二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: イナクロ〜なくしたくない物〜6000越え!? ( No.305 )
- 日時: 2013/08/17 07:33
- 名前: 柳 ゆいら ◆JTf3oV3WRc (ID: J69v0mbP)
11話 「好きなのは覚えているのに」
『誰か』が、好きだった。
思い出せないけど、『誰か』と出会って、その子は、ぼくに優しくしてくれていて。それに、すごくおもしろかったと思う。
サッカーも大好きだった。上手だったし、ぼくらとやるときも、決してその子は、出し惜しみしたりなんかしなかった。思い切った選択もしたし、底抜けに明るかった気がする。
でも、やっぱり肝心の『誰か』が思い出せなかった。
——風花SIDE——
ミーティングルームを幽体でうろうろしていたら、『ルナ』……じゃない。アユナが現れた。まだ、気絶してるみんなのうえを、ぷかぷかしてる。
「アユナー?」
「あっ、ユエ……じゃない、風花だっけ。」
「うん。」
「よくやったわねぇ。」
アユナが半分あきれ顔で、倒れているみんなを見る。
うるせえな。
「やりたくてやったわけじゃねえし。」
「知ってるわよ。あんたが記憶を消すことをためらわないほど、冷酷じゃないことくらい。」
じゃあ言うなっ。
「それより、もう目を覚ますわよ、このひとたち。そうなったら……。」
「……うん。」
サリューとかそのあたりは、記憶の氏が消しといてくれるはずだし。
俺は、扉をすりぬけ……というか、壁をいっきに通りぬけ、キャラバンの上に座る。
ああ、これで終わりか……。
胸が締め付けられているような苦しみに襲われる。
できることなら、もっといたかったよ。でも、期限ってものは、なんにでもあるんだ。
だから、それは受け入れる。
数分後。バタバタとあわただしくキャラバンに乗りこんでいくみんなを、俺は上からじっと見ていた。幽体って、べんりかもしんねえわ。
となりでアユナが、俺をじとっと見てる。
「なんだよ。」
「ほんとにいいわけ? これで。」
「いいわけないじゃん。」
しょうじき、記憶の氏をぶっ飛ばしたいくらいだよ。絶対ねらってたよね! としか言いようがないし。
だけど、さ。
「ここであがく必要は、ないと思うし。」
どうせ、消えてたんだ。
それが、はやくなっただけなんだから。べつに、後悔とかしてない。
ふいとこちらから顔をそむけるアユナ。
「出発するっぽいね。」
アユナが、閉まった扉を見ながらつぶやく。俺も、無言でうなずいた。
「タイムジャアアァアアアァァァァアアアンプッ!」
キャラバンの中から聞こえるワンダバのさけび声さえ、なんだかなつかしくなってしまう。
☆
「ついたー!」
天馬が両腕を、茜色に染まっている空に向かって突き出す。
うん、故郷だもんね。ぞんぶんに堪能してくださいな。
「現代だー。」
「なつかしいね〜。」
この輪の中に入れないのが、ちょっと残念ではあるけれど。
でも、これでいいや。これからは、天界からじーっとこいつらを見てるわ。
「ひゃっほーい!」
そんな声をあげながらキャラバンから躍り出てきたのは、友撫。着地するとくるくるまわって、そこにあるのは満面の笑み。
俺がいたら、きっとできないであろう笑み。
俺がいたら、不安でしかたなくさせてしまっていただろうから。
「友撫、はしゃぎすぎだぞ。」
水鳥先輩がわらいながらキャラバンを降りる。
……うん。もう、いいや。
この光景を見られただけで、じゅうぶんだよ。
俺は、アユナをふり返る。アユナも俺の視線をとらえると、こくっとうなずいた。
——???SIDE——
天馬たちを現代に送り返しても、やっぱり『誰だったのか』というのが、さっぱり思い出せなかった。
天馬たちにきこうかとも考えたけれど、やめた。ぼくが分からないんだったら、きっと、天馬たちも知らないだろうし。
好きなのは覚えているのに……『記憶』にいない。
いったいなんでなのか、ぼくには分からなかった。