二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: イナクロ〜なくしたくない物〜番外編更新中&700越え ( No.92 )
日時: 2012/08/26 12:32
名前: 柳 ゆいら ◆JTf3oV3WRc (ID: z52uP7fi)

☆番外編☆第八話   「くもり空」



カラカラと音をたてて、病室のとびらがひらいた。

「あっ、みんな。」
「だいじょうぶ、風花ちゃん?」
「ケガいたいの?」
「いたいのいたいの飛んでいけしてあげようか?」

風花のすわっているベッドに、幼稚園からきてくれた園児たちがわっと群がる。そのなかには、年長さんできたばかりの輝もいた。

「へ、へいきだよ、風花は。みんながきてくれて、うれしいよ。」

風花はそういうと、にこっとみんなにわらいかけた。だが、そのわらいは、いつもよりも弱々しくて……。

「面会の時間すくないから、もうでちゃいますよ。残りたいひとは?」
「風花ちゃん、ごめんね。わたし、ピアノの練習があって……。」

ちぐさが、両手を顔のまえであわせて、あやまった。ほかの子も、家の用事があるとか、習いごとがあるとか、歯科にいかなければいけないとかいう理由で帰っていった。残ったのは、輝と風花、中村先生の三人だけ。

「輝はだいじょうぶなの? 帰らなくて。」
「うん、おれはへいき。明日は、ちょっとむりだけど。それより、風花のほうがだいじょうぶなの?」
「風花はへいき……だよ。うん。」

きのう母に話されたことがまだあたまであまり理解できなく……いや、したくなくて、あまりへいきではないのだが。
輝にそんなことをいってしまっては、心配させてしまうだろう。

「そっか。ならよかったや。」
「お母さんからのお話は、どうだった?」
「えっと……ちょ、ちょっと難しかった……かな。」
「そうよね、そりゃ。あっ、やだあ。先生ったら、男の子と女の子の大切な恋愛(はぁと)ムードを台無しにぶちこわしちゃう存在じゃないの☆ じゃあ、ちょっとでてるわね☆」
「えっ、ちょ、先生!?」

いいたい放題いった後、中村先生はバタンととびらをしめ、でていってしまった。

「れんあいむーどってなあに、輝?」
「えっ、そ、それは……//」
(ふ、風花、意味知らないの!? おれが教えるとか……はずかしすぎるっ////)
「なな、なに? 熱でもあるの? すっごく赤いけど……。」
「ええっ!?//// い、いや、べつにっ……///////」
「かくしちゃだめだよ。こっちきて。」

この年齢で赤くなっている輝もどうかとは思うが、風花が輝に手招きをする。輝は頑としていこうとしないが、風花は「はやくおいでよ。」と手招きをつづけていた。

「風花さんの面接にきていたかた、そろそろお時間ですよ。」
「あっ、はい。」

輝はホッとしたようにしながらも、さびしそうにチラッと風花を見て、部屋をでていった。
パタンと音がしてしまったとびらを見つめながら、風花は、思わず小さなため息をついてしまう。しょうじき、つかれてしまった。
友撫がきて、父が幼稚園におそってきて、母がいきなりこわくなってしまって……。なんだか、もうわけのわからないことのフルコースという感じで……。精神的にも体力的にも、限界だということが、自分でわかっているほどだった。

(パパもママも、すっごく仲悪くなっちゃったな。なんでだろう……。友撫ちゃん、どうなっちゃうんだろ……。)

自分より、友撫のことのほうが心配になる。
風花は、まどを見上げた。大きなまどは、空がいっぱいいっぱい見えていた。気持ちのいい空ではなく、暗い雲の出た、気持ちの悪い天気。いまにも雪かなにかが降り出しそうだ。
部屋からながめるくもり空は、なんだか悲しくなってしまって。

カラカラ……

くもり空をながめていたらとびらがひらき、看護婦が入ってきた。

「これ。さっききた男の子が。」
「えっ、風花に?」

風花は、看護婦にもらったものを手にとった。少しうすめのふつうの紙で、いくつかに折り込まれている。

「なんだろ……。」

風花は、紙をひらいた。

『ふうかへ
  からだだいじょうぶ? げんきになったら、またあそぼーね。
  ふうかのこと、ふーさゃんってよんでいい?』

「ぷっ。輝、まちがってるし。」

風花は思わずふきだした。「ふーちゃん」だったのだろうが、「ち」と「さ」をまちがえたらしい。

「……いいよ、ふーちゃんでも。」

風花はぽつりとつぶやいた。