二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: イナクロ〜なくしたくない物〜 ( No.320 )
日時: 2014/01/08 18:45
名前: 柳 ゆいら ◆JTf3oV3WRc (ID: J69v0mbP)

☆番外編☆第二十話   「アメリカ」



あのあと、風花と母は、なんだか気まずくなってしまった。
友撫がいるときは、彼女を心配させまいと、風花なりの姉としての気づかいをして、母とは会話をしていた。風花の気持ちに、良いのか悪いのか、気づいていないようすの友撫は、ふたりの会話に割って入るように、いつも楽しげなのはいいのだが。
風花としては、精神的にキツい状況下にあった。

「おはよう、友撫。」

声をかけると、友撫はうれしそうにこっちを向いて、ぎゅっと抱きついてきた。
最近、風花はいわゆる、「しすこん」というやつなのだと気づいた。母に教えられてパソコンをいじくっていたら、「姉妹が可愛すぎて……」という旨の文章を見つけ、自分もいくつかそれに当てはまった。
でも、友撫が可愛すぎて、かわいがってしまうのは、べつに「しすこん」と関係ないと思っているのだが……どうなのだろうか。
友撫の頭をよしよし、となでながら、キッチンにいる母を見た。

(また、ひとりだ。)

まだ小学生低学年という、幼いながらも、風花にはなんとなく分かっていた。
母と父が一緒にいない。つまりそれは、離婚もあり得たりするわけだ。
そんなに簡単に、夫婦の関係がくずれるわけではないと信じているが、うちの場合はいろいろと例外だ。
例外——ではなく、ある一部の家庭には、ある話なのかもしれないが。
風花が学校に行くのをやめて以来、風花は父を見ていない。
恐くて外は出歩けないから、見ていない。でも、家に帰ってきて、母と楽しそうに話しているのも、見ていない。

「にいにー。」

友撫の呼ぶ声で、風花は我に返った。すぐににこっと笑い。

「よし、友撫ちゃん、お着替えするよ。こっち、こっち。」

比較的キッチンに近い、たたみの部屋に行き、友撫を着替えさせる。幼稚園児なので、遊んでいるつもりなのか、あちこち走り回ったり、ごろごろしたりする。

「もう、駄目じゃん、友撫ってばっ。」

笑いながらさけび、友撫をひっ捕まえて、着替えに連れもどす。あるていど風花が油断したら、友撫がまた暴れ出す。それが、平日の毎朝のことだった。

「にいに、こっちだよー!」

楽しそうに走り回る友撫を見ていると、なんだか捕まえたくなくなってしまうが、捕まえないと幼稚園に行けない。
友撫の腰に腕を回し、ぐいっと自分に引き寄せると、すっぽりひざのなかにおさまった。

「もう、友撫。いい? お着替えするときは、じっとしてなきゃ駄目だよ?」
「うー……にいに、おもしろいのに……。」

じっくり言い聞かせようとすると、友撫はこういいながら、うるうるした瞳をこちらに向けてくる。
シスコンとしては、もう限界。

「ううっ……。よ、よし。五回だけなら、おふざけしてもよし。」
「やったぁ! にいに、だいすきぃ!」

自分の胸に飛びこんでくる、自分より幼い子ども。
この子には、まだ家のことまで考えさせるのは、むりだ、やっぱり。

     ☆

コンコン、とノックの音が響き、次いでがちゃりと扉を開ける音がした。ふりかえると、母がおだやかな笑みを浮かべている。

「風花、いま、いい?」
「あ……。」

母から話しかけてくれたのは、陽子先生と話していた日以来、はじめてだ。
つまり……。

(もう二週間も……。)

はやいものだ。
特に断る理由もないので、先を歩く母の後ろにつき、リビングに向かう。
風花がいすに座ると、母はすぐそばの棚から一冊の本を取り出し、あるページを開くと、つくえの上に置いた。
それは、アメリカだった。

「お、お母さん?」
「行こうと思うの。」

とっぴょうしがなさすぎて、何秒間かかたまってしまう風花。
だが、理解できてくると、疑問がうかんだ。

「いつ? どうやって? あと、あと……誰と?」

誰と、というのが、いちばんききたかった。
母は、アメリカの地図をじっとながめながら。

「二週間後くらい。飛行機で行くわ。もちろん、家族全員で行くのよ。」
「家族……全員? お父さんも?」
「ええ。」

予想以上に、母はあっさり肯定した。