二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: イナクロ〜なくしたくない物〜更新再開の大号令〜 ( No.346 )
- 日時: 2015/03/17 11:33
- 名前: 柳 ゆいら ◆JTf3oV3WRc (ID: x/gr.YmB)
☆番外編☆第三十一話 「時間」
うつらうつらしながら、風花は窓の外を眺める。雲がこんなに間近で見られることが、また近くあればいいな、なんて思う。
案外、飛行機の旅は楽しかった。
「♪どらやき、うまし。びみびみ、やみー。べりーないす♪」
友撫は、わけの分からない歌を口ずさみながら、両手に花ならぬ、両手にどら焼きである。
母は黙りこくっていて、父は寝ているようだ。ぐったりと、頭を垂れている。
ずいぶん変わってしまったなと思う。うちって。
(前は、こんなに冷たくなかったような……)
温度が違う。
機内は快適な空間を保つため、湿度も温度も、きっちり管理されているはずなのに。
風花たちの席だけ、冷気すら感じてしまう。
友撫がのんきな歌を歌っていることだけが救いだ。すっかりどら焼き愛好家になった友撫は、まわりが黙りこんでいることなど気にも止めず、もぐもぐと、どら焼きを食している。
徐々に強くなってくる眠気に耐えかね、風花は重たいまぶたを、重力に任せて閉じた。
☆
「……?」
首をかしげ、空を見上げた。
すると、ちょうど一機の飛行機が、頭上を飛んでいる。小指のつめほどのおおきさの飛行機は、このあたりにある空港に向かって行っているようだ。
——もう、別れてだいぶ経つな。
ふと、そんなことを思う。
だいぶ経つ、なんてほど、彼女が学校を去ってから、実質時間は経っていない。感覚的な問題だ。
彼女がいないだけで、びっくりするほど、小学校生活は味気ないものになってしまった。家が遠いわけではなかったから、ときどき会うと笑顔で手をふってくれたり、ときには喋り書けてくれたりして……。
そういえば、彼女が小学校を去ってしまうちょっと前。もし勘違いならいいが、彼女はおれのことを、避けていたような……。
(まあ、けっきょく転校して、別の学校に移ったんだけど。)
遊具にごろりと寝転がり、抜けるような青空をあおぐ。この公園は、遊具のあちこちがぼろぼろになっていて、近くにある真新しい公園のほうが、子どもは多い。
今日はあえて、ここに来た。
もともと、転校が多くて、馴染むためにみんなに合わせて……そんなふうにしていて。
でも、彼女がいるときは、自分をちゃんと出せていた気がする。
彼女がいなくなって、またおれは、まわりに合わせて、自分を出せずにいる。
だから、ちょっとひとから離れたかった。
こんなことをしたからって、どうにかなるとは思っていないけど。
「帰ってこないかなあ……。」
口にしてみても、むなしい。
だって、帰ってきてくれる確率は、0に近いから。
☆
どら焼きを食べながら、友撫は首をかしげる。あんまり真面目に説明を聞くほうではないから、いつもこうなのだけど。
きちんと理解した風花は、友撫のまだちいさい手をにぎって、こくっとうなずく。
「分かった、いってらっしゃい。」
「駅、間違えちゃ駄目よ。」
「うん。」
「友撫のこと、頼んだぞ。」
「うん、分かってるよ。ふたりも、気をつけてね。」
風花がにこっとして言っても、ふたりは笑ってくれない。なにを考えているのかよく分からない表情で、こっちを見ながら、会話を続ける。
「……ねえ。」
「なに?」
すっと、小指を指して出すと、母は不思議そうに顔をしかめる。
「指切り、して。」
頼むと、両親はしかたなさそうにため息をついた。
「いいわよ、約束ね。」
どうしても、もどって来てほしかった。
無性に、不安になった。
破ろうと思えば簡単に破れてしまうような約束方法で、母と風花は、細くつながる。
すぐに指を離した母に、風花はあわてて言う。
「気をつけてね。」
「ええ、行ってくるわ。」
「……行ってらっしゃい。」
友撫の手をにぎっていない片方の手を、ちいさくふる。
……いつから、こんなになったんだろ。
ふたりの背中が人混みにまぎれていくのを見ながら、ぼんやり思う。よく、覚えてないけど。
ふたりはすこし手続きをするため、たしょう時間がかかるらしい。だから、風花と友撫は先に自宅近くの駅まで行って、待っていろということだ。
しかたない。ひとって、変わっていくものだよ。
まだどら焼きをもぐもぐしている友撫の手をくいくいと引いて、歩みをうながす。
「行こう? 友撫ちゃん。」
「? うん。」
駅のほうに向かって歩きながら、ちらっと後ろをふり返ってみる。
当然、両親はふり返ってなんていなかった。
まして、両親の姿など、人混みにもみくちゃにされてしまって、認識すらできなくて。