二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: イナクロ〜なくしたくない物〜2章7話更新&600越え ( No.69 )
日時: 2012/08/20 17:48
名前: 柳 ゆいら ◆JTf3oV3WRc (ID: z52uP7fi)

☆番外編☆第一話   「赤ちゃん」



「風花ー、いいかげん帰るわよ。」
「わかったよ、ママ。」

寒い真冬の公園。風花は母によばれ、ちょっとふくれながらもどった。そんな風花がもどってくると、母はふふっとわらう。

「なんでわらうのさ、ママったら。」
「だって、ふくれてるのが可愛くて。」
「な、なにそれ……。だって、もうすこし遊んでいたかったんだもん。」

それに、学校へもいきたいと思わないしと、風花は心のなかでつけくわえた。
母はそんなことも知らず、


いまの風花は幼稚園の年中さん。ことばもすぐおぼえて、いろんなことに興味をむけていた。とくに、小さい子どもなんかは大好きで、年少の子とは、毎休み時間、遊んでいた。年少の子たちも、風花が大好きなようだった。


「風花、なにボーッと……あっ、風花、あぶな……。」
「え? ふぐえっ!?」

母がさけんだのはこういうことか、と風花はじんじんするひたいをおさえながら思った。ボーッと歩いていて、目のまえにあるとびらに気づかず、思いきりひたいを打ちつけてしまたのだ。

「いったー……。」
「だいじょうぶ!? もう、ちゃんとまえを見なくちゃ!」
「はーい。」

すなおにそう小さい声で答えた風花の声をかき消すように、キキーッとタイヤとアスファルトのこすりあう音がきこえた。
ふたりがふりかえると、家をかこんでいる塀のむこうに、車がとまっている。母が、ハッとして車にかけよった。

「もうきてくださったんですね。」

母が車のあいたまどの中に話しかけると、運転手が顔をだした。三十歳ぴったりの母よりも、すこし年下くらいの、わかい少年だ。

「ええ、まあ。だって、とどけるものが『赤ちゃん』となると、いそがないとでしょう。」
「ありがとうございます。」

母が車の運転手にむかってあたまを下げているのを、風花はふしぎそうでありながらも、おもしろそうだと思いながら見ていた。
あまり話をきかず、風花はぴょこぴょこと母の元にかけていく。

「ママ。」
「なあに、風花。」
「このひと、だあれ?」

風花が少年を指さすと、母はしかった。

「こらっ。ひとを指さしちゃいけません。すいません。」
「ハハハ。いいんですよ。これくらいの子は、よくやりますって。だいじょうぶですから。」

少年はさわやかにわらうと車から降り、風花のあたまをなでた。

「よしよし、可愛い子だね。」
「ありがと、お兄さん。」
「お礼がいえるなんて、すごいんだねえ。」
「だって、年中さんだもん。お礼くらい、いえるもん。」

風花はすこしえばった感じで、そういった。母はクスリとわらい、少年は「そっかあ。」と感心した。

「あっ、そうだ。」

少年はハッとして、車のうしろにかけていき、すこしして、布にくるまれた『なにか』をもってきた。得体の知れないものに対し、風花はすこしこわくなって、母のうしろに入る。

「こわがらなくても、だいじょうぶだよ。」
「そうよ、風花。あなたとおなじ、女の子なのよ。」
「えっ、女の子? ってことは、子どもなの?」
「そう。あなたより、もっと小さい子よ。」

風花はそういって、少年の手の中にあるものを見ようと、ぴょんぴょん跳びはねた。少年はクスリとわらい、かがむと、赤ちゃんを見せてくれた。
まだとじている、小さい目。ぷくぷくしたやわらかそうなほっぺた、丸々としている手足は、とても小さい。風花は思わず、数秒間じーっと見入ってしまった。自分も赤ちゃんのときは、こんなふうに可愛かったんだろうか。こんなふうにぷくぷくして、やわらかそうだったんだろうか。

「ふふふ。風花ったら、興味津々ね。」
「いいことじゃないですか。いろんなことに興味をもつっていうのは。」

少年はわらうと立ち上がり、母に子どもをてわたした。

「ありがとうございました。」
「いえいえ、そんな。では、おれはこれで。」

少年はにこっとわらって、車に乗りこむと、エンジンをかけて、どんどんはなれていってしまった。

「感じのいいお兄さんだったわね、風花。」
「うん。風花、あのお兄ちゃん好き!」
「ふふふ。風花、いいこと。ひとを好きになるって、とってもすてきなことなの。だから、自分の大好きなひとがひとりでもできたら、猛烈アタックよ☆」
「好きなひと? いっぱいいるよ! おなじヒメユリ組のももこちゃんでしょ、それから、なほちゃんでしょ。あと、ゆうかちゃんに、小雪ちゃんに、風音シオンちゃんでしょ。あと、年長さんのちぐさちゃんに、萌ちゃん。それに、それに……。」
「そ、そういう好き;;」
「あとは、ママとパパ!」

それをきいて、母は胸にじーんと熱いものを感じながら、風花のあたまをなでた。

「きっと、きょうからこの子も、その『好きなひと』たちの中に入るわね。」
「そうかなー。でも、風花、ぜったい好きになってあげる!」
「風花は天然ちゃんなのね。」
「? テンネンってなあに?」
「こんど説明するわね。……まあ。」

母が上を見上げて、にこりとほほえんだ。風花も見上げてみると、白いものが、上から降りてくる。これは……。

「わあ、雪だあ!」

風花ははしゃぎながら、あたりをかけまわった。それとはまたちがい、母も心の中でうずく子ども心をおさえこんで、

「風花、カゼひくわ。中に入りましょう。」
「えーっ。ぷう、わかったよぅ。」

風花は母のあとにつづいて、家の中に入った。
これからたくさん過ごすことになる、小さな子どもと一緒に……。