二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

第零幕 色の浸食  ( No.2 )
日時: 2012/07/15 22:28
名前: 無雲 (ID: C5xI06Y8)

月のぼり 風が吹く夜 闇見れば
 空国むなくにに立つ 四つの戦仔いくさご
「・・・またそんな歌を作っているのか。」
男は窓の外を眺めている女に向かって苦々しく言った。その言葉には、かすかな非難の響きがあった。
「こんな夜にはこういう歌が詠みたくもなるのよ。」
相変わらず外を見ながら言う女の顔に月の光が差す。
その光の中で彼女の黒い髪がさらりと揺れた。
男は小さくため息をつくと、夕餉ができる前に一階に降りて来いと言って女のいる部屋を出て行った。
部屋には再び女だけになり、静寂が空間を支配する。
「紅の(くれないの) 花を散らせし 戦鬼いくさおに
 心優しき 夜叉何処いずこ
和歌を詠み終えると女は少しの間沈黙し、やがて自嘲の笑みをこぼした。
「字足らず。」
明りの灯らない部屋で、月影が踊る。