二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- 第七幕 橙《だいだい》 ( No.17 )
- 日時: 2012/07/08 20:57
- 名前: 無雲 (ID: C5xI06Y8)
*高杉の二つ名捏造。黒本降臨。
遡ること数時間前。
高杉は相変わらず船の窓辺で紫煙をくゆらせていた。先程の不愉快な電話のことを忘れようとするかのように、その煙の量はいつもより多い。
高杉が煙管をくわえ、煙を吐き出そうとした時だった。
ドカーン!!
ものすごい轟音がして船がグラグラと揺れた。
「な、なんだ!?」
万斎が驚いて片膝を立てる。その時部屋の襖が開き、金髪の髪をした少女が入ってきた。
「大変ッス晋助様!甲板に船が突っ込んで来たッス!」
金髪の少女———、来島また子が慌てた様子で言う。
それを聞いた万斎が立ち上がり、小走りで部屋の外へと向かう。だが、
「お、ここにおったがか、探したぜよ!」
襖の陰から赤いコートを身にまとった男が顔を出し、万斎の足が止まった。
「何者でござるか!」
万斎が刀に手をかけ、現れた男を睨む。
「そこの低杉チビ助を迎えにきた坂本辰馬いうぜよ。よろしゅうの!」
万斎の睨みを全く気にせず、にこにこと笑って坂本は部屋の中へ踏み入り高杉の腕を掴んだ。高杉は離せと言って抵抗するが、坂本は聞く耳を持たずそのまま手を引いてどこかへ連れ出そうとする。
「貴様、晋助様に触るな!!」
また子がそう言って坂本に銃口を向け撃鉄を起こし、引き金に指をかけた。
その刹那、
また子の視界を黒い影が横ぎった。
それが何なのか確認する暇もなくまた子の右手の鉄の塊が爆ぜる。それはわずか数秒の間の出来事で、万斎とまた子は何が起こったのか全く理解できなかった。
「おんしは、頭に銃口ば向けるな。」
冷たいものが首筋にあてがわれた。また子が目だけを声がした方に向けると、感情というものを一切消し去った顔が目に入る。
「また子!」
万斎がまた子を救おうと影に切りかかるが、強烈な蹴りを鳩尾に入れられて吹き飛ばされた。
「弥太、やりすぎたらいかんぜよ。」
「分かっとります。」
相変わらずの無表情でそう答える弥太郎に、本当に分かっているのか心配になったがここは彼を信用することにした。
「さ、いくぜよ晋。」
そう言って坂本は高杉を無理矢理部屋から連れ出す。
「いい加減にしろ!離せ!」
混乱した様子の鬼兵隊員達の間を縫い、部屋から数メートル離れたところで高杉は坂本の手を振りほどくと怒りに任せて刀を横一文字に振りぬいた。
坂本はそれをミリ単位で見切ってかわすと、いつもと変わらない笑みを浮かべる。
「危ないのう。周りの人等に当たっとったらどうするが?」
「その時はその時だ。第一テメエ何の用だぁ?」
殺気を振りまく高杉は刀の切っ先を坂本に向ける。
「だから迎えじゃ迎え!総におんしを連れてきてくれと頼まれたちや。」
高杉は切っ先を坂本に向けたまま彼の言葉を反芻する。総というのはほぼ間違いなく緒方のことだろう。
緒方といえば青嵐隊。青嵐隊といえば桂。
そんな等式が高杉の脳内に成立した。
「・・・要するにあれか。お前は俺を拉致りに来たのか?」
「・・・そうとも言うの。」
ブンッ
高杉は再び刀を振りぬいた。坂本が避けながら何やら言っているが高杉は聞く耳を持たない。
「ふざけるな・・・!んなくだらねえ理由で鬼兵隊襲撃だぁ?しかも弥太郎まで連れて来やがって!」
周りの鬼兵隊員は身の危険を感じ、刀を振り回しながら叫ぶ高杉から離れる。
「だいたい弥太郎に手加減なんてできるわけねえだろうが・・・。うちの幹部が死んだらどう責任とってくれんだ?」
高杉がそう言い切ったとき、斬撃を避けていた坂本の動きが止まった。
そして振りぬかれた刀を、どこからか取り出した苦無で受け止める。
刀と苦無。ガチャガチャと音を立てる刃物の間から見えたものに高杉は凍りついた。
「ほう・・・?うちの義弟を馬鹿にするがか。」
見えたのはニヤリと嗤う坂本の顔。しかしその目は少しも笑っていない。
高杉が自分の失言に気が付いた時、彼の体は廊下の壁に押しつけられていた。廊下に背を向ける形に押しつけられたため身動きが取れない。
「ちょおっと我慢しいよ?怨牙の修羅さん☆」
その言葉と同時に高杉の視界はゼロになった。