん?」
「バラす原因作った本人のどの口が、んなこと抜かしてんだ?」

しまったねぇ。完全にお怒りモードでいっちゃったや★(←黒いぞ)

「どの口って、この口だけど。」

ケロッとした顔で、サリューが自分の口を指さす。
殺すぞ?

「まあ、いいや。けっこうおもしろくなったから。いこうか、フェイ。言い逃れ、頑張ってね^^」

俺の前を素通りし、フェイと一緒に、サリューはいってしまった。
いまぶっ殺したい奴ベスト3の頂点は、あいつになったよ。……いまさっき。

「ユエ……。」

天馬の沈んだ声で、ハッと我に返った。
なにも返せない俺のせいで、しんと静まり返る空気。

「お、俺、試合あるから……。」

この空気が嫌で、俺はフィールドへ走った。

     ☆

「月流! おまえ、どこいってんだよ、この大事に!」

もどってきてそうそう、思いっきり頭を殴る水鳥先輩。それを見て、選手のみなさんは、ちょっとひや汗。
そんなみんなとは違い、平然とした顔で、鬼道監督はこちらに歩みよってきた。

「フェイの代わりに、おまえを出す。いいな。」
「あっ、はい。」
「頼んだぞ、月流。」

めずらしく、剣城の方から声をかけてくれた。俺は、まださっきのことが吹っ切れず、とまどい気味に、「ああ。」と返す。それを感じとったらしく、剣城はキッとこちらを見て、

「試合に集中しろよ。」

と言い、フィールドに歩いていった。

「おい、月流。はじまるぞ!」
「は、はいっ。」

うーん、でも、ちょっとなぁ。
フェイのポジションにつく=FWにつくってこと。FWが苦手な俺にとっては、あんまり良くない条件。
仮にも、元フィフスセクターで、訓練されていたくせに、なにぬかしてんだ、と自分でツッコんでおこう。
ただ、あっちの出方には、注意したいところだな。あのラフプレー、友撫と同じくらい酷いぞ?

「……れ?」

いきなり、視界がはっきりしなくなった。まわりがすべてくらみ、あげくの果てにまわりはじめる。

「ッ……!?」
「月流?」

となりの剣城の声が、遠くに聞こえる。
視界がまわるのが最悪かと思ったのに、重なって、頭痛とおかしな、ここちの悪い声まで聞こえはじめた。

『頭おかしいよねぇ。』
『気持ち悪ッ。』
『寄るなよ!』
『……ねばいいのに。』

いまの……母さん……?

『死ねば、いいのに。』

この一言、聞きおぼえが……。
……あ。
分かった……。これは、幻聴なんかじゃない。
全部、昔いわれたのと同じだ。
最初の3つは、いじめられていた時代に。
最後の声は……《いつもの》病院で。
くり返し聞いているだけなんだ。
そう思ったとたん、急に体が軽くなって。
抵抗も出来ず、前のめりに倒れた。

『しッ、試合開始直前に、選手が倒れ——……。』

音なんて、なくなってしまえばいい。
そう思ったのは、今回で6回目だった。

     ☆

試合を立ち見して、黙っていた少女は、思わず舌を鳴らした。
実に、お荷物。どこまでもついて来て、けっきょく、全部足を引っぱるのだ。
少女は、見れば見るほど思った。
彼女は、どこまでも役に立たない、足手まといな奴なんだと。

「やるなら、ちゃんとやりなさいよ。」

小さく、つぶやいた。イライラは間もなく、ピークをむかえる。
ブチ切れる前に、少女は、黒髪を揺らし、彼女に背を向けた。
出口に延びる通路に足をふみ入れ、少女は携帯をとり出す。ああ、リミットなのだ。
少女はやっとすっきりし、口元にうすい笑みをたたえ、ホイッスルの鳴りひびくフィールドへ顔を向けた。
彼女はいない。すがすがしいが、すこしいらだつ。
矛盾している感情とともに、少女は消えた。
言葉どおり、すぅっと。


赤く丸い、髪飾りを残して。