二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: イナクロ〜なくしたくない物〜番外編更新中&700越え ( No.86 )
日時: 2012/08/25 16:53
名前: 柳 ゆいら ◆JTf3oV3WRc (ID: z52uP7fi)

☆番外編☆第七話   「不満」



「んっ……。」

風花が目を覚ますと、そこは病院だった。ふかふかの布団が感じられる背は、ズキズキといたんでいる。まだぼやけている景色のなかに、ひとがいることが確認できた。

「気がついたのね、風花ちゃん!」
「よかった!」

そのなかでまっ先に声をあげたのは、お昼寝の部屋にいた戸谷先生と中村先生だ。

「せんせ……?」
「お医者さんが診てくださったのよ。ケガはまだ浅いんですって。」
「ケガ?」
「背中を切りつけられちゃったの……。」

戸谷先生のいったことで、やっと自分の背中がいたむのか、理由がわかった。

(ナイフだよね、あれ……。それに、パパだった、あの顔……。)

風花のなかのショックは、なかなか立ちなおれないものだった。自分の父に、自分が切りつけられるなんて……。

「風花!」

バンッと病室のとびらがいきおいよくひらき、見ると、母が友撫を抱きかかえて入ってきた。かなり緊迫した表情だ。

「風花ちゃんのお母さん!」
「ママに、友撫ちゃん……。」
「風花、いたいのはどこ? やっぱり、背中なの? ああっ、あのひとは!」

母は友撫をだきながら、いらだちとなげき、そして、心配のすべてを、ことばにだしていた。自分の気持ちをかくせないのが、風花の母であった。

「ママ、だいじょうぶだよ。風花、ちょっと背中はいたいけど、へいきだもん。……それより。」
「なあに、風花。なんでもいってちょうだい。」
「……あのあと、パパはどうなったの?」
「パパは……。」

母はいいよどみ、しばらくしてから、思いきって告白した。

「あのあと、警察がつれていったわ。園長先生が、念のため通報しておいたんですって。まったく、むりもないわ。あの年齢で、幼稚園児を刃物で切りつけるなんてなったら、逮捕もいいところよ。まあ、あたりまえですけどね。」
「ママ、パパはきょう、帰ってくるの?」
「帰ってくるわけないじゃない! なに、風花はそんなにパパに会いたいの? 自分を刃物で切りつけた、最低の父親と!」

母は口走ると、はあはあと荒く息をした。中村先生がいう。

「おちついてください、風花ちゃんのお母さん。」
「中村先生……っ。」
「風花ちゃんのいっている意見も冷静にとってあげるのが、おとなというものじゃないですか。きっと、風花ちゃんはまだ、よく理解できていないだけなんですよ。
  あと、風花ちゃんの傷は浅いものの、入院しなくちゃいけないらしいです。」
「……わかり、ました。ここまでやってくださって、ありがとうございました。」

母は、ぺこりとあたまを下げた。だが、母の顔は、まだ不満そうだったと、風花はひとり、感じていたのだった。