二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: イナクロ〜なくしたくない物〜5000越え ( No.297 )
- 日時: 2013/08/09 06:33
- 名前: 柳 ゆいら ◆JTf3oV3WRc (ID: J69v0mbP)
9話 「猫の配達員」
「いたッ。」
「えっ、また?」
試合が後半に入って、五分。俺は、またあの頭痛に襲われていた。なぜかは分からないが、生で見てるより、テレビで観ているほうが、痛みが軽い。
でも……いったい、なんでなんだろ?
「だいじょうぶ?」
「うん……。」
しょうじき、ちょっと不安だけど……ここで輝にそれを言ったって、なんの解決にもなんねぇしな。あるていどは耐えなきゃ。
テレビに目をもどすと、サリューがいた。なんか……笑ッテマスネ。コッチガ痛イ思イシテンノニ。フザケンナ、ゴラクソ。
「……ふーちゃん?;;」
「ん? どうした、輝?」
「ふーちゃん! 目が怖い!」
そうなの? 俺、知らんわ。もしかしたら、サリューへの恨みがあふれてるのかもねぇ。
……サリュー?
そういえば、サリューが俺の《半個半幽》を悪化させるようにしたんだよな。で、それはたぶん、あの指を鳴らしたので発動した。
……いま思い返せば、あの行動はそうとうキザに見えたけど。
で、俺が頭痛になった共通点っていったら……なんか見たら痛くなったような……。
あっ、分かった!
「輝、テレビ消して!」
「え? あ、はい!」
俺の声に飛び跳ねながらも、輝はピッとボタンを押して、テレビを消す。
分かったよ、いまさらながら。
天馬とフェイだよ。
あのふたりが動くと、俺の頭痛がしたんだ。
つまり、あいつらが動くのを見る度に、俺は頭痛に襲われるってわけ。
いやぁ、ほんと。気づけてよかったわ。これ以上悪化してもらっちゃ困るし。
「あの、入っていいですか。」
扉の向こうで、聞き慣れた声。よゆうも出てきたし、からかってやろうか。
「入っちゃ駄目です。」
「月流!?」
あ、こいつ! 入っちゃ駄目って言ったのに、問答無用で入ってきやがった!
入ってきたのは、相崎。俺を見るなり、ほっとした表情を見せる。
……な、なんだよ、こいつ。いつもと、ちょっと違うじゃん。
「月流、目ぇ覚めたんだな。よかった……。」
「へ、へえ……俺のこと、心配してたのか?」
「ああ。いちおう、藤白ヶ丘のサッカー部仲間だったしな。心配くらいするぜ。」
「……あっそ。」
いつもは、そんなこと言わないくせに。
相崎は「あ、そうそう。」と俺に歩み寄り、一枚の封筒を差し出した。
「へ?」
「これ、おまえ宛に。なんか、猫がもってきた。」
「ね、猫?」
なんで猫なんだ? 不思議でしかたないんだが……。
まあ、とりあえず俺宛の手紙だし、ということで受け取り、中身を一瞬チラッとみてから、バッとしまった。
……駄目だ。
まさか、と思って差出人を見ると、
『from 記憶の氏』
案の定! フォログラムにしなかっただけ、ありがたいもんですがね!
とりあえず、のぞき見されては嫌なので、相崎たちには退室していただきたく……。
いや、輝も相崎も、真剣に「のぞき見するな。」って言われたらしないひとたちだし、まあ、この経にいてもへいきか。
「ふたりとも、悪いんだけど……。」
「ああ、分かってる。のぞき見するな、だろ?」
「うん。」
「分かったよ。」
輝と相崎が、同時に目をつぶる。以心伝心してますね!
俺は、そっと手紙を取り出す。すると、書道の楷書(かいしょ)のお手本みたいな文字が現れた。
『 いつもの前振りはなしじゃ。
どうじゃった? サリュー・エヴァンとかいうやつに力を貸してみたが。おまえの両親には、《半個半幽》の進行を遅くするように言われておったのじゃが、それじゃあつまらんからの。
この試合が終わったら、記憶を消せ。』
そこで、手紙は終わっていた。
——試合が終わったら——
その言葉が、俺に重たくのしかかる。